17話 勉強会合コン3日目その1、2人の親友
3日目の本日は、愛実さんと霞さんが同行してる。
場所は峰子さんのバイト先でもある人気のファミレスで、向かってる途中だ。
「そんで? 吹雪さん達と勉強出来たんか?」
「ま、まぁ……ボチボチですね」
「心配するな、洋。いざって時は、私が付きっきりで教えるぞ」
「ひゅーこのモテ男めー」
「茶化さないで下さいよ、霞さん」
一方、赤鳥君達はダラダラ気乗りしない足取りで、後ろをついて来てる。
黄坂君は風邪を引いた妹さんの看病で、同行してない。
明日、お見舞いのお菓子でも買って、妹さんに渡して貰おうかな。
「てか、実際積っちって、めちゃくちゃ女子と仲良いよな?」
「洋は優しいからな。自然と惹かれるんだろう。私もその1人だ」
「女が惹かれる何かが、積木にあんのかもなー」
てっきり詰み体質だってのを、皆から指摘されてるかと思った。
勘の鋭い霞さんの事だ。
なんとなく詰み体質を察した上で、弄って楽しんでるのかもしれない。
ニヤッと微笑んでるお顔が、その可能性を秘めてる。
それよりも、さっきから右肩辺りがくすぐったい。
「スンスン……」
「め、愛実さん?」
「……ヤバい」
「え!? く、臭いですか!?」
匂いはそれなりに気を遣ってるつもりなのに、好きな人からのヤバいは滅茶苦茶ショックだ。
もしや体育授業の汗臭い匂いが臭ってたのなら、明日からは必ず制汗シートか制汗スプレーを常備しないと。
「っぷ。積木は割といい匂いだかんなー?」
「じゃ、じゃあ、愛実さんのヤバいってのは……」
「ヤバい……これはもう……スンスン……」
真剣な眼差しで嗅ぐのを止めない愛実さん。
気持ちが一切汲み取れないのが、何よりも悔やまれる。
「洋。私も嗅いでいいか?」
「え」
「じゃ、あーしも混ーざろー」
「ちょ!?」
左肩辺りを嗅ぐ霞さん、襟腰を嗅ぐ峰子さん。
同じ人間から香ってるとは思えない、幸せないい香りのトライアングルフォーメーション。
これこそ特殊な詰み、嗅がれ詰みだ。
「……うんうん……愛実の気持ち……確かに分かるな……」
「なんだろうな……落ち着くわー……すんすん……」
「ヤバいヤバいヤバい……スンスン……」
漫画で表現するなら、大量のスンスン文字に取り囲まれてる感じだ。
だが、それなりに人通りのある道で、この状況!
同年代の通行人がすれ違い際に、口を押さえて過ぎて行ってるんだ。
もはや公開処刑。
嬉し恥ずかしい嗅がれ詰みが恐ろしい。
かくなる上は俊足エスケープで、後方を歩く赤鳥君達に溶け込むしかない。
半ば強引に歩幅を大きく一歩踏み出し、そのまま右足を軸にクルッと、愛実さんの外側に移動。
3人が気付いてない内に、赤鳥君達の下にダッシュ。
「スンス……あれ? 積っちは?」
「ん? どこに行ったんだ?」
「あ、ニワトリんとこに逃げてらー」
安置に逃げた以上、嗅がれ詰みにはならない。
3人の小鼻がひくひく絶対に嗅がせはしない。
このまま赤鳥君達に隠れた状態で、ファミレスに行こう。
立ち尽くす3人の横を通り過ぎ、僕らは黙々と足を進めた。
どこか気まずい空気なのは、僕の気のせいだといいんだけど、2人ともどうしたんだろう。
「……なぁ、積木」
「な、なに?」
「俺ら帰っていいっすか」
「な、なんで!?」
「ふっ……蚊帳の外は辛いな……だから3次元が嫌いなんだ」
そもそも赤鳥君達が望んでたのは、勉強会ではなく合コン部分。
僕の詰み体質で、ほぼほぼ二日連続無意味に終わってるんだ。
「ご、ごめんなさい……」
今はただただ謝らないといけない。
詰み体質はこうして同性を遠ざける運命なんだと、改めて実感した。
♢♢♢♢
何とも言えないまま10分程、ファミレスに到着。
「じゃあ皆、勉強頑張ってくれ」
「サンクス! 峰子師匠もバイトがんば!」
「ファイォー」
「お互い頑張りましょうね」
「あぁ」
イケメンスマイルで裏口に向かった峰子さん。
去り姿もさながら、ウェイトレス姿も超絶に似合ってるんだ
似合わない服が逆にないのかもしれない。
入店後、ウェイトレスさんが笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ♪ 何名様でしょうか?」
「あ、友達が先にいるので……えーっと……あ」
ドリンクバーにいる、学ランの男子。
後ろ姿しか見えなくても、すぐに親友の1人だと分かった。
「いました!」
「ふふ♪ みたいですね♪」
クスッと笑われてしまった。
恥ずかしさを一旦噛み殺し、ウェイトレスさんに会釈をして、一足先にドリンクバーまで早歩き。
喜び爆発なまま、元気良く親友の名前を呼んだ。
「恋次!」
「ん? お、洋!」
爽やかなサラサラ黒髪が揺れる、モデル顔負けの美男子。
僕が心を許せる1人、春馬恋次。
連絡はちょくちょくしてても、会うのは高校入学前に遊んだ時以来だ。
親友と数か月振りの再会に、僕の感情は前のめり。
恋次の懐に目掛けて一直線。
