☆122話 抜けてる副部長、ギャップの文面、アイドルと死角での話
※2024/4/10文末に山々田先生のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
トーナメントのくじ引きの結果、初戦は2-Cになった。
幸い師走さん本人は、別球技でこの場にはいない。
勝利条件は至ってシンプル。
5ポイント3ゲーム先取で3勝したチームが次に進める。
もし2勝2敗になった場合は、代表を1人ずつ選び5ポイント1ゲームで決める。
選手は球技リーダーが順番を決め、途中交代は基本無しになってる。
「ほんじゃ、前半ブロックから初戦やんぞー」
山々田先生に従い、卓球台の8台の内2台で、各試合のシングルマッチを2人同時に進める事になってる。
出番のないチームが審判や得点係になるのが、この球技大会でのルールだ。
前半ブロックの僕らが、指定の卓球台へと向かうと、凛々しい顔立ちの茶髪ポニーテルの、2-C球技リーダー金倉由紀先輩が近寄って、僕に手を向けてきた。
「模擬戦では負けたが、今回は負けんぞ」
「望むところです」
グッとお互いに勝ちを譲らないと、握手越しに伝え合い、前半戦のスタンバイが完了し、美鼓さんと馬蝶林さんの試合が始まった。
「ほーれぃ!」
「えりゃ!」
無駄な動きを削り、最適なフォームと力加減を身体に染み込ませた2人に、相手は最初から手を焼いて、あっという間に1ゲームずつ先取。
「ふぅーまだまだいける」
「先輩達に言っておきますが、勝たせて頂きます」
模擬戦当時の接戦とは比べ物にならない、圧倒的な大差で1-Bは2勝を飾った。
後半戦、僕と鈴木さんの番になり、鈴木さんと相手になる金倉先輩は、額からツゥーっと汗を流し、軽く手が震えていた。
「き、君達の成長っぷりには、驚かされてばかりだな」
「さ、最近確かに下着のサイズがキツいですけど、よく分かりましたね!」
「いや、そういう意味ではないのだが」
「はひゅん!?」
天然の小ボケを炸裂させる余裕は、前までは無かったんだから、目覚ましい成長なのは確かだ。
そのまま僕らのペースに飲まれた金倉先輩達は、1ゲームも取る事がないまま、1-Bの完封で初戦を見事に突破した。
「こうも見事にやられたら清々しいものだ。おめでとう1-Bの皆、私達の分まで頑張ってくれ」
「はい、ありがとうございました」
「あざんます」
「が、頑張ります!」
「ところで金倉先輩。Tシャツが前後ろなのは、わざとなのかしら」
「ん? ハッ! 違和感の正体はコレだったのか!」
弓道部の副部長に似つかわしい風格とは裏腹に、ちょっと抜けてるのが金倉先輩だ。
模擬戦の時は、Tシャツを裏返しに着ていたり、スポーツバックが買い物用のエコバックだったり、タオルがおしぼりだったりと、抜けのオンパレードだった。
そんな金倉先輩達と握手を交わし、10分の小休憩を挟んでから、後半ブロックの試合が開始になる。
このまま勝ち進めれば、準決勝で1-Aと戦う事になるんだ。
そして後半ブロックにいる室戸先輩の3-Aは、決勝でしか再戦は叶わないんだ。
一応、全体の初戦が終わったら、勝ち残ったチームで再度、くじ引きで2チーム分のシード枠を決めるそうだ。
シード枠になれば1試合分をスルー出来るから、是非とも当たりを引き当てて体力を温存しておきたいところだ。
♢♢♢♢
小休憩中、2回戦に向けて話し合ってると、六華さんからの連絡通知が来た。
《洋君! 2-Aと3-0で、愛実ちゃん達が勝ったよ! 野球も2-0で優勢! 皆凄いよ!》
いつ見ても文面とのギャップが凄まじい。
卓球も初戦突破したと送ったら、数秒で返事が来た。
《凄い凄い! 完封するなんて最強過ぎるよ! まずは初戦突破おめでとうだね! 洋君達、毎日沢山頑張ってたもんね!》
新学期から始まった球技大会期間、皆と頑張ってきたのは嘘偽りのない事だ。
ただ、たったの数週間しかまだ経っていないんだ。
それに比べれば、六華さんは毎日漫画と向き合って、今も高校漫画コンテストの締切間近なのに、こうしてお願いを聞き入れてくれたんだ。
そんな六華さんの姿に少なからず影響されてるんだ。
《ありがとうございます。六華さんのひたむきに努力し続ける姿を見てると、僕も頑張ろうって力を貰えてます。だから、そっちの意味でも、ありがとうございます》
《えへへ♪ 直接は恥ずかしいから言えないけど、私も洋君からいっぱい力を貰ってます! じゃあ、また連絡します!》
六華さんと文面でやり取りしてると、自然とその文面通りの姿に脳内変換されるんだ。
連絡したての最初こそ違和感があり過ぎて、どっちが本当の六華さんなのか疑心暗鬼に陥ってた。
