128話 ドキドキカーニバル状態、生徒会襲来、生徒会長を無力化
青のスポーツ下着姿で歩み寄ってくる愛実さんが、ニカっと可愛らしく微笑み、グッと顔を近付けてきた。
「お昼、食べよっか!」
「え、あ、うん」
時計を見たらお昼休みが残り40分。
後半戦を考えたら、そろそろ食べないといけない頃合いだ。
愛実さんからは何が待ち受けてるか、内心ドキドキカーニバル状態だったけど、音楽が鳴り止んで静まり返ってる。
「なーに? 皆みたいに何かされたりしちゃったり、期待しちゃったか?」
「ま、まぁ……正直に言えばそうだね」
「そーなんだー♪ そんな積っちに耳寄りな情報です♪」
耳元に両手を添え、僕にしか聞こえない甘く優しい声で囁いてきた。
「球技大会終わったら、2人っきりでお出掛けします♪」
「え、そ、それってデーむっ」
「だから、それまでお・あ・ず・け♪ ね?」
口を塞いだ指先を離し、自分の唇にチュッと当てがった愛実さん。
頬を軽く染めて、クスッと笑みを溢してた。
まさかの愛実さんの方から、確定デートをしてくれるとは思わず、ドキドキカーニバルが一瞬で息を吹き返してる。
そのままキュッと手を取られ、昼食用にセッティングされた机に着き、里夜先生が預かってくれてた僕のバッグを手渡してくれた。
「うっし! 着替え完了っと!」
ものの数秒で着替え終えた愛実さんが、隣の席に座り、皆もそれぞれ机にお弁当を置いた。
あれだけ時間の掛かってた女性陣の着替えが、たった数十秒で何事もなく終えてる。
ここは何も言わず受け入れるのが、この場での正解なんだ。
「それでは皆様♪ いただきます♪」
「いただき……って、眞燈ロさん?!」
「うふふ♪ お疲れ様です♪ 洋様♪」
眞燈ロさんの馴染みっぷりに、里夜さん以外が驚いてた。
今は敵同士とは言え、今更ご退出願うのはあり得ないし、皆も驚きはするも気にはしてなさそうだ。
「わぁ♪ 皆様のお弁当、どれも美味しそうです♪」
「でしょ! おかず交換会もするんで、天宮寺先……眞燈ロ先輩も是非是非参加して欲しいです!」
「眞燈ロ先輩の料理は絶品だったな……もう一度舌鼓を打ちたい」
「あーしは、一発で胃袋鷲掴みされてっけれどもなー」
「なぁ時間勿体ねぇしよ、早く食おうぜ」
六華さんの言葉で、改めていただきますをして、おかず交換会が始まった。
が、教室の扉が勢い良く開かれ、姿を見せた複数の人影によって、余儀なく中断された。
「ドーン! 1-Bの諸君! おつおつのカツカレーライスー!」
「お! また新しい斬新な挨拶っスね! 星先輩!」
「み、皆、急に来ちゃってごめんね?」
「あー! 眞燈ロちゃんもいるー!」
我が北春高校生徒会役員の4名が襲来。
というよりかは、呉橋会長に連れられて来た感じだ。
「ほほーん? ほーん? さてさて、私の舌を唸らせられるのは、一体誰のお弁当かなー?」
「呉橋会長。貴方はまごう事なき1-Bの敵、今すぐ回れ右して下さい」
「コラコラ洋君……そんなピリピリしてちゃ、お肌の天敵だぞぉー?」
全くもって教室を出ようとせず、霞さんと六華さんの間に割り込んで図々しく座り始めてる。
そんな呉橋会長に代わり、芽白さんがぺこぺこ頭を下げてる始末だ。
「お! 洋君の唐揚げみっけ! 私の青椒肉絲と交換ね?」
「会長マジ抜け駆け野郎じゃん」
「つまり早い者勝ちって事じゃない♪」
「ならばこうしてはおれん! 洋! 私の手捏ねハンバーグ300gとおかず一品を交換してくれ!」
瑠衣さんの発言を皮切りに、女性陣に美味しそうなおかずを差し向けられ、渋滞が発生。
一旦落ち着いて貰おうにも、呉橋会長がこの場にいる限り、平和がやって来ない。
どうにか状況打破できないか、脳内をフル回転してる最中、僕のスマホの着信バイブ音が鳴り始めた。
