37話 夏休み始まっての再開、胸元パタパタのチラ見え、日焼け肌ペアルック
海の家バイト当日、最寄り駅までの道のりが、3日分の荷物の重さで、足取りが嫌でも重くなってた。
「暑い……重い……でも、愛実さんと一緒に行けるなら、こんぐらい我慢我慢……」
愛実さんとは電車で途中合流し、2時間電車に揺られ、一緒に向かう事になってる。
愛実さんには夏休みに入って初めて会えるんだ。
つまらない弱音は飲み込んで、足を動かし続けよう。
駅のホームベンチで電車を数分待ち、車両内にゆっくりと腰かけた。
いつもの朝早い通勤通学時間と違って、今の時間帯は車両内がまばらだ。
夏休みは外出でもしない限り、詰み要素と遭遇する事は滅多にないんだ。
夏休み様々だ。
目的地のバイト先も、最寄り駅で戸羽女さんが待っててくれるそうだから、初めての土地でも安心だ。
「お・は・ろぉおお! 積っち!」
「ひゃっほぃ!?」
「あははは! ビックリしすぎじゃない?」
小麦肌がチャームポイントの笑顔が眩しい愛実さんの挨拶に、本気で驚いた。
情けない驚きっぷりに、大変上機嫌な愛実さんが、スススと左半身が触れ合うように隣に座って来た。
私服は夏に似合うベージュのカンカン帽。
ベージュのリブカーディガンを羽織り。
スカラップのブラックキャミソール。
インディゴブルーのハイウエストデニムパンツだ。
緊張と安心の天秤がぐらぐらバランスを保てないのを含めて、恋心なんだと実感してる。
「てか、めっちゃ大荷物じゃん。重かったんじゃね?」
「え? あ、うん。って、愛実さんの荷物それだけ?」
愛実さんの荷物は、足上に置いてる大きめの白いトートバッグのみ。
「ふっふっふ……大きな荷物だけ、昨日の内に宿泊先に送ったのさ!」
「そ、その手があったか!」
「あははは! まぁまぁ、半分持ってやるからさ? こうやって……さ?」
バッグの持ち手の片側を握り、半分持つ予行演習の披露。
楽になるにはなるけど、色々と意識してしまう。
「こんまま一緒に持ってたらさ、何も知らん人が見たら、カップルだと思うんかな?」
「か、カッポォ……」
「あははは! 冗談だって冗談! ふぅー! 今日はいつにも増して暑い暑い!」
パタパタとゆるゆるな胸元を扇ぎ、顔がどんどん赤らむ愛実さん。
そんな一面も含めて、可愛らしくて愛らしくて、好きなんだって実感する。
お陰で再会の緊張は、どっかに吹き飛んだ。
このまま夏休み話題を皮切りに話そうと、改めて視線を向けるも、とある事に気付いた。
未だに胸元をパタパタ扇ぐのもあって、白い紐状の布地がチラチラ顔を覗かせてるんだ。
きっと愛実さんの事だ。
さっきの荷物事情と同様、先を見据えて水着を着てきてるに違いない。
「ん? もしかして、私の首筋に釘付けか?」
「ひ、否定はしないけど……み、水着の紐が見えたんで、準備がいいなーって思ってたんだ」
「あ……ま、まだ着替えておりませんので……ち、違います……」
海の家に着いたら、容赦なく砂浜に埋めて貰おう。
でないと、愚かで下心丸出しな自分が裁かれない。
人目を気にせず即土下座をし掛けるも、食い気味で阻止された。
「つ、積っちになら見られても大丈夫だから!? そ、それに、み、見間違いなんて誰だってあるしさ? ほんと気にしないでくれ!」
「だとしてもあだ?!」
かなり強めのデコピンで、言葉が強制中断。
弾き加減が強烈で、情けなく涙目になってる。
「積っちのアホっち~」
「す、すみません……いたた……」
「あははは! ……本当は全部見せてもいいんだけどな……」
「へ?」
「他の子には言うなよーって言っただけ! 暑い暑い! 冷房効いてるのかな?」
また胸元をパタパタ扇いで涼み始めた愛実さん。
何か試されているの全く分からない。
しかもさっきよりも大胆に扇いで、柑橘系の香りと健康的な小麦肌に意識が向く。
視線が釘付けになる寸前、フワッと視界が手で塞がれ、何も見えなくなった。
「わ、ワザとは駄目だな……あ、ははは……」
「け、賢明な判断だと思います……」
弱気な声色の愛実さんも、流石にやり過ぎたみたいだった。
視界を塞ぐ手も熱くなり、僕が何も言える訳がなかった。
♢♢♢♢
電車移動から1時間強。
穏やかな海辺が窓からチラチラ見え、海が待ち遠しい愛実さんがソワソワだった。
「もうすぐだな! 早く泳ぎてぇー!」
「あと10分ぐらいの辛抱だよ」
「その10分が長いんだよなー! そういや、日焼け止めクリーム持って来てるか?」
「へ? 日焼け止……あ」
記憶の限り、机の上に置きっぱなしだ。
昨日準備中、取り易いように最後に入れようとしたのが仇になった。
目的地目前で、お手軽な夏場対策の凡ミスは痛過ぎる。
「ははーん……さては忘れたなー? そんな事だろうと思って……持ってきました! じゃじゃーん!」
バックから日焼けクリームを出し、早速塗ってやろうかと、クリームを手に出しながら塗る気満々。
今回はお言葉に甘えて、日焼け止めクリームを貸して貰おう。
とりあえず腕だけ塗って貰って、あとは自分でやらないと。
「じゃあ腕だけ……」
「オッケー! ……あ」
「? どうしたの?」
「積っちがさ……そんまま日焼けすれば……私と日焼け肌ペアルックじゃね?」
「ぺ、ペアルック……」
以前、渚さんとペアルックを経験した時とはまた違う、甘美な誘惑。
億劫にならず何事もチャレンジしないと、いざって時に一歩を踏み出せなくなる。
バイトの3日間だけ日焼けしようと、愛実さんに言おうとしたら、愛らしい顔が耳元まで急接近してた。
「夏休み限定の……私達だけしか知らないペアルック……オススメですよ……?」
心臓が高鳴る囁きは、文句なしの決定打になり、熱帯びる顔で頷いてた。




