29話 軽やかさがエグい幼女達、全てを見届けていたくノ一、胸凶器
幼女ズが真っ先に向かったのは、小さいお子さんも安全に遊べる、全長40mのエアー障害アスレチックコース。
イザワ玄人の桃夏さんはスイスイ進み、沙織ちゃんが必死に追い掛け、僕も遅れながら追い掛けてる。
「洋! もっと脚のバネ使うんだ!」
「は、はい!」
「洋おにいたん! もうちょっと!」
終着点で2人に手を貸して貰い、何とかゴール。
慣れない動きばかりで、軽く息が上がるのに対し、2人は全く平気そうだ。
そのまま休憩なしにロープウォーク。
縄吊るしの足場を次々渡り、高所恐怖症が真っ青になるスリルアトラクションだ。
桃夏さん達は一足先に、スタッフさんにヘルメットと命綱を装着して貰い、数mある高さに一切怖気ず、楽しそうに進行。
下から眺める子供達も呆気に取られてるぐらい、とにかく軽やかさがエグい。
「すげぇーすげぇー! おれたちも、おっぱいねーちゃんたちに続くぞ!」
「「「おぉー!」」」
リーダーの男の子が友達を引き連れ、ロープウォークに行ってしまった。
慌てて入り口に向かうも、さっきの男の子達に先行され、人数制限で待つ事に。
その間にも桃夏さん達の姿が見えなくなり、声も滅茶苦茶遠ざかってる。
下から見上げ探そうにも、ごちゃごちゃ入り組んでて、探そうにも探しにくさが勝ってた。
目を凝らし数分、出口方面から幼女らしき声が聞こえた。
「ゴールに行けば合流出来る!」
桃夏さんと遊ぶ筈が、まだ何一つやってあげられてない。
早急に合流し次第、必死に食らい付いて遊び尽くすんだ。
♢♢♢♢
ゴールに着いた頃には、桃夏さん達の姿はなかった。
先に行ったにしても、アトラクションエリアが3つに分岐しているんだ。
高低差を自由自在に動きまくる、パルクールアトラクション。
忍者っぽいアクションを体験出来る、ニンジャアトラクション。
本格的な装備と男の子に人気な、サバゲーアトラクション。
パルクールとサバゲーは桃夏さん達には合わなさそうで、消去法でニンジャアトラクション一択だ。
足早にニンジャアトラクションに踏み込み、迷宮のような入り組んだ屋内を、数十分探しまくった結果、迷子になった。
出入り口に戻って仕切り直そうにも、また同じ場所に戻る無限ループ。
誰にも遭遇せず、和風BGM以外何も聞こえず、孤独感が時間経過ごとに増幅していた。
「お、落ち着け……いざって時には、スタッフさんに助けを求め……え? わっ!?」
突然壁の一部が回転し、真っ赤なくノ一が出現。
高身長且つグラマラス、隠し切れない美人オーラのくノ一さんが、ヌッと距離を詰め寄って来た。
「桃夏ちゃん達は出口にいますよ、つみき君」
「そ、その声は里夜さん?」
口元の布をずらし、素顔を見せた里夜さん。
くノ一姿な理由も、ここにいる理由も、全く意味が分からなかった。
「あ、あの……どうしてここに?」
「お嬢様に頼まれたのです。つみき君のデートがどのようなものかを」
「て、天宮寺さんが?」
「えぇ。ので、初日から今まで変装しつつ見届けてました。わたしも思わず、よう君とデートしたくなりました」
「初日からって……さ、最初から?!」
「はい」
里夜さんは性別も身長差も声も、何もかもが変わる変装のプロフェッショナル。
周囲に溶け込んで見届けるなんて容易だったんだ。
「つみき君が杏世さんを守ろうと、手を引く姿は大変に漢らしかったです」
「み、見てたんですか」
「ショップ店員の変装で、しっかりと」
模擬デートの事で精一杯で、ショップ店員に変装してるだなんて気付ける訳がない。
「巳乃さんとのコスプレ然り、にゃんにゃん呪文詠唱は尊さを実感しました」
「にゃ、にゃんだふるにも……」
