32話 奥義炸裂、勝者の打ち上げ、天使とのオフ会、トリプルブッキングセッティング
アンデッド軍団から無事脱出成功し、自陣で何が起きてるのか大急ぎで戻ると、えっさほっさ大量の財宝を置いてくラグナロクがいた。
渕上先生が一体何を考えてるか分からないが、3位になった理由がこれで判明した。
《りゃ、りゃぐにゃりょくぅうう!?》
《文字入力の動揺が凄いであります! 総指揮官!》
動揺の満場一致リアクションで、ラグナロクがやっと僕らに気付いた。
ゆっくり視認し、生天目さんへ近距離詰め。
ジェネラルスタイルの通常攻撃CQC炸裂。
通常攻撃CQCは、近くに他プレイヤーがいれば連続で繰り出せる、集団相手向きの攻撃だ。
ただし連続する為に、画面表示されるコマンド入力する必要がある。
その間1秒、連続する度に入力コマンドが増える仕様だ。
ラグナロクは周りのプレイヤーを全て倒すまで続けられ、瞬殺の将軍と異名が付けられた。
外野の付け入る隙がないまま、生天目さんの残りライフ1の絶体絶命な中、頭上からプレイヤー達が突然降って来た。
ラグナロクも思わず動きを止める、突然の来訪者こそ、モチモチとスターニンジャだった。
絶望の天空地ヘブンから落ちて来たんだ。
生天目さんは間髪入れず、ラグナロクに向け奥義ヘルファイアを放った。
擦りさえすればライフ全削りの奥義。
念願のラグナロク打倒まであと一歩のところ、ヘルファイアを可憐に回避。
マーシンさんも応戦レーザーを撃つも、間合いに入られCQCを食い瞬殺。
生天目さんもやられ、2人が瞬殺。
次に僕へと狙いが定めた瞬間、スターニンジャと格闘中だったモチモチが、目の前に現れた。
代わりにCQCを食らったモチモチが、一瞬だけ見せた笑みで、助けてくれくれたんだと分かった。
モチモチの身を呈した助けが無駄にならないよう、バックステップで範囲外まで離れた。
モチモチがやられ、次にゴリリンさんを捉えたラグナロクに、奥義ハートブレイクを撃った。
範囲外からの不意打ち弾道は、いくらラグナロクでも回避不可能だったのか、鍛え上げられた身体にハート型の貫かれた跡が残り、見事命中した。
《マロン! 足下!》
《へ?》
ガオガオさんの忠告も虚しく、アンデッド軍団の存在をすっかり忘れた僕は、呆気なくアンデッドに足を噛み付かれ、ライフが0。
何ともあっけないゲームオーバーになった。
♢♢♢♢
「せ、せっかくラグナロクを倒せたのに、凡ミスでアウト……」
「でも、お兄ちゃん! ラグナロク倒したんだよ! しゅごいのぉ!」
「そ、空こそ落ち着いて」
興奮冷めやらない空も、スターニンジャに倒されたみたいだ。
敗者は敗者らしく、財宝争奪戦の結末を見届けよう。
冷蔵庫から冷え冷えジュースと、2人分のコップを運んでると、スマホの着信音が鳴った。
相手は生天目さんからで、何故か空が密着して聞く耳を立てて来た。
「空? 電話出れないんだけど……」
「お構いなく!ほら!早く出て」
「う、うーん……静かにしててね?」
「ふんふん!」
「……も」
《ツミーぃいいいいいいいいいい!》
「のわっ!?」
「み、耳がぁぁ……」
近距離大声量をダイレクトに食い、キンキン耳鳴りがする。
《あれ? もしもしもし? ん? 通話中になってるよね?》
「す、すみません生天目さん。耳ダメージを食らってました」
《なにぃいい?! だだだ大丈夫!? ワタシがコテンパンにしてあげる!》
「お、お気持ちだけで大丈夫です!」
生天目さん自身が元凶だってのは、自覚なさそうだから、あえて言わずに流そう。
《そぉ? 何かあればいつでも味方になるからね!》
「あ、ありがとうござ」
《ハッ! ラグナロク倒してくれたんだよね! おめがとう!》
ありがとうとおめでとうが混ざった言葉は、突っ込んだら負けだ。
《で! ラグナロク討伐を祝って、明日午前10時に広瀬町南ゴストで打ち上げだからね!》
「う、打ち上げですか? 他のチームの皆さんとも?」
《あっちはあっちでやるみたいだから、明日はワタシ達討伐チームだけ! 来るよね!》
討伐チームとは親交こそ浅いけど、フレンドリーで接し易い人達なのは、この短期間で知れてる。
それに少規模人数で強制参加の流れなんだ。
ありがたく参加させていただこう。
「はい、行きます」
《にゃふー! みんなでサバブラ談義に花咲かせられるね! 今からもう楽しみだよ!》
