☆14話 勉強会合コン初日その2
※2023/4/19文末に生天目歩イラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
くじ引きで場所替えが終わり、結果こうなった。
「さぁ、手取り足取り教えちゃうぞ♪ 赤チュンチュン♪」
「ちぇ、チェンジぃいい! むぐっ!?」
「図書室での囀りは厳禁だぞ♪」
男釜田さんの力強い口封じハンドの前では、赤鳥君も成す術なし。
赤鳥君の状況よりも、僕自身の現状を冷静に対応しないと。
「つ、積木しゃん……こ、ここって分かりますか?」
「あ、はい。えっと……あ、檜木さんの勉強してるところ……後期の範囲です……」
「へぇ? ……はぅ!?」
右隣のドジっ子檜木さんは、女性陣の中でまだ詰み要素が弱いと、勝手に思ってたら全く違った。
Yシャツが2サイズ程大きく、チラチラとYシャツの先の下着が見えてるんだ。
極力手元に集中してても、ドジっ子オーバーリアクションで視界が向かされるんだ。
しまいにはオーバーリアクションで立ち上がり、スカートとふととも境界に、下着らしき物がチラ見え。
一体どうすればそこまで下着がズレてしまうのか。
理由は分かりたくはないのに、視線を逸らせない自分がいる。
「座って落ち着いて下さい、照」
「ハッ! そ、そうですね……」
即座にフォローに回ってくれた蜂園さんは、左斜め向かいに座り、スラスラとテスト勉強。
と、傍から見ればそう見えても、水面下では峰子さんに関する質問を連絡してきてるんだ。
《以前積木クンが、峰子様の水着をお選びになった際の、峰子様の様子を400字以上1200字以内でお答え下さい》
同系統の文章がこれで5つ目。
ご丁寧に記入用紙のファイルまで添付され、必ず答えろって圧で釘刺されてる。
家に帰ったらじっくり答えないと、後々が怖い。
もし今後、蜂園さんの要求がエスカレートして、いよいよって時には、峰子さんに直接注意して貰えるようお願いしよう。
蜂園さんの質問に目を通す中、真正面の菊乃城さんは再びテーブル下で、脚のいたずらしてきてる。
「んー? どうしましたか積木さん?」
さも自分は何もしていない風を装い、脚を器用に動かし続ける菊乃城さんは、本当に小悪魔だ。
「い、いえ……な、何も……」
「そうですか♪ 漢成ちゃん達は順調ですか?」
「ノープロブレムだ、ミス美香沙。赤チュンチュンも真面目にやってるぞ♪」
「カエリタイカエリタイカエリタイ……ブツブツ……」
男釜田さんも成績優秀だもんで、赤鳥君に付きっきりだから、これはこれで良い組み合わせだ。
一方の残りの男性陣は、それぞれ席の端々で、黙々とテスト勉強中だ。
結局場所替えで凹状包囲網詰みになり、勉強会合コンが終わるまで自由になれないんだ。
しかも左隣の生天目さんが、さっきからYシャツをグイグイ引っ張って来てるんだ。
「むぅ! むぅ! むぅぅ!」
「ど、どうしました?」
「サバブラの話! ツミーとしたいのに! むぅむぅ!」
ぷくーっと頬を膨らませ、涙目の訴えには、流石にテスト勉強を一時中断せざるを得ない。
キッカケを作ったのは僕なんだ。
生天目さんが納得するまで責任を果たさないと。
♢♢♢♢
「でなでな! ラスト1秒で奇跡の大逆転勝利! 見事優勝したって訳!」
「優勝候補1位チーム相手に凄いですね……確かに当時、話題になってましたもんね」
去年行われたサバブラのアマチュア県大会で、無名チームが優勝し、見届けていたプレイヤー達がお祭り騒ぎだった。
僕も空と一緒に、決勝戦のアーカイブを観て、本当に胸熱な展開のオンパレードで、丸一日興奮が冷めなかった。
「だろだろ! 優勝の興奮し過ぎで、筆が止まらんくて三徹したぐらいだし! えっとえっと! これこれ! はい! そん時、描いたやつ!」
向けられたスマホ画面には、魔術師が魔術を決めてる、最高にカッコいい美麗な油絵が。
「あ、この絵って確か……サバブラの公式イラストで見かけたような……」
