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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
最終章 球技大会
123/131

123話 修復不可能、代表シングルマッチ、すんすんソムリエ、ダイナミック着眼点

 凛道さんの着替え問題を、いくらか考えはするも、やっぱりマネージャーさんに着替えを届けて貰うのが、安全且つ確実な解決法だと行き着いた。


「マネージャーさんに連絡は?」

「し、したけど……別の子を何組も掛け持ちしてるし、ジャージで対処出来てるから、後回しになると思う……」

「んー……それまで現状維持で耐えるしかないですね」

「そ、そうなるよね……うぅ……は、早く来てくれる事を祈るしかないかぁ……」


 しょぼくれ涙目で、下ろしたジャージのチャックを上げる凛道さん。

 何故か胸の下でグッと動きが止まっていた。


「……あ、あれ? ちゃ、チャックが上がらない!? どどどどっどどうしてぇ!?」


 焦るあまりに何度も何度も上下にチャックを動かし、動きに連動して胸が激しくぶるんぶるんと揺れに揺れまくってた。

 それだけに止まらず、激しい揺れでチューブトップがどんどんズレて、今にも胸が溢れ落ちそうだった。


「り、凛道さん!? す、ストップストップ!?」

「で、でもでも?! あにゃん!?」


 パキッと嫌な音が聞こえ、チャックのパーツが修復不可能な状態で外れた。


「も、もうおしまいだぁ……」

「し、しっかりして下さい!?」


 絶望顔+意気消沈+何かされたかの様な乱れ具合+凛道刹那という存在。

 そして同じ場にいる、異性の僕。

 今この場を誰かに見られれば、高校生活すら送れなくなる。


「刹那んー積木くんリーダーどこだいー? 小休憩終わるってさー」

「み、美鼓さんの声……し、仕方がないですけど、僕のジャージを貸しますんで、コレで辛抱してくれますか」

「う、うん……ご、ごめん……ぼ、僕の不甲斐ないクソ雑魚ムーブに巻き込んじゃって……ひっぐ……」


 手早くジャージを脱ぎ渡し、辻褄合わせとして僕は凛道さんのジャージを腰に結び、先に凛道さんに戻って貰った。


 去り際に何度も何度も申し訳なさそうに、頭をペコペコ下げる凛道さんを見届け、時間差で僕も卓球場へと足を向けた。


 道中で美鼓さんと合流するも、どこか不満げな表情だった。


「刹那んとさ、なーにー話してたん」

「話というか、ちょっとしたお礼を言いたかっただけみたいです」

「へぇー逢引きかー」

「な、何でそうなるんですか。違いますからね?」

「どーだか」


 疑わしいジト目と肩ツンツンをされたまま、卓球場に戻ったら、後半ブロックの準備が完了していた。


「ギリギリだぞー積木、美鼓ー」

「す、すみません」

「すまへん」

「次から気を付けろよなー。ほんじゃ、後半ブロックの初戦始めてくれー」


 足早に馬蝶林さん達の元へ向かうと、僕らが審判と得点係をする、3-Dのリーダーである毛先が金で緑のサバサバロングオールバックの東郷(とうごう)竜美(たつみ)先輩と、2-Aのリーダーである毛先が黒で金髪ショートの西ノ塚(にしのつか)虎子(とらこ)先輩が何やら睨み合っていた。


