☆18話 勉強会合コン3日目その2、口走る本音
※2023/4/25文末に泡瀬幸兎のイラストを追加しました!
※2023/4/30文末に春馬恋次のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
注文を聞き終え、スタイリッシュに去る峰子さんのカッコ美しい姿を、通路に身を乗り出してまでムービー撮影する蜂園さんは、本当に愛がブレない。
ただ注文レパートリーが完全にパーティー状態で、誰も勉強道具を出す素振りを見せず、菊乃城さん達とふーちゃん達は既に女子会。
そもそもテスト期間中、真面目に勉強と睨めっこ出来る人は、ごくごく少数。
部活やってる人は羽を伸ばせる機会なんだ。
多少ぐーたらしたところで大丈夫な筈だ。
「洋ぉの為に買ってきた抹茶チョコ、ちょっと食うかぁ?」
「うん、ありがとう幸兎」
「あーん」
「あむ……やっぱり美味しいね」
「ぶっ!? ちょちょちょちょい!? な、何してんだ!?」
滅茶苦茶動揺しまくる愛実さんが身を乗り出してきた。
ふーちゃん達の席も、わちゃわちゃと騒がしい。
「よー君! よー君! よー君! 私の口移しも受け取ってくれるよね! ねぇ!」
「ば、馬鹿吹雪! 落ち着けっての!」
「ふっふっふ~洋チン、ワタシとポッヒーゲームして、そのまま愛を育」
「ポリポリ……ポッヒー美味しいですね! 向日葵ちゃん!」
「ぜ、全部食べちゃダメだよ桜チン!?」
今にも来そうなふーちゃんを、全力の羽交い締めで止めるしゅーちゃん。
艶めかしさたっぷりのポッヒーゲームを企てる気満々なさーちゃん。
それを未然に防いでくれた天然さーちゃん。
このまま落ち着かせる方法として、笑顔で手を振ろうとしたら、ふーちゃん達のテーブルに峰子さんが来た。
「お楽しみのところ申し訳ありません。少々落ち着きながら、引き続きお楽しみ頂けないでしょうか?」
「「「「あ、はい……き、気を付けます……」」」」
短い丁寧な対応で、鎮静化に成功させた。
勿論、蜂園さんは峰子さんの雄姿をしっかり、ムービー撮影していた。
こっちはこっちで抜かりない。
「なぁメグちゃん。それに霞ちゃん。折角の機会だしぃ、アタシら女子だけで駄弁らん?」
「の、望むところ! カスミンもいいよな!」
「お、おぅ」
「じゃ、席替え開始ぃ」
「はいはい! ワタシ、ツミーとサバブラ話したい!」
「ぬぬぬ! よー君は私の旦那さんだよ! 私の許可無しには駄目だよ!」
「嘘はよくないよん! そもそもアナタは洋チンとどういった関係なんだよん!」
生天目さんとふーちゃん達の混戦が、何故か僕らの方まで広がり席がごちゃごちゃ。
峰子さんの介入で、それぞれ目的に合ったテーブル決めで、どうにか場が納まった。
ふーちゃん、ひーちゃん、生天目さん、菊乃城さんによる、積木洋関連話テーブル。
しゅーちゃん、さーちゃん、檜木さんのテスト勉強テーブル。
幸兎、愛実さん、霞さんの駄弁りテーブル。
そして愛実さん達の向かいにいる、僕、恋次、赤鳥君、青柳君の男子会テーブル。
席替え発案者の幸兎曰く、愛実さん達にただの親友だと伝えておくとの事。
幸兎を信じ愛実さん達を任せるしかない。
それはそうと、恋次と赤鳥君達が険悪ムードで、嫌な空気だ。
「けっ! 春馬って言ったか? お前、相当モテモテハーレム野郎なんだろ? マジ気に食わんわ!」
