☆3話 食べさせて貰いたい女優、ハーフ女装、大人気アイドル達の包囲網
※2023/3/24文末に仄影千鶴のイラストを追加しました!
※2023/3/26文末に白夜木碧羅のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
満足の行ったパンケーキ専門店ふあもを出る頃には、お昼ご飯時だった。
パンケーキでお腹は五分目。
しっかり目のお昼より、お手軽に食べられるハンバーガーのドライブスルーを提案してみた。
「奇遇ね。同じことを考えてたわ」
近場のモフバーガーのドライブスルーに向かい、メニューを吟味。
「あ、和風竜田復活してる!」
人気商品大復活フェスが今日までみたいで、とても運がいい。
速決で和風竜田バーガーとカルピソ、渚さんも同じ和風竜田とアイスコーヒーを注文。
出来立てを受け取り、車内に広がる和風の香りは最高だった。
醤油ベースの甘辛ダレに刻み海苔。
大きな竜田揚げを引き立てる、少数精鋭のキャベツとバンズの黄金バランスだ。
5分目のお腹は和風竜田を受け入れる気満々だ。
「あのー停めて食べないんですか?」
「時間が押してるから無理。私のは洋君が食べさせて」
あーんループを超える、高難度ミッションの発生。
一口サイズならまだしも、今回はバーガー系だ。
難易度は一気に跳ね上がる。
もし手元が狂えば、ミッションは大失敗に終わる。
慎重且つ丁寧に、緊張で震える手を抑え、小さい口へ食べさせた。
「まむまむ……格別に美味しいわね」
「ふ、復活フェスに感謝ですね」
「……早く食べさせて」
決して気を抜かず、最後の一口まで食べさせ、無事ミッションコンプリート。
自分の和風竜田を食べる番だ。
「ふぅー美味しかったわ。ありがとね」
「いえいえ」
「アイスコーヒーも飲ま……あら、口横に結構付いちゃってるわね……」
指先でソースを拭い、ポケットティッシュで手助けしようと動いた。
「……洋君。こっち向いて」
「はふぇむ?!」
振り向き直後、ソースを拭った指を口に突っ込まれた。
「どっちが美味しいかしら?」
真っ赤になった顔が答えなのに、わざわざ言わせようとすりなんて、ずるい人だ。
気を晴らすのに自分の和風竜田にかぶり付いても、ほとんど味がしなかった。
♢♢♢♢
「カップルチケットでいいわね」
「は、はい」
次にやって来たのは映画館で、自動券売機でチケットを購入中だ。
平日の昼時だから人も数えられる程度、身バレはしなさそうだ。
お互いソフトドリンクだけを買って、番号のスクリーンに移動。
かなり小規模のスクリーンで、貸し切り状態だった。
最後列の中央に真っ先に向かい、早く来いと手招かれ、座ったタイミングで照明が落ち、予告が始まった。
「始まるわね」
「あのー……今から何観るんですか?」
「リバイバル映画よ。お気に入りなのよ」
スクリーンに映った映画タイトルは『雨宿りな2人』。
名邦画と呼ばれる20年前の映画だ。
タイトルと有名シーンしか知らない、名映画あるあるの代表作の一つだ。
上映終了後、感動と納得で放心気味だ。
今まで手を付けなかったのが勿体ないと思えるぐらい、心に残る名映画だった。
「ん~! いつ観ても色褪せないわね〜!」
「ですね。渚さんのお陰で、好きな映画が1つ増えました」
「ふふ……連れて来た甲斐があったわ」
車に戻るまで映画話に花咲かせ、次なる目的地にナビセッティンングしてると、渚さんのスマホが鳴った。
電話なのか真剣な面立ちで車内通話にし、動揺しまくりの女性の声が聞こえてきた。
《あ、けけけ景さん! おおお休みのところ申し訳ないです!》
「大丈夫ですよ。どうしました?」
《きょ、今日の3時から! ななな生配信番組があるのを、すっかり伝え忘れてたんです!》
会話内容を察するに、相手はマネージャーさんで連絡ミスしたようだ。
収録なら多少遅刻が許されても、生配信は非常にマズイ。
3時まで1時間を切って、デートどころの話じゃない。
「落ち着いて下さい、林マネージャー。今から向かうので、場所を送って下さい」
《は、ハイです!》
通話を切って、送られた目的地を目視した渚さんは、一切迷う事なく車を走らせた。
およそ30分掛かる道を、裏道やショートカットで大幅に時短、20分弱で目的地付近に着いた。
時短に成功しても、衣装合わせや打ち合わせもあるんだ。
時間はかなりギリギリだ。
オフ日では無くなった今、ただのお荷物でしかない以上、適当な場所で降ろして貰って、帰るのが懸命な判断だ。
「渚さん、デートは名残惜しいですけど、今日は楽しかっ」
「デートは続けるわ」
