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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
5章 三つ巴ゲームイベント
31/131

31話 見えざる狂気、容赦ない洗礼、戦狂の魔女、あり得ない中間発表

 幸先不安なまま、アンデッドの南端付近の自陣に降り立った。

 陰鬱な荒地と沼地が混ざるエリアは、不安定な足場でプレイヤー泣かせだ。

 それすらも狂人デストロイには関係ない。

 環境と相手的に、普通なら即時撤退でもおかしくないが、生天目さん達は作戦遂行を諦めてない。


《いい! みんな! デストロイの目論みは、プレイヤー排除からの財宝独占!》


 一見無謀な試みも、ラグナロク達に掛かれば完遂する。

 邪魔立てする他プレイヤーがいれば、ことごとく排除するだけ。

 脳内シミュレーションや試行錯誤を重ねても、いざ対峙すれば何も出来ずに終わる。

 遥か高みの存在の4人は、それ程までに次元が違うんだ。

 だからと言って、好きにさせる訳にはいかない。


《このまま分かりきったシナリオ通りにさせない。ですよね、ムゥムゥさん》

《マロンの言う通り! ワタシ達の手で阻止するの!》

《今日こそ果たすのであります!》

《精一杯頑張ろうね!》

《うっしゃー! デストロイと正面衝突! 上等だぜ!》


 拳を高々と掲げ、一致団結をより強め、打倒デストロイを大きく踏み出した。


 ♢♢♢♢


 北西を進み数分、岩肌の聳えるエリアにて。

 他プレイヤー達を倒し、ひと段落し終わった時。

 マーシンさんの報告チャットで、緊張が張り詰めた。


《ま、マップ攻略チーム……ペ、ペインの手により……ぜ、全滅であります》


 ラグナロクチームの1人、道化師スタイルのペイン。

 一時的にプレイヤーを操作し、代償として自身は操作不能の無防備となる、上級者向けスタイル。


 一つ間違えれば袋の鼠。

 物好きかネタに走る者が大半な中、ペインは道化師の常識を崩した。

 プレイヤーの死角。

 フィールドギミック。

 フィールドアイテムなどなど。

 姿を一切見せない戦略を臨機応変に切り替え、実現不可能なプレイスタイルを確立。

 幾度もノーダメージ優勝を飾り、見えざる狂気ペインと呼ばれる様になった。


 イベント開始数分で、アベン〇ャーズの一角を全滅させたとなれば、僕らも黙ってる訳にはいかない。


《むぅむぅ! むぅうううう! 絶対絶対ぜーったい! デストロイ達を倒すんだから!》

《仲間達が全滅される前に、急ぐでありま》


 どれほど気持ちが強くても、都合の良い展開になる訳じゃない。

 それを、頭上から現れたプレイヤーが、行動で教えてくれた。


《で、デストロイ!?》

《じ、直々にお出ましかよ!?》

《ふぃ、フィールドブレイクがヤバいよ?!》


 壊し屋の特性フィールドブレイク。

 地面や壁、破壊可能フィールドオブジェクトに、あらゆる効果を付与させる。

 地面破壊で砂塵が舞えば数秒視界不良。

 壁破壊で破片を食らえば仰け反り。

 フィールドブレイクは圧倒的優勢を取れる事が多い。


 デメリットは通常移動速度の鈍足化。

 バフやフィールドアイテムの禁止。

 チーム連携の組み難さが物言い、大体は個人戦で見掛ける。


 常識に囚われないチーム戦での個人行動は、ラグナロクチームに信頼があるから成り立ってる筈だ。

 こうして奇襲を仕掛けて来たのも、アンデッドでの行動を一任されてるからだ。


 フィールドブレイクの絶えない砂塵の視界不良と、物騒な破壊音から抜け出さない限り、最悪の未来は避けられない。

 死角を守る護衛の狙撃手が、役立たずのまま終わるなんてゴメンだ。


 バックステップで確実に、砂塵とデストロイから離れ、砂塵が晴れた瞬間に一撃を狙う。

 幸い標的にされず、砂塵範囲外まで出られ、狙撃準備を速攻で完了。

 生天目さん達の様子も分からず、静かに砂塵が晴れた先では、戦意を削ぐ景色が広がってた。


《が、ガオガオさんが……デストロイもいなくなってる……》


 チーム人数減少が意味するのは1つ。

 ガオガオさんがやられたんだ。

 横たわる生天目さん達は、10秒間行動不能なスタン状態。

 トドメを指すには十分過ぎる隙にも関わらず、デストロイは見逃してる。


