125話 粗がチラ見え、お互いに辛抱、大胆に戻る、審美眼
1-Aと3-Bの試合は、1-Aが勝ち上がり、シード枠の僕らとの試合が決まった。
僕らの独断と偏見で、壱良木先輩の前情報と1-Aの試合を解析した所、凛道さんの存在もさる事ながら、個々のステータスの高さが目立ってた。
リーダーの館国さんは、手の動きが見えない程スピードが段違いな、スピード系。
凛道さんのボディーガードの1人、八田李未梨さんは、一撃一撃が強力でラリーが困難な、パワー系。
もう1人のボディーガード裏節喜京さんは、ランダムで毎回技を変えて打ってくる、テクニック系。
そして3人の要素をいいとこ取りした、高バランス系の凛道さん。
立ち塞がる壁としては、ハードルが高くて物怖じしそうではあるけど、掴み取ったシード枠のチャンスを簡単に手放す訳にはいかない。
情報、考え、作戦諸々をまとめてる内に、室戸先輩の3-A対東郷先輩の3-Dの試合が始まった。
勿論僕らが注視するのは3-A一択だ。
「あ、いきなり室戸先輩が出てる」
「先勝しときたいのかな?」
「そうね、勝ち星があればアドバンテージになるもの」
模擬戦で実力を痛い程知らしめられた身としては、初っ端から猛者に勝ち星を上げられると、冷静さが欠けて焦ってしまうんだ。
でも、それはあくまでも以前までの話。
成長した僕らの力で、室戸先輩にアッと言わせるんだ。
「……千和わん先輩の動き、なんか粗がチラ見えしてる」
「そうかな? いつも通りニコニコで余裕そうだよ?」
「粗……はっ」
あだ名が百面相先輩なだけあって、どれだけ疲れていようとも、何食わぬ顔で平然と立ち振る舞えるんだ。
でも、些細な行動まではコントロール出来ないから、粗が顔を出してるんだ。
壱良木京泉と同一人物だから、実際の疲労度は倍。
自らが望んだ結果なのだから自業自得だ。
それでも尚、大健闘の末に3-Aが3勝1敗で準決勝への切符を手にしていた。
「ほいほい皆々様方、お疲れさんーちょっくら早いけどよー昼休みにすっぞー」
昼休みを挟めば体力回復されるも、1試合分儲けた僕らはほぼほぼ全快してるんだ。
あとは準決勝相手の1-Aに、どれだけ太刀打ち出来るかだ。
それと2-Dの川下先輩達が、室戸先輩達の体力を削ってくれるか、はたまた勝ち進んで決勝で相見えるかだ。
昼休みに万全な状態を整えて、いざ尋常に1-Aに挑むんだ。
♢♢♢♢
心菜さん達と一旦別れ、赤鳥君達との約束前に、総合体育館での試合を観に向かった。
入り口に着くや否や、大会場の盛り上がってる歓声が聞こえ、白熱してるのを容易に想像出来た。
早足で2階の観客席に向かうと、階段の踊り場で黄坂君が丁度降りて来た。
「おや、積木殿~」
「あ、黄坂君、お疲れ様。試合はどんな感じ?」
「それが準々決勝でダメだっったれふ~誠に面目無いれふ~」
2-Bのバスケ部所属鷲頭鷹音先輩に、コテンパンにやられたそうだ。
怪我人こそ出なかったものの、黄坂君の癒し系顔が珍しく曇って、本気で悔しそうだった。
努力を惜しまなかった分だけ、悔しさも比例する。
黄坂君達の想いを晴らす為にも、僕らが頑張らないと。
「今、1-Bと1-Dのバドミントンが白熱してるんれふ~」
「夢望さん達が!」
「積木殿の応援があれば、きっと追い風になるれふから、早く行ってあげて欲しいれふ~」
「うん! 分かった! ありがとう黄坂君!」
お礼を言った黄坂君の横を抜け、すぐ階段を駆け上がった。
きっと黄坂君は、球技リーダーとしての責任もあって、1人になりたいんだと思う。
まず労いよりも、気持ちの整理が出来るまで待って、戻って来たらいつもみたいに接すればいいんだ。
階段を上がり切った先では、白熱するバドミントンを始めに、バレーとバスケの試合も大盛り上がりしてた。
「えっと……観客席の1-Bの皆は、どこにい」
「……ーーーゥゥツミー!」
「うべぇ!?」
真横からの不意な衝撃で、くの字に折れ曲がりそうになるも、どうにか踏み止まって事なきを得た。
そんな衝撃の主はウリウリと僕に抱きついたままだ。
「な、生天目さん……」
「ねへへ! 会うのオフ会以来だね!」
「で、ですね」
「久々の再会はいいとして、死角タックルは危ないですよ@歩さん」
「でも、イズイズ! 嬉しさが勝ればそうなっちゃうよ!」
歩み寄って来たカチューシャ姿の蜂園さんに、強制的に引き剥がされ、僕に向けて手をパタパタ伸ばしてた。
「んあー! ツミーとお話ししたいだけなのにー!」
