12話 危ういテスト勉強、勉強会は建前
夏休みまで残り2週間ちょっと。
首を長くし待ち望んでいる生徒達が、まだかまだかと浮き足立ってる時期だ。
しかし、期末テストという大きな壁を越えない限り、夏休みがやって来ないんだ。
10教科中赤点3つで、夏休みは補習地獄。
それだけは絶対回避したい、その一心で猛勉強をする生徒が多い。
僕は予習復習が日課で、成績も上の下から中で、補習は回避出来る。
周りの皆さんも、かなり優秀で夏休みは大丈夫そうだ。
若干2名を除けば。
「うぅ……ベンキョウ……アタマガ………ワレルゥ……」
「愛実さん……まだ時間はありますし、大丈夫ですって」
1人目は瓦子愛実さん。
テスト期間に入ってから、頻繁に勉強頭痛に悩まされ、ポンコツロボットみたいになってる。
以前、愛実さんの学力を聞いた際、家庭科・体育・音楽・美術は高成績で、テスト教科は全然ダメ。
下の中を行けば万々歳との事だった。
「んー? これで合ってるか?」
「残念ながら間違ってるわ、ありすちゃん」
「マジ? 古典は訳わからん!」
2人目は風渡ありすさん。
滝さんに勉強を教えて貰っても、ちんぷんかんぷんなご様子。
風渡さんも根っからの体育会系で、愛実さんとどっこいどっこいな成績だそうだ。
もし補習地獄になれば、大好きな水泳部にも出られない、とてもピンチな状態だ。
2人の共通目的は勿論、赤点回避。
ちょっとした時間で確実に点を取れそうな箇所を、重点的に教えるも、愛実さんの進展は牛歩だ。
「積っち……ごめんな……私がへっぽこでさ……」
「そ、そんな事ないです! 僕も教え方がイマイチだから、もっと別な方法を考えますね!」
「……積っちの足引っ張るのは、嫌なのになぁ……」
いつもの前向きで明るい愛実さんを、ここまでマイナスにする勉強を絶対に打ち負かしたい。
勉強を教えてる今も、何だかとっても頼られてる感じがして嬉しいんだ。
だから、僕が愛実さんに言えるのは、これしかないんだ。
「あ、足は引っ張られてません。そ、それに僕は愛実さんと……その……」
「?」
「い、一緒に夏休みを楽しみたいので……」
前々から言いたかった本音を、こんな形で言ってしまった。
愛実さんに妙なプレッシャーを与えると思い、テスト終わりのタイミングで言うつもりだった。
チラッと愛実さんの反応を見たら、仄かに赤らんだ顔で凝視してた。
「積っち。私も同じ気持ちだから、絶対満点取るからな!」
「ま、満点は流石に無理かと」
「そんぐらいの心意気になったって事! ほらほら、ここ教えてくれ!」
プレッシャーになるどころか、勉強意欲が増幅した。
距離間も分かり易く近距離で、足や腕も触れ合って、ドキドキが止まらない。
愛実さんの勉強意欲が続く限り、力になり続ける。
俄然やる気に満ちた時、峰子さんが一冊のノートを僕らに向けて来た。
「待たせたな、愛実! テスト攻略ノートが完成した!」
「マジか! 峰子師匠!」
「あぁ。六華にも協力して貰ったんだ」
「たくよ……挿絵をどんだけ描かされたと思ってんだ?」
「六っちゃん! 峰子師匠! うぅ……あんがとぉー!」
前々からテスト攻略ノートを率先して自作していた峰子さん。
林間学校明けから作り始め、1週間ちょっとで完成した事になる。
愛実さんと中身を拝見すると、綺麗な字で要点や注意点、挿絵でアドバイスなどなど、これさえ見れば余裕で成績上位者になれる分かり易さだった。
しかもテスト教科分を全て網羅、まさに完全必勝攻略ノートだ。
「しゅ、しゅごく分かりやしゅい……」
「おーい、幼児退行してんぞー愛実ー」