優しく受け止めてくれ、背中ポンポンは何時までも変わらない。
「おっとっと……洋、久し振り」
「だね! 身長また伸びたんじゃない?」
「まぁね」
190近い恋次を見上げるのも、懐かしくて安心さが込み上げて来る。
同じ歳でも恋次は、まるでお兄ちゃんみたいな存在なんだ。
「ところで洋。友達が見悶えてるけど、大丈夫なのかい?」
「え?」
愛実さんと霞さんが何故か見悶え、赤鳥君達に至っては、恋次に敵対心を包み隠さず出してる。
再会もそこそこに、皆を早く正常に戻さないと。
恋次から離れた直後、急に誰かに肩をがっしり組まれた。
引き寄せる強引さと、この馴染みあるフィット感は、間違いなくもう一人の親友だ。
「久し振りだなぁ、洋ぅ」
「やっぱり幸兎だ!」
「眼がキラッキラだなぁ。アタシに会えたのがそんな嬉しいかぁ?」
「うん!」
黒セーラーの似合う、ギザ歯でメリハリ金髪美人な彼女は泡瀬幸兎。
会う度、頭をわしゃわしゃ撫でてくれ、しっかり者でお茶目な、お姉ちゃん的な存在だ。
「幸。タイミング悪いよ」
「しゃーねぇだろぉ? 洋ぅが視界に入っちまったんだから、我慢しない方がおかしい話だろうぉ?」
「確かに」
「2人共いつも通りだね!」
「「洋もな」」
時々しか会えなくても、連絡が時々でも、僕らは変わらい関係だ。
「でよぉ……身悶えたり、ヤバい目してるのは、洋ぉのダチ達かぁ?」
「あ」
愛実さん達をそっちのけで、再会を喜んでしまった。
♢♢♢♢
「春馬恋次です。天ヶ咲高校に通ってます」
「同じく天高の泡瀬幸兎ぉ」
「あ、天高かよ……やば……」
天ヶ咲高校は東海高校と並ぶ、有名な進学校で、2人は特進クラスなんだ。
出会った当初から学年一桁をキープし続け、本当に非の打ち所がない。
蒼姉さんも天高の特進クラスで、たまに恋次達と挨拶とか、お昼を一緒にしてるって、姉さんが教えてくれてる。
「とりま、肩っ苦しいの嫌いだからよぉ、ダチみたいに接してくれぇ」
「俺もそうしてくれると嬉しいかな」
「僕からもお願いします!」
若干の戸惑いを見せながらも、愛実さんを筆頭に頷いてくれた。
「ところで積っち……」
「何でしょう?」
「なんで幸さんに腕組まれてんだ?」
「これがアタシらのデフォスタイルってヤツぅ。なぁ?」
「うん」
元は仲良し手繋ぎで、いつの間にか腕組みや肩組みかが、当たり前になったんだ。
ずっと慣れ親しんだフィット感でもあるし、幸兎と一緒の時はこれじゃないと、違和感が凄いんだ。
それを聞いた愛実さんは、下唇を噛んで不機嫌オーラを出しまくってる。
幸兎とは何ともないから、変に誤解させてるなら、ちゃんと言わないと。
「あの愛実さん。幸兎はこう見え」
「あら♪ 偶然ですね皆さん♪」
「へ? き、菊乃城さん?」
菊乃城さんの後ろには、勉強会合コン初日の女性陣が全員いた。
生天目さんに至っては、可愛らしく両手を僕に振り、滅茶苦茶笑顔だ。
話を聞く限り、気分転換にファミレスで勉強会をやろうって話らしい。
場所提案は蜂園さんで、絶対峰子さん目当てで選んだに違いない。
そのまま菊乃城さん達は、通路を挟んだ向かいのボックス席に。
「洋のアレ。前よりパワーアップしてるね」
「だなぁ」
恋次と幸兎は、詰み体質の名付け親で、事情はよく知ってるんだ。
2人から見ても、詰み体質は年々悪化の一途を辿る一方なんだ。
「そんじゃー話もそこそこにして、勉強すっかー」
「よ! やる気満々っすね伊鼠中さん!」
「補習地獄は勘弁だからなーそれに」
「ほぅ? それに、なんっすか?」
言葉が尻すぼむ霞さんの頬が赤らみ、可愛らしくモジモジ。
言い出すのを見守中、ボソボソと口開いた。
「……は、初めてダチと過ごす夏休みを、目一杯楽しみたいだろう……」
「カスミン……あぁ~やっぱ好きぃ~」
「わ、分かったから抱き付くなって……い、嫌じゃねぇけどさ……」
「もう大好きぃ~!」
頬擦りハグに照れ臭が爆発寸前だ。
夏休みは皆で、色んな思い出作りを沢山して、満喫して貰いたい。
言葉を交わさずとも自然と結束する中、1つの足音が止まった。
「あ! よー君! それに皆も!」
「え! ふ、ふーちゃん? それに皆も?」
「丁度良かったね、しゅーちゃん!」
「だな。それでは赤鳥さん、約束の物をしっかりとお受け取り下さい」
ドサッと置かれたプリントの山に、赤鳥君が灰色に染まった。
初対面の恋次達と軽く挨拶し、僕の視界に入る席に座ったふーちゃん達。
何だか監視されてるみたいで、妙に緊張してしまう。
「てかぁ、全員めちゃ可愛だなぁ……よくやったなぁ洋」
「幸は相変わらずだね」
大変にご満悦な幸兎は、同性同士の仲睦まじい姿が大好きなんだ。
詰み体質で生まれる同性渋滞状況は、まさに最高の眼福場になる。
「ご注文をお伺いします。お、何だか賑やかになってるな」
ウェイトレス姿の峰子さんが、微笑ましい笑顔で注文を取る姿を、蜂園さんはガン見しまくってた。




