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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
最終章 球技大会
125/131

125話 粗がチラ見え、お互いに辛抱、大胆に戻る、審美眼

 1-Aと3-Bの試合は、1-Aが勝ち上がり、シード枠の僕らとの試合が決まった。


 僕らの独断と偏見で、壱良木先輩の前情報と1-Aの試合を解析した所、凛道さんの存在もさる事ながら、個々のステータスの高さが目立ってた。


 リーダーの館国さんは、手の動きが見えない程スピードが段違いな、スピード系。

 凛道さんのボディーガードの1人、八田(はった)李未梨(りみり)さんは、一撃一撃が強力でラリーが困難な、パワー系。

 もう1人のボディーガード裏節(うらふし)喜京(ききょう)さんは、ランダムで毎回技を変えて打ってくる、テクニック系。

 そして3人の要素をいいとこ取りした、高バランス系の凛道さん。


 立ち塞がる壁としては、ハードルが高くて物怖じしそうではあるけど、掴み取ったシード枠のチャンスを簡単に手放す訳にはいかない。


 情報、考え、作戦諸々をまとめてる内に、室戸先輩の3-A対東郷先輩の3-Dの試合が始まった。

 勿論僕らが注視するのは3-A一択だ。


「あ、いきなり室戸先輩が出てる」

「先勝しときたいのかな?」

「そうね、勝ち星があればアドバンテージになるもの」


 模擬戦で実力を痛い程知らしめられた身としては、初っ端から猛者に勝ち星を上げられると、冷静さが欠けて焦ってしまうんだ。

 でも、それはあくまでも以前までの話。

 成長した僕らの力で、室戸先輩にアッと言わせるんだ。


「……千和わん先輩の動き、なんか粗がチラ見えしてる」

「そうかな? いつも通りニコニコで余裕そうだよ?」

「粗……はっ」


 あだ名が百面相先輩なだけあって、どれだけ疲れていようとも、何食わぬ顔で平然と立ち振る舞えるんだ。

 でも、些細な行動まではコントロール出来ないから、粗が顔を出してるんだ。


 壱良木京泉と同一人物だから、実際の疲労度は倍。

 自らが望んだ結果なのだから自業自得だ。


 それでも尚、大健闘の末に3-Aが3勝1敗で準決勝への切符を手にしていた。


「ほいほい皆々様方、お疲れさんーちょっくら早いけどよー昼休みにすっぞー」


 昼休みを挟めば体力回復されるも、1試合分儲けた僕らはほぼほぼ全快してるんだ。

 あとは準決勝相手の1-Aに、どれだけ太刀打ち出来るかだ。

 それと2-Dの川下先輩達が、室戸先輩達の体力を削ってくれるか、はたまた勝ち進んで決勝で相見えるかだ。


 昼休みに万全な状態を整えて、いざ尋常に1-Aに挑むんだ。


 ♢♢♢♢


 心菜さん達と一旦別れ、赤鳥君達との約束前に、総合体育館での試合を観に向かった。


 入り口に着くや否や、大会場の盛り上がってる歓声が聞こえ、白熱してるのを容易に想像出来た。

 早足で2階の観客席に向かうと、階段の踊り場で黄坂君が丁度降りて来た。


「おや、積木殿~」

「あ、黄坂君、お疲れ様。試合はどんな感じ?」

「それが準々決勝でダメだっったれふ~誠に面目無いれふ~」


 2-Bのバスケ部所属鷲頭(わしず)鷹音(たかね)先輩に、コテンパンにやられたそうだ。

 怪我人こそ出なかったものの、黄坂君の癒し系顔が珍しく曇って、本気で悔しそうだった。

 努力を惜しまなかった分だけ、悔しさも比例する。

 黄坂君達の想いを晴らす為にも、僕らが頑張らないと。


「今、1-Bと1-Dのバドミントンが白熱してるんれふ~」

「夢望さん達が!」

「積木殿の応援があれば、きっと追い風になるれふから、早く行ってあげて欲しいれふ~」

「うん! 分かった! ありがとう黄坂君!」


 お礼を言った黄坂君の横を抜け、すぐ階段を駆け上がった。


 きっと黄坂君は、球技リーダーとしての責任もあって、1人になりたいんだと思う。

 まず労いよりも、気持ちの整理が出来るまで待って、戻って来たらいつもみたいに接すればいいんだ。


 階段を上がり切った先では、白熱するバドミントンを始めに、バレーとバスケの試合も大盛り上がりしてた。


「えっと……観客席の1-Bの皆は、どこにい」

「……ーーーゥゥツミー!」

「うべぇ!?」


 真横からの不意な衝撃で、くの字に折れ曲がりそうになるも、どうにか踏み止まって事なきを得た。

 そんな衝撃の主はウリウリと僕に抱きついたままだ。


「な、生天目さん……」

「ねへへ! 会うのオフ会以来だね!」

「で、ですね」

「久々の再会はいいとして、死角タックルは危ないですよ@歩さん」

「でも、イズイズ! 嬉しさが勝ればそうなっちゃうよ!」