「ふふーん! なんせ公式が直々に使用許可を取りに来たヤツだもん! ふっふーん!」
「マジですか! す、凄い……」
サバブラ愛も然り、一目で虜になる絵の才能は、生天目さんにしか出来ない事だ。
「そうだツミー! 聞いて聞いて! 最近、ワタシがライバル視してる奴らが、急に仲良くチーム組んじゃって、オンプレで無双状態になってんの!」
「え? そ、そんな事になってましたっけ?」
「むぅ! ワタシ嘘つかないもん! むむむむ! むぅ! コイツらの事!」
色々と柔らかな感触が触れる密着距離で、再びスマホ画面を見せてくれた。
日本ランキング1位のプレイヤー・ラグナロクと、アサシンスタイルのプレイヤー・レイブンとのツーショット画像。
アサシンことレイブンは僕で、ラグナロクは我が北高の天使先生、渕上先生だ。
渕上先生がラグナロクだと知ったのは、ここ最近。
ちょくちょく先生とオンプレで連勝してたけど、話題に上がってただなんて知らなかった。
「でねでね? ラグナロクとレイブンに負けっぱなしじゃ納得行かないから、同志達を集ってアベン〇ャーズを結成したんだ!」
「え」
「そして来月の大型イベントで、アイツらを倒すんだ!」
ここで正体を明かせば、絶対敵対するだろうし、高校でも敵対されそうで怖い。
かと言って、即興でこの場を乗り切っても、いずれボロが出るのは目に見えてる。
「で、で、で! 今日会ったのも何かの縁だし、ツミーも一緒に参加してくれない?」
両手でしっかりと手を包み、純粋なお願い眼差しで見つめられ、断る隙を与えてくれない。
「あ、そういえば、ツミーのプレイヤー名って何? ワタシはムゥムゥだよ! ほら、教えて教えて!」
昔から何度も対戦してた、魔術師スタイルのプレイヤー・ムゥムゥは生天目さんだとは、話してる内に察せれた。
生天目さんからすれば、僕がプレイヤー名を教えない理由はどこにもない。
期待と純粋な眼差しに耐えられる時間も、ずっと黙り込む時間もない。
覚悟を決め、正体を明かそうと息を呑み込んだ時。
最終手段が残っている事に気が付いた。
乗り切るにはこれしかない。
後悔する前に言ってしまおう。
「ま、マロンです」
「まろん? 栗? なんで?」
「も、モンブランが好きなんで……」
マロンは空がサバブラで使ってるプレイヤー名だ。
サバブラ歴もそれなりで、プレイヤーIDも新規じゃないから、疑われる事はない。
苦し紛れとは言え、乗り切る方法がこれしか思い付かなかったんだ。
「ワタシもモンブラン好き! じゃあじゃあ! テスト終わったら一緒にやろ!」
引くにも引けない状況に、OKの選択以外残されていない僕は、生天目さんと連絡先を交換した。
♢♢♢♢
「それでは皆さん♪ また明日です♪」
「お、お疲れ様でしゅ!」
「お互いにテストを乗り切りましょう」
「明日もガンバローぉ!」
「勉強に困ったら遠慮なく頼っていいからな」
可愛らしく手を振る女性陣を見届けた僕らは、いつもより色々と疲れ切っていた。
黄坂君と青柳君に至っては、抜け殻みたいにポケーっとしてる。
「ふ、2人とも大丈夫?」
「……麗しき女性達と同じ空間に長時間居られただけ、幸せだったんれふ……」
「ふっ……所詮、3次元は2次元の成れの果て……コミュニケーションが全く取れなかった事に、悔やんでる訳じゃな……い……さ……」
無駄のない滑らかな動作で突っ伏す2人。
緑岡君が背中を擦り慰めても、うんともすんとも反応してない。
詰み体質の僕の参加で、2人の待ち望んでいた理想の勉強会合コンが実現しなかったんだ。
初日がこうなるなら、残りの勉強会合コンは僕抜きの4人でやって貰うしかない。
きっぱり赤鳥君に言えば、納得してくれる筈だ。
「赤と」
「……積木ぃ……明日は期待しておくからな」
「ちょ、は、ハードル上げな」
「貴様の弱音は聞かん! 俺は……俺は! オカマ野郎じゃない、おっぱいのある女子と勉強がしたいんだ……くっ……」
役者も頷く感情表現でも、欲望は剥き出しなままだ。
初日は僕らに色んな深い深い傷跡を残し、幕を下ろしたのだった。




