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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
最終章 球技大会
124/131

124話 姉御気質、彼ジャージ、3年生との時間、デリケートな話題、お昼の先約

 小休憩が終わり、シード枠のくじ引きが始まった。

 前半ブロックは1-B、1-A、3-B。

 後半ブロックは3-A、3-D、2-D。

 山々田先生が持ってる、くじ引き棒で全てが決まる。


「よーし、前半ブロックから適当に、くじ棒を選んでくれぇー」

「お先にどうぞ、1年生のお2人」


 壱良木先輩として後輩の僕と、1-A卓球リーダー館国(たちくに)ウララさんに順番を譲っても、当たりは3分の1。


「積木、アンタが先に選びな」


 姉御気質な館国さんは、小柄な上に声が可愛らしく、同性からもちゃもちゃと可愛がられてるそうだ。

 そんな館国さんのお言葉に甘え、先に引かせて頂く。。


「分かりました……これにします」

「ワタシはこれ」

「では、仲良く一緒に引きましょう。せーの」


 一斉に引いたくじ引き棒は、一本だけ先端が赤色に塗られていて、それを手にしていたのは僕だった。


「お、積木の1-Bがシードかーおめー」

「や、やったー!」

「積木くんリーダーナイスすぎ」

「準決勝進出だね!」

「見事だわ」


 優勝さながらのハグ囲みで、三方向から異なる柔ぷに感触に包まれ、喜ぶどころの話じゃなかった。


 一方で館国さんは、悔しそうにぷくぅーっと頬っぺたを膨らませていた。

 壱良木先輩に至っては、ダメージゼロといった感じだ。


 くじ引き棒を回収され、後半ブロックの番になり、その場を退いた僕らの後ろで、館国さんが凛道さんに何か話していた。


「何ですかウララさん?」

「アンタのジャージ、初戦ん時とサイズ合ってないよな?」

「え!? あ、合ってますよ?」

「いや、明らかに乳袋の主張が控えめだろ。それに袖も足りなくて、彼シャツみたいじゃんか」


 凛道さんの悩殺ボディーにジャストフィットしてたのが、違和感しかない着こなしになれば、指摘も無理はないんだ。

 ましてや相手が、皆の注目の的の凛道さんだ。

 館国さんが指摘せずとも、大多数がその違和感に気付いてそうだ。


「彼シャツならぬ、彼ジャージ……すんすん……ふぁ……」

「スンスン……匂いも刹那のじゃない……どこかで嗅いだことがあるような……ん?」


 館国さんと目がバッチリ合ってしまった。

 数秒間ものただならぬ時間の末、館国さんがピコンと反応し、僕の腰巻きジャージに視線を移していた。


「……成程な……事情は把握した。刹那、山々田先生にサイズの合ったもん頼んで来い」

「ふぁ……ふぇ? な、何か言いました?!」

「たく……ほら、行くぞ」

「わ、わ! お、押さないで下さいぃ!」


 凛道さんの背中をグイグイと押す館国さんが、僕に向けてグッドポーズを決め、その場から離れて行った。

 何か勘違いしてなければいいのだけど、何事もない事を祈ろう。


 そんなこんなしてる合間に、後半ブロックのくじ引き結果が決まり、2-Dの川下(かわしも)(つばめ)先輩達がシード枠を手にしていた。


「やたーシードーシードーうれしーなー」

「千和、お互い悔いのない試合をしよう」

「ワタシ達にとって高校生活最後の球技大会ですもんね。でも、手加減はしませんよ♪」


 なんだかんだで、3年生と一緒にいられる時間は限られてるんだ。

 あの呉橋会長との絡みも無くなるって考えたら、少し感慨深くなる。


「なーした積木くんリーダー。しょぼんして」

「あ、いや……3年生との時間も、もう少しなんだって今更思い出してたんです」

「なーほー。だったら尚更、勝たないとじゃん」

「え? は、花を持たせるんじゃなくて?」

「どっちが思い出に残るか考えたら、分かるんじゃない」


 もし自分を3年生に置き換えて、花を持たせて貰ったとしたら、一時的な喜びがあっても不完全燃焼感は拭いきれない。

 だからこそ、全身全霊で燃え尽きるまで真っ向勝負して、勝敗をつけた方が、思い出としては凄く印象に残る。


「ありがとうございます美鼓さん。3年生との思い出の為に、しょぼくれてる暇なんてありませんね」

「ね。あと、前々から言いたかったんだけど、敬語無しの名前呼びがいい」