 歩み寄って来たカチューシャ姿の蜂園さんに、強制的に引き剥がされ、僕に向けて手をパタパタ伸ばしてた。


「んあー! ツミーとお話ししたいだけなのにー!」

「今は敵同士ですし、そんな暇無いですよ。ほら、次は私達との試合ですから、行きますよ」

「あー! 終わったらサバブラ談義しよーねー! 絶対だよー!」

「は、はい!」


 羽交い締めのままズリズリと遠かる生天目さん達。

 実際、球技大会期間と夏休みを含めたほぼ二ヶ月間、連絡こそ取っていても直接会ってはないんだ。


 今日さえ終われば、いつもの高校生活に戻るから、それまでお互いに辛抱だ。


 ♢♢♢♢


 白熱のバドミントンは1-Bが勝利し、準決勝へと進んだ。

 移動時間も考えたら、夢望さん達に顔を出す時間は少しだけある。


 黄坂君達に一言告げてから観客席を離れ、早足に夢望さん達のいる一階休憩ホールに向かう道中、スマホの連絡通知が鳴った。

 相手は霧神さんだった。


《応援で総合体育館にいるから、ちょっと遅れるかも!》


 霧神さんも来てるなら、このまま一緒に戻って赤鳥君との約束を果たそう。

 事情説明し、先に休憩ホールで待ってると返事し、キャッキャと喜ぶ夢望さん達に声を掛けた。


「皆さん、お疲れ様です」

「つ、積木くん! わざわざ来てくれたんですか?」

「卓球が早く終わって、時間に余裕が少しあったんで。それはそうと準決勝進出おめでとうございます!」

「あ、ありがとうございます!」


 それから数分話し込み、着替えに向かった夢望さん達を見送った直後、背後からチョンチョンと肩を触れられた。


「つ、積木くん!」

「霧神……さ……え? ん? あれ?」


 疲れが抜けきれてないせいか、単なる見間違いか。 

 今朝開会式でチラ見した霧神さんと、風貌が全然変わってた。

 金髪は黒髪に、美形な素顔には眼鏡、輝かしいオーラも皆無になってる。


「あ、あの……ど、どうしたんですか? その姿は?」

「え? だ、だって積木くんと愛実ちゃんが、ありのままの自分でいいって言ってたから、戻っただけだよ?」


 確かにそう言ったのだけど、あくまで男装無しでの状態でイイって意味だった。

 ここまで大胆に戻ってしまうとは思わなかった。


「あ、えっと、か、髪は染めたんですか?」

「う、ううん。ヘアカラースプレーだよ」

「な、なるほど……と、とりあえず時間もあるんで、戻りながら打ち合わせしましょうか」

「う、うん!」


 長身グラマー清楚系眼鏡美人という、属性てんこ盛りな霧神さんと正体明かしの打ち合わせをし、北高でも人が来ない自販機のある休憩スペースに着いた。

 霧神さんには近場に隠れて貰い、僕がタイミングを作って姿を見せる流れだ。


 数分後、卓球場で会った時よりもボロボロになった赤鳥君がやって来た。


「よぉ、待たせたな」

「大丈夫だよ、お疲れ様」

「おぅ」


 労いの清涼飲料水を奢って、一息ついて貰い、早速本題を切り出して貰った。


「んでよ、あの例の見られてる感じなんだけどさ、開会式が終わってからパッタリ止んだんだわ」

「そ、そうなんだ」

「お陰で試合に集中出来たのはいいんだけどよ……ここに来てから急に感じてよ……しかも、いつも以上に……マジ意味不で鳥肌が止まらねぇんだよ!」


 今まで以上に霧神さんが近くで見てるのだから、そうはなる。

 ここは回りくどい事はせず、直球で行かせて貰う。


「赤鳥君。実はね、その原因の正体を知ってるんだ」

「ナ、ナニィイイイ?! ど、どこのどいつなんだ?!」

「お、落ち着いて。今、連れて来るから、後ろ向いて待っててくれる?」

「は、はわわわ……」


 怯える女児の如く、両手で顔を隠しプルプル震える赤鳥君。

 今の内に霧神さんを手招きして、目の前でスタンバイして貰った。

 あとは赤鳥君のリアクション次第だ。


「連れて来たよ。目開けて」

「は、はわわわ……って、霧神じゃねぇか。ようやく男装辞めたんか?」

「え、ぇ? ワ、ワタシだって分かるの?」

「はぁ? 俺が美人を忘れる訳ねぇよ」

「そ、それっていつから?」

「んなもん、中学で初めて話し掛けた時からだろ。てか、ずっと見てたのお前だったのかよ」

「じゃ、じゃあ、だ、大地は、ね、根暗眼鏡チビだった頃のワ、ワタシの事を……キュゥウ……」

「うわぉっちょ!? きゅ、急に倒れてくんな!? お、重……」


 霧神さんが真っ赤な顔で、赤鳥君が両肩を掴んで受け止めた。


「あとはお若い2人に任せるよ。じゃあね」

「ちょ!? つ、積木ぃいいい!? なっぷっ!?」


 押し潰された音を背後に、愛実さん達の待っている1-Bの教室へ急いだ。


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