 理由を考える間もなく、周囲の聳えた岩肌が崩れ、落下先にいる生天目さん達に降り始めた。

 視界不良の砂塵の中で、他のフィールドブレイクを同時にやってたんだ。


 フィールドブレイクの物理判定には、小中大と効果がそれぞれ異なる。

 小は仰け反り、中はスタン状態、大はライフ削り。

 特にライフ削りの多段ヒット性は、鬼畜仕様。

 策士なプレイヤーが確実に仕掛けてくる、絶対に避けたい策の一つだ。


 範囲外にいる僕が全員を助けに行けば、間違いなく全滅。

 ギリギリ助けられるのは1人だけ。

 デストロイが見逃した理由は、直接手を下さずとも、フィールドブレイクで事足りたからなんだ。


 デストロイの容赦ない洗礼に、判断力を失い掛けた時。

 行動不能な生天目さん達が、突然僕のいる方へ飛んで来た。


 何も分からないまま、岩雪崩のフィールドブレイクの恐ろしさを眺め、スタン状態から戻った生天目さん達も、摩訶不思議現象に困惑気味だった。


《ば、バグじゃないよね?》

《違うかと思うでありま……あ!》


 マーシンさんの驚きは、僕らにも伝染した。

 崩壊跡の岩肌から見下ろす、生気の無い道化師ペインがいたからだ。


 ♢♢♢♢


「ぺ、ペインがどうしてここに……」

「お、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!? た、たしけてぇ!?」

「え!? な、何?! わ?!」


 空のプレイ画面には、絶望の天空地ヘブンで、ラグナロクチームの1人スターニンジャと攻防を繰り広げる、モチモチ達の姿が。


 スターニンジャの魔女スタイルは、近中遠攻撃の魔術を始め、範囲攻撃や自己防御魔術を多彩に操る、汎用性が高い有能スタイル。

 欠点は命中率や発動速度の遅さ。

 通常移動速度やジャンプ力の無さだ。


 使いたいのに使えない魔女スタイルを諦め、安定の魔術師を選ぶプレイヤーが大半を占める中、スターニンジャは欠点を物ともせず使いこなす。

 視界に入れたプレイヤーの移動先を先読み、必中で魔術を食らわせるのは序の口。

 逃走で視界から外れれば、最短ルートを瞬時に把握し、先回りで確実に仕留める。

 死角から奇襲されても、自己防衛魔術を発動し、瞬く間に返り討ち。


 上級プレイヤーすら敵わない圧倒的な強さから、戦狂の魔女と呼ばれ恐れられてる。


「あばばばば!? ゆ、指が攣っちゃうぅうう!?」


 モチモチと仲間の1人スピリリタソの絶え間ないコンビネーション攻撃を、全てジャストガードで防ぎつつ、防御態勢を解除できない空にも猛攻。

 スターニンジャの機械操作を彷彿させる動きに、思わず固唾を飲み込むしか出来ずとも、ピンチを切り抜けない限り勝機は無い。


 空の残りライフは3つ。

 フル状態なら多少の無茶は可能だ。


「空。風魔術の時に、わざと食らって吹き飛ばされて」

「あばばばば!? さ、さっしょく来た?! にょわ!?」


 攻撃範囲外まで見事なまでに吹っ飛んだ。

 体勢を立て直すなら今しかない。

 空のプレイ次第で、モチモチ達と更に連携を取り合れば、スターニンジャも倒せるかもしれない。

 空達の事は任せ、自分のプレイ画面に戻った。


《ま、マロン! どうしたの! 早く戻って来て!》


「生天目さんのチャッ……のぉ?!」


 たった数分目を離した間に、財宝を守る不死軍団に取り囲まれていた。


 ♢♢♢♢


《今戻りました! ペインは!?》

《我々に不死軍団の忠告後、ひょうひょうと去りましたであります!》

《な、なんでわざわざ?》

《んな事より! 屍野郎達を対処しないと、全員お陀仏になんぞ!》

《す、すみません!》


 財宝に触れない限り、フィールドギミックが発動しない仕様なのに、目の前が袋の鼠状態。

 今はつべこべ考えず、アンデッドからの脱出優先だ。


 ピンポンパンポーン♪


《さぁ皆さん! 中間発表のお時間です! 第1位・チームラグナロク! 第2位・チームモチモチ! 第3位・チームムゥムゥ! 勝利の女神が微笑むのは、一体どのチームになるでしょうか!》


 誰も財宝に触れず、自陣にすら戻っていないのに3位。


 運営側のあり得ないアナウンスに、何が起きてるのか訳が分からなくなった。

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