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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
19章 球技大会前の日々
119/131

☆119話 妹の背中流し、髪ブラ、黙って100秒間、アウトゾーン

※2024/4/8文末に馬蝶林実々花のイラストを追加しました!

※イラストが苦手な方はスルーで!

 防御力皆無な腰巻きタオルを装備後、女性陣の楽し気な声が響く、浴場の扉を恐る恐る開いた。

 大浴場にジャグジー、打たせ湯にサウナ、露天風呂まで完備されて、もはや家庭規模のお風呂ではなかった。


 幸い、全体的に湯気が立ち込め、皆のシルエットがなんとなく分かるぐらいだ。

 よっぽど近くない限りは安全って事だ。


「来たわね」

「ひょ!?」

「お兄ちゃん、ここに座って」

「う、うん」


 待ち伏せしてただろう、タオル巻き姿の馬蝶林さんと空に誘導され、洗い場の風呂椅子に座った。

 極力、空の方に意識を向け、今後の関係性に支障をきたさないように尽力しないとだ。


 そんな事を考えてると、程よい温度のシャワーで全身を濡らされ、目を瞑ってひたすらに耐え凌いでいた。


「よし! では、頭洗いまーす♪」

「空ちゃん、シャンプーよ」

「あざます♪ それじゃあ行くよ、お兄ちゃん♪」

「お、お願いします!」


 こしょこしょと優しい頭皮マッサージみたいな洗い方、疲れた身体もリラックス出来て、いつまでもやってて貰いたい気分だった。


 同じ工程を丁寧に2回繰り返し、洗い流された頭皮は、見違える程スッキリ爽快になった。


「どう? 気持ち良かった?」

「うん。やって貰った方が何倍も良いね」

「ふっふーん♪ お次は背中を流しまーす♪」

「泡立ち抜群のボディタオルと、保湿力最強のボディソープよ」

「どもども♪ 愛情込めて泡立てるので、少々お待ち下さーい♪」


 横で一生懸命もしゃもしゃ泡立てる空を、横目で微笑ましく眺めてたら、ピトッと背中に誰かの手が置かれた。


「服の上からだと分からなかったけど、積木くんって生身だと、しっかりしてるのね」

「そ、そうですか?」

「えぇ。腕とか背中とか、男らしいと言えるわ」

「ひょわっ!?」


 背中や腕に指先を滑らせ、慣れてない感覚にピクピクと反応してしまう。


「ふぅ! 泡立て完了……ん? あ!? 私の許可なくお兄ちゃんに触れちゃダメ! めっ!」

「つい好奇心が優ったのよ。悪気はないわ」

「ぐにぃ……お兄ちゃんも声を大にして、言いたいこと言って良いんだからね!」

「す、すみません!」


 真っ当なド正論を言われ、兄としての威厳はこの場じゃ通用しなさそうだった。


 改めて泡を肩にモコモコ乗せられ、腕や背中に伸ばし広げ、背中流しが始まった。

 ただボディタオルではなく、小さな手の平でだ。


「あ、あの……空さん? 手でやられてます?」

「そうだよ? この方がしっかり洗えるんだよ♪」

「へ、へぇー」


 丹念に洗ってくれることは冥利に尽きるけど、吐息が乱れ始めてるのは気のせいだと思いたい。


「ず、ずっと触ってられるよ……うへへ……じゅるり……」


 別な意味で危なっかしい独り言は聞き流し、数分間に及ぶ背中流しが無事完了した。


「どうだったお兄ちゃん♪」

「よ、良かったよ。ありがとう。あ、ま、前は自分でやるから、あとはいいよ?」

「さ、流石にやらないよ! 興味はあるけど……」

「へ?」

「な、なんでもないよ! の、野乃花さん! 行こ! ……野乃花さん?」


 返事のない馬蝶林さんをチラッと見たら、口に指を添えて真剣な表情だった。


「……私はいないものだと思って、やって頂戴」

「絶対ダメですぅううう! お兄ちゃんのお兄ちゃんは見させませんんん!」

「小さいのに力強いわね、空ちゃん」

「お兄ちゃん! 先に浸かって待ってるよ!」

「あ、う、うん」


 ずりゅずりゅと馬蝶林を引き摺り、ザブンと2人分の入浴音が聞こえた。

 誰も近くにいない今の内に、残りの箇所を手早く丁寧に洗い、腰巻きタオルを結び直して、大浴場へと足を向けた。


「それにしても……湯気が凄いや……足下気を付けな」

「いとじゃん」

「ふぁっす?! み、美鼓さん? あ、あれ? ど」

「目の前」

「うおわっ!?」


 視界を戻した先に、いきなり現れたもんだから、尻餅を盛大に着いてしまった。


「ごめ、立てる?」

「あ、ありがとうござい……あ、あの……た、タオルの方は?」


 手を貸す美鼓さんの違和感は、空達と肌色面積の多さが違う点だ。

 恐らく顔から下に視線を向けるのは、絶対にアウトだ。


「タオルは邪魔だからしない(たち)。ま、髪ブラあるから万事解決じゃん?」

「な、何も解決してないです」

「気のせい気のせい。ほら、お湯に浸かろ」

「あ、ちょ」