「ふっ……リア充は冥府に帰るべきだ」
本人がいる前で堂々と悪口を吐き、色々と犠牲にしてる2人。
それでも恋次は爽やかな顔を一切崩さない。
「んー……2人の俺に対するイメージだけど、間違ってるよ」
「嘘コケぇええ!」
赤鳥君の渾身の叫びが、本物のニワトリに聞こえた。
「じゃあ、これを見てくれる?」
「おぉん? スマホの……連絡先……ん? んっんん!?」
恋次の連絡先は、家族と僕ら親友2人、残りは全員同性だ。
決して同性が対象って訳じゃなくて、僕と同じ特殊な体質でこうなってしまうんだ。
「ふっ……な、名前はいくらでも変えられる……つまりフェイクだ!」
「じゃあ、これでどう?」
「おぉん? ……集団写真? 全員男……お、女は!」
「隈なく確認してみて」
鬼スライドと鬼凝視をしても、異性写真は家族と幸兎しかない。
だって恋次は、同性の好感度がすぐ爆高になる、特殊体質なんだ。
勿論、異性との交友関係はあるし、むしろ好感は高い方だ。
のに、異性に連絡先も遊んだ事も、皆無に近い。
僕と幸兎がいない時は、同性が一気に集まるのを何度も目撃してるんだ。
スマホの中身を隈なく確認し終わった赤鳥君達は、若干の焦りを見せてた。
「じゃ、じゃあ今までのバレンタインチョコは!」
「幸と家族、男友達からの友情チョコが沢山だね」
「お、男の人望が分厚い……大地、俺達は誤解してたのかもしれん……」
疑ってた罪悪感が込み上げ、すっかり俯いてしまった2人に、恋次は爽やかな笑顔で背中に手を添えた。
「大地君、大海君。俺は気にしてないから、早く水に流しちゃおう?」
「「は、春馬さん……」」
「だからじゃないけど、俺は2人と友達になりたいって思うんだけど、どうかな?」
「「れ、恋次の兄貴ぃ!」」
無事、2人の恋次好感度は爆高、恋次チルドレンの仲間入りだ。
♢♢♢♢
賑やか空気も穏やかになった頃合い、恋次が僕の顔を見てきた。
「来月の今日は、洋の誕生日だね」
「おぉーだなぁ。前祝い、後祝い、どっちがお好みだぁ?」
「うーん……迷っちゃうな」
毎年恋次達が家に来て、誕生日パーティーを開いてくれて、本当に有難い。
誕生日がお盆ど真ん中じゃなかったら、前日か後日だって迷わずに済むけど、もう慣れてる。
当日は父さんの実家に帰省するから、親戚総出で祝ってくれるのが恒例行事だ。
大宴会並みの大騒ぎが年々エスカレート気味で、今年はどうなるか少し不安でもある。
「つ、積っち……ら、来月の今日って……8月15日だよな?」
「? ですけど……驚きすぎじゃないですか?」
「お、同じ……」
「同じ?」
「わ、私も同じ誕生日……なんだけど……」
「え」
一瞬愛実さんが何を言ってるか理解出来なかった。
好きな人と同じ誕生日、こんな偶然ってあり得るのか。
偶然だとしても、これで愛実さんにプレゼントを渡せる。
思い切って一緒に皆で誕生日を祝う案を出し、前祝いか後祝いを決めよう。
そうすればプレゼントも直接渡せる。
「あ、あっと……め、愛実さんが良ければなんですけど、誕生日の前後どちらかで、2人で出掛けませんか?」
「ふ、ふぇ!?」
今、僕は何を口走ったんだ。
誕生日の前後どちらかで、2人で出掛けませんか、だっけ。
これではまるで、皆の前で愛実さんをデートに誘ってるも同然。
いずれは2人っきりで、どこか出掛けたかったのは間違いない。
ただ、もっと心の準備と計画を立ててから誘うのが、普通だ。