ぴょんぴょん飛び跳ねるぐらい嬉しいのか、電話越しにトスントスン音が聞こる中、キャッチの音が。
「あの、キャッチ来たみ」
《キャッチ? じゃ、切るね! 明日忘れずに来てね!》
潔く切られた電話に、ちょっと関心しつつ、キャッチ相手の電話を繋いだ。
《あ、もしもし? 積木君? 本日二度目ましての渕上です!》
「ど、どうも。イベントお疲れ様です」
《そうだね! 積木君もお疲れ様! まさか奥義で倒されちゃうなんて驚いちゃった! パチパチパチ!》
純粋な気持ちの良い賞賛拍手が、心に染み渡ってくる。
プライベートでも変わらずに天使な渕上先生に、僕は一生付いて行きたい気持ちだ。
《とにかくおめでとう!》
「はっ。ありがとうございます! これからも渕上先生をサバブラ師匠と崇めます!」
《えへへ♪ 師匠も負けなよう精進します!》
ピシッと敬礼する姿が、容易に想像できてしまう。
《あ、それでね? 本題入っても良いかな?》
「はい! どうぞ!」
《ありがとう! えっとね!? 前にオフ会したいって言ってたでしょ?》
「勿論覚えてますけど、大丈夫な日確保したんですか?」
《うん! 明日午前10時に、広瀬町南ゴストでやりたいんだよね!》
聞き違いでなければ、生天目さん達と同じ時間帯で同じ場所だった筈。
念には念入れて確認しないと。
「えっと……明日の?」
《午前10時!》
「広瀬町南の?」
《ゴスト! 復唱で覚えるのは大事だもんね! 花丸上げちゃうね♪》
花丸を頂ける大正解。
このままだとお互いのサバブラ正体がバレてしまう、ダブルブッキングだ。
せめて時間帯をずれれば、どうにかなるかもしれない。
「じゅ、10時以外はどうなんですか?」
《他のl3人の都合で、早い時間じゃないとダメだったの……ごめんね、積木君……》
「ぐっ……」
しょんぼり落ち込む姿を想像しただけで、心が滅茶苦茶痛い。
いっその事、僕らの正体を明かして楽になった方がいいのかもしれない。
「か、確認したかっただけなので……ん? 他の3人の都合って事は……」
《デストロイにペイン、スターニンジャの3人だよ! ダメ……かな?》
サバブラで恐れられてる3人は、渕上先生のフレンドだ。
中身は絶対にいい人達に決まってる。
「問題ないです! 皆さんと会うのが楽しみです!」
《本当! ありがとう積木君! 確認も出来たし、長電話もあれだから、そろそろ切るね?》
「へ? あ、はい。明日またです」
《うん! 今日は楽しかったよ! またね! お休みなさい!》
天使のおやすみなさいを噛み締める間も無く、今度は早見さんから電話が。
「もしもし、早見さん」
《もしもし積木君? モチモチ早見です》
「ぷっ。もちもちな早見さん、こんばんは」
《も、もちもちしてません! わ、わざと間違ったんです! もうもう!》
実際早見さんは細身美人さんだ。
「す、すみません……ぷっ。面白かったので、つい」
《え! 面白かったんですか! 面白かったのならしょうがないですね! ふふん!》
人一倍素直な早見さんに、まず助けてくれたお礼を言わないとだ。
「あの、さっきは助けてくれてありがとうございました。お陰でラグナロクを倒せました」
《いえいえ! 敵なのを忘れて、いつもみたいに助けちゃいました。やっぱり積木君とは、一緒のチームがいいですね!》
お互い背中を任せて来た戦友だ。
敵より味方の方が断然良いに決まってる。
「僕も同じ気持ちです」
《以心伝心ってヤツですね! はっ! もしかすると、私が電話して来た理由も分かっちゃったりします?》
若干不吉な予感がしつつ、それっぽい理由を口にした。
「あ、明日午前10時に、広瀬町南ゴストでオフ会しようって話だったりします?」
《わぁー! 確かにオフ会をしようって話だったんですけど、場所と日時まで決めてくれたんですね! 早速皆に連絡しますね! おやすみなさい!》
自分でトリプルブッキングを決めてしまった。
通話を切った早見さんは、フレンドの皆さんに早速連絡し、即返で了承を得たと教えてくれた。
自ら招いたトリプルブッキングに、頭を抱えてると、空が優しく微笑みかけてくれた。
「お兄ちゃん。死ぬ時は一緒だよ」
「死にたくないよ!」
財宝争奪戦を観戦できる訳もなく、眠れる一夜を越え、三つ巴オフ会当日を迎えた。