「え。で、でも……」
「洋君を家に送り届けるまでがデート。それが私が今日決めた事よ」
言い草こそ、家に帰るまで遠足と同じ。
本気度合いは渚さんが優ってる。
放送局のビルは目と鼻の先、一緒にいる事自体リスキー過ぎる。
何か秘策があるのか路肩駐車し、後部座席から紙袋を取り、顔をいきなり掴んできた。
「ちゃっちゃと済ませたいから、動くんじゃないわよ」
「ひゃ、ひゃい」
何をさせられるか分からないまま、ただただ言われるがままに従った。
♢♢♢♢
「遅れてすみません林マネ」
「いえいえいえ! 景さんは何も……って、そちらの方は……?」
「日本に遊びに来ているハーフの従姉妹です」
「な、渚ヨウィータです……」
渚ヨウィータという女性は、この世に実在しない。
予備の変装ウィッグとナチュラルメイク。
偽胸で女装するハーフの従姉妹設定の人物は、僕積木洋だ。
以前、我が北春高校のモテない美人生徒会長呉橋星さんによって、とある事情で女装させられ、挙げ句の果てに夏洋と名付けられた過去がある。
一度切りならまだしも何度も夏洋になり、悲しい事に女装には慣れているんだ。
新たに受肉した渚ヨウィータは、絶対に今回限りだと、直接約束してくれたから、心持ち様は夏洋に比べて楽だ。
それでも、第二の女装を経験するなんて、思わなかった。
林マネージャーさんも時間が押して慌ててるのか、余計な追及をして来ない。
身内設定なのもあって、収録スタジオの観客席で見学する流れになった。
一緒に控室へとキビキビ向かう道中、ナチュラルに腕を組みをしながら、生配信の概要をテキパキ聞いてる。
「もう1人組のゲストって誰なんですか?」
「し、シークレットスターの皆さんになります!」
大人気3人組女子アイドルグループ、シークレットスター。
若い世代なら誰もが知る、今最高に注目されてるアイドルグループの1組。
シークレットスターのリーダーは、我が北高のスクールカーストの頂点に立つ、凛道刹那さん。
彼女とは林間学校で知り合いになってる。
アイドルモードと素モードを切り替え、素は陰キャで軽く人間不信な天然。
アイドルのアの字の面影がない程、ギャップがある人だ。
林間学校で夏洋とも接触し、一応気付かれずに済んだから、今回もきっと大丈夫な筈だ。
♢♢♢♢
控室に着き、衣装合わせや諸々を同時並行でこなし始めてる。
邪魔者が邪魔をしないよう、トイレに行くと一言残し、控え室を出た。
関係者見学用カードを首から下げていても、道行く人達の視線が突き刺さる。
どこか落ち着ける場所がないか探す中、控え室に向かう道中に、自販機のある休憩所が無人だったのを思い出した。
控室からも近く、このまま角を曲がったすぐの所だ。
ホッと緊張の糸が緩み、休憩所が目前に迫った時、不意に女性が休憩所から出てきた。
俊敏に回避する能力もなく、軽く衝突。
バランスを崩し尻餅を着き、衝突してしまった女性が手を差し伸べてくれてた。
「ごめんなさい。お怪我はありませんか?」
「ぼ、私は大丈……」
衝突した彼女は、シークレットスターのクールビューティー担当、仄影千鶴さんだった。
センター分けストレートロングの茶髪。
細くしなやかなモデル体型。
青色のアーモンドアイ。
世間に露出した当初から、全てのパーツが整い過ぎて、動く黄金比と言われてる。
画面越しでもリアルでも直視が出来ないぐらい、アイドルオーラが眩しい。
「ふんふふ〜およよ? ちづるん、どったのー?」
「なんでもありませんよ、碧羅」
シークレットスターの最後の1人、キュートなマスコット担当の白夜木碧羅さんもご登場。。
ライトブルーの2つ団子。
愛嬌と小ささのロリっ子体型。
翡翠色のクリクリ猫目。
0歳児からCM出演し、子役から女優、アイドルも並行で大活躍する、国民的子役の成功者の1人だ。
「千鶴ちゃーん? 碧羅ちゃーん? どこー? あ、2人とも発見!」
「あ! せつぽん!」
「こっち来て下さい」
シークレットスターの不動のリーダー、凛道刹那さんまでもが来た。
艶やかなセミロングの黒髪。
細身でありながらスタイル抜群。
清純派王道アイドルの現役女王だ。
ヘアメイクもあって、シュシュでサイドテールに変わってる。
3人が揃ったアイドル詰みに、ますます逃げ場がなくなる一方、碧羅さんが興味津々な眼差しを向けて来てる。
「で、この子はだーれ?」
「関係者見学用のカードを首から下げてますし、スタッフさんサイドの身内の方では?」
「私、どこかで見たことあるんだよね……誰だったかな~……」
大人気アイドル3人に囲まれた状況に、一体どうすればいいんだ。