「え? あ……言われてみれば、そうだね心菜さん」

「……へへ。でしょ、洋クン」


 照れ臭そうな笑顔で、ペタペタ肩触れする心菜さん。

 敬語無しでいて欲しい人も、こうしているんだ。

 極力自分で気付いていかないとなんだ。

 あとで鈴木さんと馬蝶林さんにも、敬語無しコミュニケーションを取って、名前呼びはそれから決めさせて貰おう。


 ♢♢♢♢


 2戦目の1-A対3-Bの試合中、外野で2チームの動きを解析してると、六華さんから連絡通知が来た。


《サッカーの2戦目、3-Aと2-1で勝ったよ! 野球も逆転ホームラン! 天晴れだね! しかも両方シード枠ゲット! 運良過ぎるよ!》


 愛実さん達も勝ち進み、シード枠までも取るなんて、今回の球技大会の追い風は、1-Bに来てるのかもしれない。

 卓球もシード枠を取ったと送ると、秒で返事が来た。


《と、鳥肌立っちゃった……こ、コレはきっと球技大会の魔物が、洋君達の味方をしてるんだよ!》

《魔物が味方なら嬉しいですけど、六華さんが味方でいてくれてる方が心強いです》

《えへへ♪ あ、そうそう! 今ね、愛実ちゃん達が休憩の合間に、洋君達の所に顔出しに行くって、ルンルン嬉しそうに言ってたよ!》


「え、愛実さん達が来」

「わぁ! 来ちゃった! 積っち!」

「め、愛実さん!?」


 真横からハグ驚かせして来た愛実さんに、2つの意味でドキドキが止まらない。

 あとから霞さんや瑠衣さん、赤鳥君も来てくれ、土汚れや汗が染みた姿を見れば、その健闘っぷりが垣間見えた。


「おひょひょひょ! 生凛道やべぇ! 揺れに揺れてぶるんぶるんじゃんか! ひょひょひょ!」

「クソドリは土に還れ」

「いでぇ!?」

「関節技ならキメれるわよ」

「あだだだだあ!? 有言実行が早過ぎる!?」


 デリケートな話題を悪びれもなく口にしたもんで、愛実さんの蹴りと野乃花さんの関節技を喰らってる赤鳥君。

 解放されてホロリと涙目だったのに、すぐにケロッとしてた。


「おろろ? なんか身体軽くなった」

「今回は施術も兼ねてるけど、次はガチよ」

「あ、はい……」


 痛みがよっぽどの教訓になったのか、ピシッと口を詰むんで正座で態度を示してた。

 あんな風にならないように、胸の話題は極力関わらない方が身の為だ。


「ねぇねぇ皆♪ もうすぐお昼だから、どこかで一緒に食べない♪」

「おけー場所は教室で良きじゃん」

「だな! おかず交換もしよっか!」

「あーめっちゃ動いたから腹減ったー」

「おいコラ待てユー達。俺は先約があんだから、勝手に話進めんな」

「クソドリは、いつメンで食べんでしょ。積っちは別だからな?」

「あ、その……言い難いんだけど……」

「へ?」


 僕のチラッと視線を向けた先にいる、小馬鹿にしたようなドヤ顔をする赤鳥君を見て、愛実さん達はキュッと顔をしかめてた。


「俺、先約、お前、出遅れ、ウェッウェッウェッウェッ」

「そこのお喋り達ーそろそろ自分とこに戻ってけー」


 山々田先生の遠回しな忠告に、愛実さん達は名残惜しそうに立ち、卓球場の出入り口にトボトボと向かい始めた。


 あのままの状態で次の試合にもし響いたら、非常にマズイ。

 それに僕も愛実さんとお昼を食べたいから、コレだけは言っておきたい。


「め、愛実さん。遅れるかもだけど、必ず教室に行くから」

「! 待ってる! 皆! 頑張っぞ!」


 花咲く笑顔で持ち直し、駆け足で卓球場から去って行った愛実さん達。

 時間差で赤鳥君の痛がる悲鳴が聞こえたのは言うまでもない。

 一時はどうなるかと思ったけど、愛実さんのハグパワーで体力が凄く回復してる。


 とりあえず、凛道さん達の試合の解析に戻ろうとしたら、心菜さんが指ツンツンを、いつも以上に速く強めにして来てた。


「ど、どうしたの?」

「先約はズルい。先に言うべきだった」

「うんうん! 心菜ちゃんの言う通りだよ! 赤鳥君と一緒に食べたいのも分かるけど、私達だって同じぐらい積木君と一緒に食べたいんだよ!」

「もし来なかった場合、それ相応の覚悟をして頂戴」

「ひゃ、ひゃい!」

「修羅場ごっこも程々になー」


 山々田先生の忠告に従って、静かにしながら解析に戻るも、試合が終わるまで3人にシャツを掴まれた状態だった。

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