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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
1章 女優とデート
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2話 女優の主張する変装、特別な恋人握り、あーんループ、舌が器用な女優

 上機嫌な鼻歌を奏で、次なる目的地へと向かう一方、僕は助手席で悩んでいた。


 有名人なら変装の1つや2つするのが普通なのに、渚さんは心許ないサングラスのみ。

 ファンが見たら凪景だと速攻でバレる恰好だ。

 更には見知らぬ男とペアルックという爆弾付き。


 人通りの多い道に出ようものなら、両者共に一巻の終わり。

 変装を見直しましょうと言い出そうにも、主導権を握られてる状態で、簡単に言い出せないんだ。


「ふんふふ~♪ 見えたわよ」

「へ?」


 視界先には100m以上の行列、ザッと見る限り若者や女子、カップル連れが圧倒的に多い。

 もし行列に並ぶなんて言い出し暁には、白目を向いてしまうかもしれない。


「あの行列に並ぶわよ」


 今一番回避するべき戦地に、自ら足を踏み入れる狂気。

 並ぶのは止めましょうとは勿論言えず、近場のパーキングに入った。


「ちょっと変装するから、外でも眺めてなさい」

「え? あ、はい」


 自分がどれだけ影響を及ぼす存在なのか忘れてなくて、心底安心した。

 言われた通り、外を眺め、変装が終わるまで待った。


 変装一式は後部座席に準備済みで、ガサゴソ漁る音が聞こえて来てる。

 変装も慣れ切ってるのか、1分も待たず声を掛けられた。


「ふぅー……こっち見てもいいわよ」

「了解で……」


 髪型や顔こそ変装前と変わらずとも、決して存在しない立派な胸が、これ見よがしに主張なさってた。

 幻を見ているに違いない。

 そう自分に何度も言い聞かせ、軽く目を擦っても、ある筈のない立派な大きい胸は変わらなかった。


「あ、あの……何かの冗談ですか?」

「冗談って何よ。これでバレた事は一度もないわ」


 バレた事が一度もないなんてあり得るのだろうか。

 今一度考えてみれば、凪景の判断材料である平らな胸は、SNSで鉄板のネタ。

 ここまで大きくなっていたら、まずは同一人物だとは考えない。


 凪景に似た美人で事なきを得るんだ。


「アンタの視線……完全に胸で判別してるわね」

「い、いやいや! 元を知ってるのに、ここまで嘘だと流石に……」

「流石に何よ」


 見苦しいと言えば、顔面鉄拳制裁は目に見えてる。

 