パッと着信相手を見て、静香さんが助言してくれた、呉橋会長をスマホ一つで無力化させる方法が、ようやく叶うんだと内心ガッツポーズを決めた。
あとはこのまま、電話を呉橋会長に出て貰うだけで、ミッションコンプリートだ。
「呉橋会長、すみませんけど、この電話に出て貰えますか」
「あむあむ……んぇ? なんか言った?」
「……出ないと後悔しますよ」
「うぷぷ! 今更私をどうこうしようって話かい? 何をしたって無駄無駄♪」
「今繋げたんで、無駄かどうかは、その耳で確かめて下さい」
「もう……しょうがない人だね洋君ったら♪ この優しくてチャーミングで、美しい懐深い星ちゃんが出てやろうじゃない! はーい♪ もしもしー? どちら様ですかぁー?」
『私だ、星ちゃん』
「し、忍ちゃん……ひゃぴぃ……」
スマホ一つで無力化する方法は、呉橋家長女で呉橋会長が大好きな忍さんに連絡する事。
忍さんの声を聞いただけで、横柄だった態度が、耳垂れ子ウサギみたいにプルプルと怯えてる。
『今しがた遊優と一緒に校門にいる。生徒会室で落ち合うぞ』
「あ、え、ま、ちょ?! し、仕事は?!」
『ノルマは終わらせた。しかし、今日が球技大会本番だと何故知らせなかった』
「あ、う、だ」
『言い訳無用。黙っていたペナルティーはペナルティーだ。いつもの言葉を言ってくれ』
「ま、待って!? こ、ここじゃ無理だよ!?」
『今すぐ言わないと、拡声器を使って北高生達に、星ちゃんの100の事を広め』
「わ、分かったからやめて!?」
皆の視線が突き刺さる中、滝の様な汗を流し、徐々に赤面する呉橋会長は、グギギと僕を涙目で睨み付けてる。
ここまで来たらもう怖いもの無しだ。
「いつもの、言ってあげて下さい」
「お、おにょれぇぇ……」
『時間が勿体無い。3、2、1、キュー』
「し、忍ちゃん愛してるよ! チュッチュッチュー!」
『私も愛してるぞ星ちゃん。生徒会室で会おう』
通話の切れる音が聞こえ、呉橋会長は精神的大ダメージでフリーズ。
ただ本能的に、この場にはいられないと分かったのか、ゾンビみたいな動きで教室の扉へと向かってた。
このまま行かせるのもありだけど、僕らを振り回した分のお返しがまだ済んでいない。
多少悪いとは思いながらも、トドメの言葉を言った。
「あ、呉橋会長以外の皆さんは、残って貰ってもいいですよ」
「お! イイっすか!」
「あ、ありがとう洋くん!」
「わーい♪ 流石洋お兄ちゃんだね!」
「ち、ちくちょぉおおお!」
悔しく言葉を吐き捨てて、教室を走り去って行った呉橋会長。
あとは予定通り、忍さんと次女の遊優さんに、呉橋会長の精神体力諸々を削って貰い、後半戦を早々に離脱させる。
そして恐らく、呉橋会長が大好きな室戸先輩も、少なからず影響されるだろうから、卓球はまともに機能しない筈だ。
上手くいけば3-Bは、前半戦みたいな統率は無くなって、劣勢を強いられると思う。
「それでは仕切り直しまして♪ おかず交換会を始めましょうか♪」
眞燈ロさんの一声で、おかず交換会が再開。
各々が再び、僕に多種多様のおかずを差し向けてきた。
交換するのはイイとして、皆には少々言っておかないと。
「あ、あの! 唐揚げは一つだけ残して下さい! 姉さんが僕の大好物の味付けにしてくれたんで!」
「ほぉ、蒼さん直伝の洋好みの唐揚げか。しっかりと口で覚えておかないとだ」
「何個かに分割して、シェアしよ」
「だな! 積っちの為にいつか再現すっぞー!」
唐揚げをちゃんと一つ残し、おかず交換した女性陣は、唐揚げ達を綺麗に分割シェア。
一噛み一噛みを大事に味わい、ブツブツと意見交換し合う姿は、審査員さながらの光景だった。