それでも日々の交友を積み重ねて、六華さんを知る度に、どちらかと言えば文面での六華さんが、本当の素の姿なんじゃないかと思える様になった。
「えー六華さん情報によると、サッカーは勝ち星、野球も優勢だそうです」
「やるねー」
「うぅ……どっちも観に行きたいのに、もどかしいよぉ!」
「かと言って、負けて観に行く選択肢は無いわよ」
「うん! 勝って勝って勝ちまくって、皆に良い報告するよ!」
「あの……ちょっといいですか?」
僕らの背後から声を掛けてきた、アイドルオーラを放つ凛道さん。
どうやら1-Aも初戦を余裕で突破したっぽい。
「おぉー生刹那ん、別次元人間じゃん」
「か、可愛すぎて目が痛いよぉ!」
「握手して貰えるかしら」
「勿論喜んで!」
握手だけに留まらず、自らハグをする、まさに神対応の鏡。
それはそうと、僕らに一体何の用なんだろう。
「えっと、何か用があるんじゃないんですか?」
「あ、そうでした! 積木君と少しお話したい事がありまして、ちょっと来て貰えますか?」
「話ですか……分かりました」
一瞬だけ素の陰キャを見せた凛道さん。
きっと人目の多いこの場だと、話し難い用件に違いない。
1-Aチームの強烈な視線と、何事かと興味有り気な無数の視線を浴びながら、卓球場近くの階段下に移動して来た。
誰も来てない事を入念に確認し、アイドルオーラをシャットアウトした凛道さんは、プルプルしながら話し始めた。
「そ、そのさ? ぼ、僕も詳しい事は分からないけどさ? 積木君が僕の為に、色々とやってくれたんでしょ?」
「霧神さん問題の事ですかね」
「か、かな? だ、だから、そのお礼を言いたくて……あ、ありがとう!」
ぺこぺこと何度も頭を下げてまで、お礼をするだなんて、凛道さんは律儀過ぎる。
小麦さんに相談ではあったけど、愛実さんが関わっていたから、黙ってる訳にはいかなかったんだ。
「わざわざありがとうございます。僕にとっても、大事な人を守る為でしたから、当然の事をしたまでです」
「え……そ、それって……あ、あぅ……」
「凛道さん?」
急に顔を赤くして俯いてしまった。
おかしい事は何も言ってないのに、どうしたんだろう。
「は、初めてそんなこと言われたら……ぼ、僕……ど、どうしたらいいんだろう……あうぅう……」
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ではないけど大丈夫……顔が熱い……ふぅふぅ……」
パタパタと手を仰いで、熱った顔を一生懸命冷ましてるのもあり、フワッとフルーティーな甘い香りが鼻を刺激してくる。
「そ、そういえばさ! ぼ、僕さ、今日遅れて来たじゃん?」
「え? ま、まぁ、そうですね」
「り、理由がどうあれ、み、皆に迷惑かけた訳じゃん? だから、アイドル風情がちょ、調子乗ってるとか、む、無視しようとか、陰口とか言われてない?!」
「だ、誰も言ってませんよ。むしろ、皆凛道さんが来てくれて喜んでますから」
「だ、だといいけど……あばばば……し、心配だぁ……」
素のマイナス思考は相変わらずで、落ち着いて貰う為に、遅れた理由を聞いてみた。
早朝のネット番組出演後、通勤ラッシュの渋滞にぶち当たり、卓球場に来るまでの道中でも生徒に取り囲まれそうになったりしたそうだ。
球技大会後もすぐに仕事に向かうスケジュールで、本当に多忙極まりない日々を送ってるそうだ。
「も、もう朝からバタバタしちゃってさ? 着替えもろくに出来てなくて、ジャージ着て誤魔化すしかなかったんだよ……」
「じゃあ、下は衣装のままって事ですか?」
「い、いや、こんな感じ……んしょ……」
首元まで上げたジャージのチャックを、躊躇いなく降ろすと、ヘソ見えの白チューブトップ姿で、卓球後もあって肌が若干艶めいてた。
「コレさ? ちゃ、ちゃんとした下着でもないし、動き用じゃないから、卓球してる時もおっぱいが無駄に揺れてさ、集中出来なかったんだ……こんな風にさ?」
「ゆ、揺らさなくてもいいですから……そ、それと簡単に見せるのは控えた方が……」
「え、え? し、下着じゃないんだよ? それに相手が積木君だからいいでしょ?」
何がいいのかさっぱり分からないけど、自分が如何に人を惹きつける身体なのだと、もっと自覚して欲しい。
兎にも角にも、事情を知ってしまった以上、どうにか力になって上げないと。
「ま、まだ時間ありますし、今すぐ着替えて来て下さい」
「じ、実はジャージ以外の着替え、送迎の車に忘れちゃって……ど、どうしよう……」
「え、えぇ……」
着替えが無いという状況に、一体どうすればいいんだろう。