緊張で本音を口走ったせいで、愛実さんの顔が驚いたまま固まってる。
愛実さんの都合も考えず、自分の都合で口走るなんてを最悪だ。
「おーい愛実ー返事してやれー」
「ふぁ! そ、そうだよなカスミン! え、えっと……こ、こちらこそよろしくお願いします……」
「だってよー。……積木、聞こえてんのかー?」
「え?」
「愛実がオッケー出したぞー良かったなー」
「夢……? ふぇふぁ」
「ゆ、夢じゃないって……ぜ、絶対行こうな!」
「ふぁ、ふぁい」
愛実さんに頬っぺたを引っ張られ、しっかり目を合わせ、絶対に行こうって言ってくれた。
耳まで真っ赤な愛実さんがそうなら、僕はそれ以上に真っ赤だ。
「私はもう決まってるよ! よー君!」
「うぉ!? ふ、ふーちゃん?」
ふーちゃん以外の3人も、ふーちゃんの後ろからギュウギュウで詰め寄って来てる。
「ずばり私のプレゼントは婚姻届けだよ! しっかり私の方は記入済みだよ!」
「安直過ぎるねん。ワタシは特製ブレンドの秘薬で、既成事実を作ってあげるよん」
「馬鹿馬鹿! ま、まずはデートだろう! ど、どうだ洋さん!」
「皆でお泊まり会したいです! それで皆と川の字になって寝たいです!」
「ちょ、ちょっと皆!? そ、そんな詰め寄っわぷぅ!?」
「「「「わっ!?」」」」
狭い隙間で幼馴染4人に押しつぶされ、ほぼ窒息寸前となった僕は、峰子さんの迅速なレスキューによって、助け出された。
♢♢♢♢
時刻はすっかり夕暮れ時、そろそろお開きの時間だ。
ふーちゃん達と菊乃城さん達は、もう少し残っていくそうで、店内で名残り惜しみつつお別れした。
「あ、そうだ赤鳥君。明日の相手だけど……」
「おい積木おいおい! 俺はなぁ! 市瀬さんの有難いプリントで、それどころじゃねぇから!」
「え。じゃ、じゃあ残りは?」
「今回で終了一択だろ! 大海! 手伝ってくれるか!」
「ふっ……お前の船に乗ってやるか」
固い結束力で結ばれた2人を、全開の恍惚な笑みで眺める幸兎。
自分を包み隠さない感情表現は、いつも憧れてしまう。
「大地、俺も力になるよ」
「恋次の兄貴ぃ!」
「ふっ……百人力、いや……千人力以上だな!」
「大袈裟だよ。それじゃ俺らはここで。今日はありがとうね、洋」
「こちらこそありがとう! 今度は遊ぼうね!」
恋次達の後ろ姿を見届けたことだし、僕らも帰ろう。
さっきまでいた霞さんと幸兎の姿が見当たらない。
ポツンと残された愛実さん1人が、ポーッと僕を見つめて、何か言いたそうだった。
「な、なぁ積っち……」
「は、はい」
「と、友達になって結構経つじゃん? だ、だから、そろそろさ……ユッキー達みたいに、タメ口にしてくれると嬉しんだけど……どう?」
言われてみれば、ずっと敬語もどきじゃ前に進めない。
「ハ……うん。少しずつだけど、そうさせて貰おうかな……」
「! いくらでも練習に付き合うから!」
「はい! あ」
「ぷっ。少しずつな?」
無邪気に笑いながら、優しくフォローしてくれる。
そんな愛実さんの傍に、少しでも近づけられるよう、これからも頑張りたい。
「そ、そういえば2人は?」
「あそこで見てるぞ? ほら」
数メートル離れた自動販売機の物陰で、幸兎と霞さんがニヤニヤ顔を見せ楽しんでた。
一気に恥ずかしさが込み上げ、駅方面にダッシュした僕は、元陸上部の愛実さんにあっさり捕まった。