 そもそも変装自体が、理想の自分になれる手段の一つ。

 従来の姿を肯定すれば、鉄拳を避けられるかもしれない。


「み、見慣れた渚さんが薄れて、ちょっと嫌かもです」

「な!? っ……ば、バカ!」


 真っ赤になった顔をプイッと背け、鉄拳制裁は来ないようだ。

 落ち着く元の姿を知ってる以上、違和感の変装が解かれるまで、顔より下は見ないのが賢明だ。


 ひとまず変装もひと段落したんだ。

 行列に早く並ばないと待ち時間が伸びる一方だ。


「あのーそろそろ並ばないと……」

「わ、分かってるわよ! って、ちょっと待ちなさい!」

「え?」


 若干顔が赤いまま、半ば強引に手渡された黒縁眼鏡。

 レンズも入っていない伊達眼鏡だった。


「あ、アンタ用の伊達眼鏡よ。アンタも色々困るでしょ」


 もしもの為に気を利かせてくれた心遣いに、有り難みを感じ伊達眼鏡を着けた。

 普段眼鏡なんて掛けないから、見てくれに違和感があるかは分からないや。


「どんな感じよ? 見せなさい」

「は、はい……どうですか? 変じゃないといいですけど……」

「ちょ、ちょアン……そ、想像以上じゃない……」


 興奮気味にグッと近付く、見事なまでの食い付きっぷり。

 サングラス越しの眼力がキラキラに輝く程、眼鏡フェチなのかもしれない。


 眼鏡フェチかどうかは聞けないまま、鑑賞会は5分程続いた。


♢♢♢♢


 30分待ちの行列に並び、長さの割に回転率自体が速いも、未だ行列の正体が分からなかった。


「こ、ここのパンケーキ、前から食べたかったのよ」

「パンケーキですか?」


 よくよく看板を見たら『パンケーキ専門店ふあも』と書いてあった。


 評価の厳しい甘党家も頷く、至極のパンケーキとしてSNSでトレンド入りしてたお店だ。


 ふあもの名前は知ってはいたものの、場所が場所なだけあって、時間がある夏休みに行こうと思ってた。


「僕もここ気になってました」

「へ、へぇーよ、洋君って甘党なのね」

「ですです。景奈さんも好きなんですか?」

「そ、そうよ! 甘い物なら何でも聞きなさい!」


 本来決して揺れを知らない胸が、ワガママに揺れた。

 立ち姿も常時、胸を持ち上げる腕組みで、元々大きな胸があるように見えるのだから不思議だ。


 流石としか言いようがない佇まいな中、顔を赤らめぎこちなさがある。

 理由は単純、身バレ防止案でカップル設定になってるからだ。

 姉弟設定を提案するも即拒否され、結果こうなってる。


 ぎこちないカップル設定を貫き30分、2人席に対面で座り、ワクワク気分で店内を見渡した。

 数十席ある客席は満席、絶対に美味しいだろう甘味臭は言わずとも最高だった。


 甘党にはたまらない空気感に浮き足立つ姿を、微笑ましそうに見られてた。


「ふふ……子供みたいね」

「わ、忘れて下さい」

「えー? どうしようかなー?」


 チャーミングな悪戯笑みに目論みがありそうで、画面越しに見える怪演よりもソクっとした。


「お待たせしました♪ ご注文をお伺いします♪」


 空気を断ち切るようにウェイトレスさんが来てくれた。

 注文を何も決めてなく、慌ててメニューに目を通した。


「このカップル限定ふわラブパンケーキをお願いします♪」

「では、カップルご確認リストの中から、1つだけやって頂きますね♪」


 聞き間違えでなければ、今カップル限定ふわラブパンケーキと聞こえて気がする。

 頬っぺたを強めに引っ張っても、ウェイトレスさんが手持つカップルご確認リストは存在していた。


 恐らく、カップル限定ふわラブパンケーキを注文するのに、カップル設定を切り出したんだ。


「んー♪ どれにしようか迷っちゃうね♪」


 可愛いらしく悩むフリで、サングラス越しの視線が頬キスを選べと訴えてる。

 ハードルの高いものよりも、接触が最低限な恋人繋ぎが好ましい。


「こ、恋人繋ぎで!」

「もう♪ 勝手に決めないでよー♪ でも、いいよ♪」


 細くしなやかで柔らかい指が、優しく絡んできた。

 身内との安心感と違い、1人の異性として意識が向いてる。


 早まる心臓の音が手から伝わってそうで、恥ずかしさと照れが顔に熱帯びてた。


「はい♪ カップル確認オッケーです♪ ご注文のお品をお届けするまで、少々お待ち下さい♪」

「はーい♪」


 無事パンケーキを頼めたのがよっぽど待ち望んでたのか、大変にご機嫌なご様子だった、


「ふふふ……今日は特別にあーんでもしてあげようかしら?」

「き、気持ちだけで……そ、それよりも……も、もう手は離しても大丈夫なんじゃ……」


 照れと恥ずかしで、いつも以上に手汗を掻いてるんだ。

 1秒でも早く離れて貰った方が、お互いの為だ。


「離す意味が分からないわ。私じゃ不服な訳?」

「ち、違いますって!」


 何を言っても角が立ちそうで、考えつくだけ考えた結論として、すぐに握り直すから一度拭かせて欲しいと言った。


「ふーん……今度は洋君から握りなさいよ」

「は、はい」


 若干の不満顔で許可をくれ、おしぼりで手汗の不快感を拭った。


「……何? 手汗なんか気にしてたの?」

「そ、そりゃ……け、景奈さんを不快にさせたくなかったんで……」

「いちいち気にしないわよ。そもそも、些細な事で嫌いになるような男とデートなんかしないわ」


 勘違いしそうな言葉に、さっきとは違う照れと恥ずかしさが込み上げてた。


♢♢♢♢


「はい♪ 洋君♪ あーん♪」

「あ、あーむ……け、景奈さんもあ、あーん」

「はむ♪ んー♪ 美味しいー♪ じゃあもう一回ね♪」


 パンケーキが来てから、あーんループが止まらない。

 中断しようものなら、食い気味であーん攻撃をされ。中断を中断させられる始末。

 パンケーキ自体も2人前サイズ。

 非効率的消費行動のあーんでは、一向に減らないんだ。


 トイレに行きたいと言えば、中断せざるを得ないのに、さっきからトイレの出入りが絶えないんだ。

 きっと行列の待ち時間と、パンケーキの待ち時間のダブルアタックが効いて、混み混みが生まれてるんだ。


 逃げトイレが困難な以上、あーんループの脱出は現状不可能なんだ。


「あ、そうだ洋君♪ この上に乗ってるさくらんぼで、いいもの見せてあげるわ♪」


 トッピングのさくらんぼを茎ごと食べ、心配ながら見守り数十秒、やり遂げた風の顔を見せ、ペロッと舌を出してた。


「ろぅ? 上手れひょ?」

「わ! 茎の一つ結びだ!」

「ふふーん! 洋君に結べるかしら?」

「や、やってやりますよ!」


 堂々と目の前でドヤ顔挑発されたら、黙ってはいられない。

 

 普段絶対口にしない茎の異物感に抗い、1分程で一つ結びが出来た。


「どうれすか!」

「ふ、ふーん……は、初めてにしちゃ……じょ、上出来じゃない」


 顔から耳まで真っ赤になった、歯切れの悪い反応だった。

 一つ結びが原因でも、真似たに過ぎない。

 疑問が残りながらも、あーんループは自然と中断されて、ホッとしていた。

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