19話 夏休みマジック、先代生徒会、プレイボーイ積木、心強い味方達
前期終業式の本日、運命の期末テストの行方は、無事全員が補習地獄を回避。
担任の天羽先生によれば、1-Bで赤点を取った生徒は誰もいなかったそうだ。
約束された夏休みの到来に、歓喜の声が教室で響き渡ってる。
「うぉおおお! 補習の無い夏休みぃいいいい! 最高かよぉおおお!」
「ふっ……恋次の兄貴と、市瀬会長に礼しに行くか」
「良かったれふな~」
「し、静かにした方がいいよ……」
赤鳥君曰く、学生生活で一番いい点を取れたらしい。
目の下のクマが努力を物語ってる。
緑岡君も神流崎さんとの勉強会が捗り、学年10位にまで成績アップ。
初めて赤点回避出来た愛実さんも、大変に喜んでる。
「皆のお陰で、初めて赤点取らずに済んだ! ありがとう!」
「愛実が頑張ったからだ。自分を褒めてくれ」
「うぅ……峰子師匠! 大好きだぁああ!」
1人じゃ越えられない事も、協力し合えれば乗り越えられる。
期末テスト期間で改めて教えさせて貰った。
「お、そうだ積木! ホームルーム終わったら、肝試し実行委員会のお疲れ様会に直行だかんな!」
「一緒に行くから大丈夫だよ」
「確かに!」
延期が続いてたお疲れ様会は、タイミング的に午前終わりの今日がいいと、満場一致で決まったんだ。
愛実さん達も女子会するそうで、お互いに楽しまないとだ。
予鈴が鳴るのと同時に、天羽先生が廊下からひょこっと顔だけ見せた。
「皆さん。そろそろ終業式なので、廊下に並んで体育館に行きますよ」
元気な返事をし、背中に羽が生えたような足取りで、体育館へ移動した。
♢♢♢♢
終業式後のホームルーム直後、天宮寺さんと里夜さんが教室に入って来た。
「洋様♪ 皆様♪ 期末テスト突破おめでとうございます♪」
「おめでとうございます。パフパフ」
止まない拍手の雨で、どんどんテンションが上がるクラスメイト。
赤点回避をやり遂げられた皆を、ここまでやる気を出させる夏休みマジックって、本当に凄い。
「つみき君」
「ひょ!? り、里夜先生? い、いつの間に背後に?」
「ふふ。少々わたしとご同行お願いただけますか」
「へ?」
何も一切教えてくれない里夜さんに連れられ、人通りのない廊下で、ようやく口を開いてくれた。
「実は今、先代生徒会の皆様が来訪してまして、現生徒会の皆様がお相手中なのです」
「先代の……僕が呼ばれる必要は無いような……」
「つみき君が傍にいてくれたら心強い、と、星さんたって希望です」
呉橋会長の名指し。
嫌な予感しかしない。
夏休み目前なのに、あの人は厄介な種を撒かないといけないのか。
念の為、お断りフレーズを考えてる内に、生徒会室前に着いてた。
先代生徒会が既に中にいるからか、重苦しいプレッシャーを扉越しに感じる。
心構えする傍ら、里夜さんが扉を静かにノック。
バッと開く扉から呉橋会長が顔を見せ、僕の腕を掴んで来た。
「来たね洋君! さぁ入って!」
「のわっ?!」
強制的に室内に放り込まれ、情けなくもでんぐり返し。
頭と背中が痛い。
「里夜ちゃん先生もあんがと!」
「いえ。では、わたしはこれで」
扉が静かに締まり、4つの見知らぬ女性のシルエットが視界に入った。
明らかに只者じゃない空気を纏い、自然と肝がキュッと冷える感覚がする。
「星。その男子生徒は何だ」
「へ、へい! か、彼が協力してくれる、プレイボーイです!」
「ふぁ?!」
このモテない会長は何を言い出してるんだ。
状況が全く飲み込めない僕に、一際プレッシャーの強い女性が目の前に来るや否や、手をスッと差し伸べてきた。
「初めまして、先代生徒会長の乙津杏世だ」
「い、1年の積木洋です……」