「今は敵同士ですし、そんな暇無いですよ。ほら、次は私達との試合ですから、行きますよ」
「あー! 終わったらサバブラ談義しよーねー! 絶対だよー!」
「は、はい!」
羽交い締めのままズリズリと遠かる生天目さん達。
実際、球技大会期間と夏休みを含めたほぼ二ヶ月間、連絡こそ取っていても直接会ってはないんだ。
今日さえ終われば、いつもの高校生活に戻るから、それまでお互いに辛抱だ。
♢♢♢♢
白熱のバドミントンは1-Bが勝利し、準決勝へと進んだ。
移動時間も考えたら、夢望さん達に顔を出す時間は少しだけある。
黄坂君達に一言告げてから観客席を離れ、早足に夢望さん達のいる一階休憩ホールに向かう道中、スマホの連絡通知が鳴った。
相手は霧神さんだった。
《応援で総合体育館にいるから、ちょっと遅れるかも!》
霧神さんも来てるなら、このまま一緒に戻って赤鳥君との約束を果たそう。
事情説明し、先に休憩ホールで待ってると返事し、キャッキャと喜ぶ夢望さん達に声を掛けた。
「皆さん、お疲れ様です」
「つ、積木くん! わざわざ来てくれたんですか?」
「卓球が早く終わって、時間に余裕が少しあったんで。それはそうと準決勝進出おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます!」
それから数分話し込み、着替えに向かった夢望さん達を見送った直後、背後からチョンチョンと肩を触れられた。
「つ、積木くん!」
「霧神……さ……え? ん? あれ?」
疲れが抜けきれてないせいか、単なる見間違いか。
今朝開会式でチラ見した霧神さんと、風貌が全然変わってた。
金髪は黒髪に、美形な素顔には眼鏡、輝かしいオーラも皆無になってる。
「あ、あの……ど、どうしたんですか? その姿は?」
「え? だ、だって積木くんと愛実ちゃんが、ありのままの自分でいいって言ってたから、戻っただけだよ?」
確かにそう言ったのだけど、あくまで男装無しでの状態でイイって意味だった。
ここまで大胆に戻ってしまうとは思わなかった。
「あ、えっと、か、髪は染めたんですか?」
「う、ううん。ヘアカラースプレーだよ」
「な、なるほど……と、とりあえず時間もあるんで、戻りながら打ち合わせしましょうか」
「う、うん!」
長身グラマー清楚系眼鏡美人という、属性てんこ盛りな霧神さんと正体明かしの打ち合わせをし、北高でも人が来ない自販機のある休憩スペースに着いた。
霧神さんには近場に隠れて貰い、僕がタイミングを作って姿を見せる流れだ。
数分後、卓球場で会った時よりもボロボロになった赤鳥君がやって来た。
「よぉ、待たせたな」
「大丈夫だよ、お疲れ様」
「おぅ」
労いの清涼飲料水を奢って、一息ついて貰い、早速本題を切り出して貰った。
「んでよ、あの例の見られてる感じなんだけどさ、開会式が終わってからパッタリ止んだんだわ」
「そ、そうなんだ」
「お陰で試合に集中出来たのはいいんだけどよ……ここに来てから急に感じてよ……しかも、いつも以上に……マジ意味不で鳥肌が止まらねぇんだよ!」
今まで以上に霧神さんが近くで見てるのだから、そうはなる。
ここは回りくどい事はせず、直球で行かせて貰う。
「赤鳥君。実はね、その原因の正体を知ってるんだ」
「ナ、ナニィイイイ?! ど、どこのどいつなんだ?!」
「お、落ち着いて。今、連れて来るから、後ろ向いて待っててくれる?」
「は、はわわわ……」
怯える女児の如く、両手で顔を隠しプルプル震える赤鳥君。
今の内に霧神さんを手招きして、目の前でスタンバイして貰った。
あとは赤鳥君のリアクション次第だ。
「連れて来たよ。目開けて」
「は、はわわわ……って、霧神じゃねぇか。ようやく男装辞めたんか?」
「え、ぇ? ワ、ワタシだって分かるの?」
「はぁ? 俺が美人を忘れる訳ねぇよ」
「そ、それっていつから?」
「んなもん、中学で初めて話し掛けた時からだろ。てか、ずっと見てたのお前だったのかよ」
「じゃ、じゃあ、だ、大地は、ね、根暗眼鏡チビだった頃のワ、ワタシの事を……キュゥウ……」
「うわぉっちょ!? きゅ、急に倒れてくんな!? お、重……」
霧神さんが真っ赤な顔で、赤鳥君が両肩を掴んで受け止めた。
「あとはお若い2人に任せるよ。じゃあね」
「ちょ!? つ、積木ぃいいい!? なっぷっ!?」
押し潰された音を背後に、愛実さん達の待っている1-Bの教室へ急いだ。