「想像以上の反応に嬉しいな」
照れ臭そうな2人に、全力感謝ハグをする愛実さんは、ふと我に返り、僕を見ていた。
どこか申し訳ない表情を浮かべてる。
合う合わないは人それぞれなんだ。
僕としても愛実さんに合った勉強法でやってくれた方が嬉しい。
「大丈夫ですよ愛実さん。とにかく今は、夏休みの為に攻略ノートを覚えましょうね」
「積っち……そうだな……やるっきゃないよな! ありがとうな!」
気持ちを汲み取り、真っ直ぐな笑顔を向ける愛実さんの背中を、ソッと支えられればいい。
攻略ノートを食い入る愛実さんに、峰子さんが丁寧に優しく細く説明や覚え方を教え、補習地獄は大丈夫そうだ。
「積木ーヘイ、こっちにカモン!」
珍しく赤鳥君に呼ばれ、向かいの席に座るや否や、俗に言うゲンド○ポーズを取り、ど真面目な空気を作ってた。
とても重要な件かもしれない、心して耳を傾けよう。
「あ、赤鳥君?」
「……いいか積木。一言も聞き漏らすんじゃないぞ」
「う、うん」
思わずゴクリと息を呑み込む、圧倒的な重圧に、自ずと身が引き締まる。
「……我々は期末テストに向け、勉強会を開きたいのだが……如何せん、メンバーが野郎オンリーだ。全くもって捗らねぇのは目に見えてる」
前置きはさておき、真剣な眼差しの奥にあるのは、女子人脈のある僕がいれば、理想の勉強会が叶えられる、そう言った願望だ。
真剣な内容だと勝手に身構えてたから、一気に気が抜けた。
「……何となく察したよ」
「のほほ! 君のそんなところ、好きやで?」
ウィンクからのお茶目な告白に、冗談でも背筋がゾワっとした。
「でだ。俺は今作戦に素晴らしき名前を付けた!」
「な、名前?」
「おぅ! 名付けて……お勉強会合コンんんん!」
「あ、うん」
一切濁さずに合コンって言っちゃってる。
「お互い人数は5人! 開催場は女子陣営が望むままに! お開きは夕飯前まで!」
「5、5人も……」
「おぅ! だから積木……女子集め、頼むぜ?」
都合良く5人が揃う予定を立てられるかどうかだ。
今日の内に連絡するだけして、大丈夫そうなら赤鳥君に伝えよう。
「何か面白そうな話をしてますね♪」
「ひゃ?! き、菊乃城さん!」
僕の耳元で話しかけて来た、1-Cの菊乃城美香沙さん。
肝試し実行委員会でお世話になった、妙に色っぽくて不思議な人。
汗を掻きやすい体質で、しっとりと常時艶めいて、夏服もかなり透けて、目のやり場に困る。
独自の北高女子ランキング入りしてる菊乃城さんを見て、赤鳥君は鼻の下を分かり易く伸ばしてた。
「よ、よぉ菊乃城! 話聞こえてたなら、どうっすか!」
「部活動もお休みなので、お友達にも声掛けてみますね♪」
「ひゃっほー!」
トントン拍子で話が進み、今日の放課後、図書室で勉強会合コンの開催が決まった。
お陰で女性陣を集める必要が無くなったんだ。
菊乃城さんに心で感謝しつつ、手を振り見送った。
そうこうしてる内に休み時間も終わりそうで、席を立とうとした瞬間、赤鳥君にノールックで肩をがっしり掴まれた。
「積木、一応言っておくけど、テスト期間中は勉強会合コンに付き合って貰うからな?」
「え。こ、今回限りじゃ?」
「チッチッチ……君は忘れてるのかい? 林間学校でのペナルティを!」
「な……」
林間学校で一方的なペナルティー制度を設けられ、アウトになってるんだ。
主なペナルティー条件は、異性と楽しげに触れ合ってる、と勝手に思ってるけど、とにかく言えるのは赤鳥君には逆らえないって事だ。
詰み体質での勉強会合コン、一体どうなるんだ。