「愛しちゃうにゃん♪ ふふ。メイドさんもいいですよね」
大変ご満悦な表情で、にゃんにゃん呪文詠唱ポーズ。
メイドさんにも変装してただなんて、見当もつかなかった。
「冴姫さんのポロ君事故は、少々予定外でしたが、つみき君のおままごと姿を見られて、結果オーライでした」
「ポロ君事故……犬友達の飼い主さんって……」
「わたしです。ドッグランにはメイド長が代わってくれたので、通行人に変装し見届けました」
ポロ君事故に里夜さんも関わってたなんて、全く想定外だ。
「そして今回はくノ一スタッフに変装してました」
「な、なるほど……」
「ちなみにですが、肝試し実行委員会の皆さんも、初日から変装して見届けてましたよ」
「な!?」
壁の一部が再び回転し、追加でくノ一が3人現れ、すぐに正体を明かしてくれた。
滝さん、菊乃城さん、暗堂さんがゆっくりと取り囲むように接近。
4日間も見られていたと知り、無性に恥ずかしさが込み上げていた。
「あらあらまぁまぁ。恥ずかしがって可愛らしいですね」
「積木君の様々な面を見られて、とても楽しめたわ」
「うんうん♪ 積木君とのデートなら、楽しめそうだと分かりましたよ♪」
「わ、私もデートしたくなったよ! だ、だから顔上げて!」
よしよしと頭や肩、背中を優しく摩られても、恥ずかしさが消える訳じゃない。
「皆さん。つみき君が顔を上げられないのなら、わたし達が慰めてあげましょう」
「了解したわ」
「了解です♪ 芽白先輩とあーちゃん先生も真似して下さいね♪」
「う、うん」
「分かりました」
菊乃城さんと滝さんが、むにゅりと僕の両腕を胸で挟んできた。
両腕に意識が向く間もなく、包み込むように里夜さんの顔面胸埋め。
追い打ちで背中からギュッと抱き締められ、広大に押し潰される暗堂さんの特大級の柔らか胸。
柔らかな感触の沼に飲み込まれる詰み場を、圧縮詰みと心で名付け、数十秒後に意気消沈した。
♢♢♢♢
圧縮詰み後、里夜さん以外の皆さんは着替える為、再び回転壁に消えた。
里夜さんは目の前でくノ一姿から、スポーツウェア姿に瞬間着替え。
髪型もポニテに変わり、誇らしげに見せびらかしてた。
そんな里夜さんと一緒に進み、僅か数分で出口に到着。
散々迷ってた時間は一体何だったのか聞きたくなる程、スムーズ過ぎた。
「つみき君。桃夏さんが見えましたよ」
「あ」
桃夏さんと沙織ちゃんも気付き、とてとてと小走りで近付いて来てくれた。
「心配したぞ洋!」
「洋おにいたん生きてた……ほっ……」
「す、すみません。中で迷ってて……」
「そっか、まぁ無事なら良いけどさ! で、里夜も来てたのか!」
「えぇ。桃夏さんさえ良ければですが、合流してもよろしいですか」
「当たり前じゃん!」
キャッキャッ喜ぶ桃夏さんと里夜さんが、同じ年だと信じる人は、初見ではいないと思う。
一方、沙織ちゃんが里夜さんの胸をガン見していた。
「お、おっぱいまおう……」
「ほぉ、わたしがおっぱい魔王ですか。折角ですし、魔王級にお触れになりますか?」
「ご、ごくり……」
屈んだ里夜さんの胸に恐る恐る、目一杯広げた手の平で触れた。
ズブズブ手首まで沈んだと思えば、沙織ちゃんが一瞬で目の前から消えた。
「にゃみゅ!?」
「え? わ!? さ、沙織ちゃん!? 大丈夫!?」
魔王級の弾力に押し負けて、数m吹き飛んでた。
数十kgある沙織ちゃんを、軽々しく吹き飛ばす弾力は、圧巻の一言に尽きる。
「わっはっは! 里夜の爆乳は凶器だな!」
「照れます、へへ」
照れる箇所がズレてるのも、里夜さんらしさだ。
その後、暗堂さん達と合流し、一緒にお昼を食べたり遊んだりと、童心に帰れた気分を味わい、先代生徒会4人の模擬デートが完了した。