物凄く綺麗な黒髪美人なのに、眼力が異常に強く、恐ろしくて目が離せない。
杏世さんも視線を一切逸らさず、硬直状態が続く中、残りの3人も急接近。
「アタシ達に協力してくれるんだね! アタシ、山郡巳乃だよ!」
「海廻冴姫よ♪」
「百瀬桃夏だ! わっはっは!」
現役アイドルでも十分通用する、王道可愛い系の山郡さん。
子持ち感が見える母性の主、聖母系女子の海廻さん。
小柄なのにボリュミーな、活発元気っ子系の百瀬さん。
容姿レベルが高過ぎる面々に、近距離で詰め寄られれば、誰だって緊張する。
現生徒会の皆さんも静かに座り、見守るしかないみたいだ。
「そ、それで……僕は何を協力すればいいのでしょうか……」
「立ち話もなんだ。座ろう」
来客用ソファーに移動し、包囲される形で座り、耳にだけ集中する事に。
杏世さん達は華々しいキャンパスライフを送る女子大生。
生徒会で培われたカリスマ性、頼り甲斐、秀逸な功績の数々、経験豊富そうな雰囲気から、あらゆる相談ごと、特に恋愛ごとを相談される日々を送ってる。
しかし4人とも彼氏いない歴=年齢。
ネット知識で恋愛相談を乗り越えて来たものの、そろそろ限界を感じて来てると。
そこで先日、晴れて成人を迎えたのを機に、異性と恋愛疑似体験を嗜みたい話に行き着き、今に至った。
「で、ヒカリンが最近、男の子の家に遊んだり、泊まったりしてるってのを小耳に挟んでね! その子にお願いしようって話になったの!」
その男の子って、絶対に僕の事だ。
僕の知らないところで、省かれた情報を広めた張本人を問い詰めたい。
会長椅子で吹けもしない口笛で誤魔化し、そっぽ向く呉橋会長に近付き、退路を断つように真正面から詰め寄った。
「ひゃ!?」
「呉橋会長……」
「う、嘘付いてないし……あうぅ……」
実際僕の家で遊んだり、泊まったりしたのは嘘じゃない。
呉橋会長が顔を真っ赤にさせても、もじもじしても、反省して貰うまで動かない。
「あれがリアル壁ドン……いや、椅子ドン……やはり適任は君しかいない」
呉橋会長から離れた際、名残り惜しい声を背に、再びソファーに戻った。
右から海廻さん、左から百瀬さんが腕の触れ合う距離間まで詰めてきた。
大人の女性の雰囲気が集中を削がれても、ひたすらに耐えるのみ。
「え、えっと……具体的に何に協力すればいいんですか?」
「シンプルに私達とデートをして欲しい」
「……4人一緒にですか」
「1人1デートだ。初日は私だ、明日から頼めるか」
デート費用は杏世さん達持ちで、内心ホッとするも、4人分のデートプランにも限界がある。
見えないプレッシャーに押し潰されそうな中、ふと強烈な視線が刺さってるのに気付いた。
正体は眼光を光らせてる暗堂さんだった。
ハッと、光る眼光の意図を汲み取り、暗堂さんに軽く頷きを交えたアイコンタクトを取った。
暗堂さんの光る眼光は、デートプランを練るのを協力してくれるサインだ。
非常に心強い限りだ。
「都合が悪ければ別日も可能だが、どうだ」
「大丈夫です。やらせて頂きます」
「じゃあ決まりだね!」
「まぁ♪ 男らしいわ♪」
「こりゃ期待だ! わっはっは!」
海廻さんと百瀬さんの、異なるボリューミー感触の両挟み。
正面の杏世さんと山郡さんも、期待オーラを分かり易く出し、プレッシャーがより増してる。
プレッシャーに勝つ為に、やれることは1つ。
杏世さん達が納得いくデートをする事。
杏世さん達と連絡先交換後、生徒会室を出ると、里夜さんが僕の荷物を持っていた。
「わざわざありがとうございます」
「いえ。わたしはつみき君の味方ですので」
「心強いです」
里夜さんに見届けられ、足早にお疲れ様会の場所へと向かった。