「ウチらに勝てますかね、竜美パイセン」

「抜かせ。模擬戦では私が勝ったのを忘れたのか、虎子」

「あん時は手抜きですよ、て・ぬ・き。気付いてなかったんですか?」

「ふん。私の方こそ手加減していたんだ。それで負けるような相手の実力はたかが知れてる」

「あ、あの……そろそろ始めて貰っても?」

「あーら、ごめんね積木ちゃん。ついつい話し込んじゃって」

「すまんな積木君。得点係、よろしく頼む」

「ウチとも握手ー」


 1-Bに握手をし、少々遅れをとった試合が始まった。

 実力は五分五分で、2勝2敗となり、代表シングルマッチで決める事になった。

 勿論、代表は東郷先輩と西ノ塚さんだ。


「負けたら約束通り、お昼を奢って下さいね、竜美パイセン」

「逆も然り、私が勝てば奢って貰う」


 並々ならぬライバル関係に、試合を終えた他のチームもオーディエンスとなって、試合の行く末を見届けるつもりだ。


 両者一歩も譲らず、数十回の激しいラリーを繰り広げ、お互い残り1ポイントの大接戦。

 その激しい運動量による滝のような汗で、身体のラインと下着がビッタリと浮き見えてた。


「はぁ……はぁ……ま、負ければ楽になれますよ?」

「ふぅ……ふぅ……わ、私は屍を超えて先へ進む」

「は、はははは! ど、どっちみち次で最後です。泣いても笑っても恨みっ子……無しですからね!」

「むっ!? ふ、不意打ちとは姑息な!」


 猛々しく大きく揺れる東郷先輩、波打つ様に大きく揺れる西ノ塚先輩。

 もう自分達の世界に入り込んで、自分がどんな姿なのかお構いなしだ。

 そして30回以上に及ぶラリーの末、最後の1ポイントを手にしたのは東郷さんだった。


「ま、負けちゃった……ふべぇ……」

「おっと……虎子が倒れたら、リーダーとして示しがつかんだろう」

「た、竜美パイセン……完敗です……」


 2人に大きな拍手が送られ、後半ブロック初戦が終了。


「いやはや♪ かなりの白熱でしたね♪」

「室戸先輩の方はどうだったんですか」

「完封ですよ♪」


 前半ブロックでも壱良木先輩として参戦していたのに、汗一つ流してないのだから、恐ろしい人だ。


「決勝でお待ちしてますね? 願わくばですけどね」


 焚き付ける言葉を添えて、僕の肩をポンポン触れ、卓球場を去った室戸先輩。

 ここまでされたからには、絶対に勝ち上がってやりたいけど、前半ブロックは1-Aと、壱良木先輩の3-Bのどちらかが必ず立ち塞がるんだ。


 その対戦相手は10分の小休憩後にある、シード枠決めのくじ引き次第だ。


「ねぇねぇ積木君」

「ん? 何ですか鈴木さん」

「なんか甘くてフルーティーな香りが、微かに積木君からするんだけど、気のせいかな? すんすん……」


 腰巻きの凛道さんジャージが近過ぎて、残り香に全然気付けなかった。

 香りの正体を知られたら、今後白い目で見られ、築いてきた友人関係にも亀裂が入り、最悪1-Bで孤立なんて事もあり得る。

 ここはそれっぽい理由で乗り切るべし。


「せ、清涼スプレーの匂いじゃないですか?」

「えー? でも、積木君がいつも使ってたのって、石鹸のいい匂いのヤツじゃなかった? スンスン……」


 考えてみれば一緒にいる機会が多いから、当たり前に使ってた物を知らない訳がないんだ。

 どんどん顔を近付け、腰巻きジャージにロックオンされた時、鈴木さんの顔前に手が伸びて来た。


「2人とも、体育館の試合チラ見してこ。野乃のんが待ってる」

「あ、そうだね! ナイスアイディア! 心菜ちゃん!」

「で、ですね! い、行きましょうか!」


 美鼓さんの割り込みがなかったら、すんすんソムリエに香り元を特定されてたところだった。


 ♢♢♢♢


 体育館ではバレー・バスケ・バドミントンの3球技の試合が行われてる。

 ただ場所に限りがある為、総合体育館でも同時にやってるそうだ。


「バレーの峰っ子さん達が、3-Bと第2試合中みたい」

「ですね。明らかにギャラリーの数が違いますもんね」


 黄色い歓声を上げる女性達が、2階ギャラリーとコートの周りを埋め尽くし、近くで観戦出来ない状態だ。

 ザッと見渡すと、義刃峰子ファンクラブの会員が大多数で、顔見知りの敵チームも普通に混ざってた。


「キャアアアアア! 姉様! カッコいいです!」


 中心部に一際存在感を放ってる、西女にいる筈の学ラン応援団姿の蘭華さんが、さも当たり前のようにいるけど、わざわざサボったんだろうか。


 とりあえず小休憩の合間なんだ。

 このまま若干遠巻きからの観戦で我慢だ。


 丁度峰子さんによるサーブが放たれ、受け止めた相手チームも負けじと反撃。

 連携プレイからの強烈なアタックを、インコースギリギリでトスを上げ、峰子さんのダイナミックなアタックが炸裂。

 凄まじい威力は誰にも止められず、1-Bに得点が入った。


「流石峰子さん!」

「おぉー司んより揺れがダイナミック」

「私より大きいのに、あれだけ動けるなんて羨ましいよ!」

「私には無縁な話だわ」


 着眼点が違う御三方に、突っ込む余地はないので、何も言わない事にした。


 チーム内でハイタッチし合う中、峰子さんがピクッと何かに反応し、キョロキョロとギャラリーを見渡し始めてた。


 鳴り止まない歓声に応えながら見渡し続け、ハッと僕を視界に捉えた瞬間、爽やかで美しいウィンクが発動。

 思わずドキッとする不意打ちなウィンクに、ギャラリーの女性達は艶かしい声を上げて腰砕けてしまってた。


「わ、わぉ……うぃ、ウィンクの破壊力ヤバし」

「あ、あれが峰子ちゃんマジック……しゅごい……」

「ファンクラブが出来るのも頷けるわ」

「でも、何で急にウィンク?」


 3人が小首を傾げるのを他所に、僕は峰子さんに向かって、拳をグッと胸の前にやって、頑張ってとお返しした。


 パァッと可愛らしく反応した峰子さんは、任せろと言わんばかりに、ドンと胸を叩き揺らし、試合に戻って行った。


 最後まで見届けられないのが残念ではあるけど、僕らも同じぐらい頑張らないと。


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