 ギュッと絡めた僕の腕を、身体にピタッと当て、布越しにはない素肌の柔らかさに、意識を持ってかれそうだった。


 カチコチな動きなまま乳白色のお湯に入り、空達と合流。

 2人もタオルを外してるのか、浴槽縁に2人分のタオルが畳んであった。


「温泉最高、野乃のん」

「それは良かったわ」

「心菜さん。なんでお兄ちゃんの腕に絡んでるんですか」

「視界悪いから、エスコート的なヤツ。ね」

「ま、まぁ……嘘は付いてないよ」

「ぐにに……お迎えすれば良かった……ギリギリギリギリ……」


 今すぐにでも美鼓さんを引き剥がそうと、歯をぎりぎり鳴らしてる。

 きっとタオルを巻いてないから、思うように動けないんだ。


 一応エスコートは完遂されたので腕絡めは解かれた。

 このままお湯に浸かれば、身体が見えなくなって一時の安全が訪れる筈だ。


 淡い期待を抱き、お湯に浸かった瞬間、一瞬でお三方に囲まれた。

 やっぱり詰み場にいる以上、期待なんかしちゃダメなんだ。


「100数えるまで出ちゃダメよ」

「出る素振りしたら、やり直し」

「3回やっちゃったら……た、タオル取って貰おうかなー?」

「じょ、冗談だよね?」

「今日は無礼講よ。タオルの一枚や二枚、安いものじゃない」

「だーじょぶ。見ても内緒にするし」

「そ、そういう事だから、お兄ちゃん。頑張ってね♪」


 黙って100秒間浸かれば、なんら問題ないかに思えるけど、そう簡単な訳がない。

 既に視界の届かない水面下で、3方向からソワソワと僕の肌に触れてきてるんだ。

 距離もじわじわと縮め、30秒経つ頃には身体が触れ合い、僕の手を掴んで素肌に触れさせて来てる。


 残り45秒間、どうにか目の前の現実から意識を逸せる、何か良いものがないか、自由の利く視界と聴覚を集中。

 近場の打たせ湯に2人のシルエットが見え、湯気が薄れて徐々に正体が明確になってきていた。


「くふぁ……肩こりに効くよぉ……」

「爽ちゃんも胸大きいもんね。ワタシは日々のストレッチを欠かさないから、こったりした事ないんだよね」

「にゃ、にゃんですと!? あとで教えて!」

「勿論だよ! 手取り足取り教えるね!」


 霧神さんと鈴木さんの、ほぼ全ての肌色が見えてるものの、謎の濃い湯気がアウトゾーンを絶妙に隠してくれてる。

 それでも抜群なスタイルを誇る両者を、これ以上見る訳にはいかない。


 でも、お陰様であと10秒、5秒、0秒と、100秒間を乗り切ることに成功出来た。


「ひゃ、100秒経ちましたよね?」

「あ、数えてなかった! って事は……」

「もっかいだね」

「そ、そんなの無しです! 僕はキッチリ数えてたんで、上がらせて貰いますからね!」

「あ、お兄ちゃん!」


 はなからルールを守る気が無かったのなら、ルールを守った僕もそうするだけだ。

 案の定、僕を止める事はせず、何やらコソコソと話し合ってる3人。

 また変な事をされる前に、最後に露天風呂に入って、上がってしまうのが吉だ。


 露天風呂の扉を開くと、石造りの立派な庭付き露天風呂が広がってた。

 ここが温泉じゃなくて、タワマンのお風呂なのを忘れてしまう程、一般家庭離れした景色だと改めさせられる。

 ちょっと熱めなお湯に浸かり、奥の方へとスイスイ移動し、石の壁にもたれかかった。


「ふぅ……やっと落ち着」

「ふばぁ!」

「ぎゃ!? いて?!」


 いきなり目の前で、大きな飛沫が上がったもんだから、驚いた拍子に頭を壁にぶつけてしまった。

 薄っすら涙目を浮かべてると、目の前にいる飛沫の元凶が声を掛けてきた。


「どうでい洋ちゃんお兄ちゃんさん! 我が家のお風呂はお気に召したかな?」

「み、実々花ちゃん? って、前?!」

「前? おぉー! 結構いい身体っしょ? ドヤドヤドヤ!」


 タオル無し姿で堂々と立ってるせいで、アウトゾーンもお披露目になって、目を逸らす一瞬だけ見てしまった。

 せめて手で隠してくれてもいいのに、一切隠す素振りを見せず、ドギマギが止まらない。


 もう温泉でゆっくりするのは諦めて、さっさと退散するのが身の為だ。


「あ、さ、先上がるね!」

「えぇー? はっ! ははぁーん? もしかして照れちゃってんの? おかわー♪」

「あ、積木くんと実々花ちゃん! お話ししーまーしょー♪」

「司ちゃんお姉さん! らっしゃーい!」


 霧神さんがタオルを前に添えるだけの、頼りない防御姿で接近。

 歩む度に隠しきれないアウトゾーンがチラッと見え、視線を向ける事が出来なくなった。


 これ以上詰み要素が集まる前に、強引にでも温泉から出ないと、本格的にまずい事になる。


「ちょ、ちょっとのぼせちゃったかもなんで、上がりますね!」

「確かに顔赤いもんね……お話出来ないのは残念だけど、脱衣所まで付き添って上げるね!」

「あ、わっふ?!」

「わたしも手伝うZE☆ わたしの腰に手を回して、レッツらゴー!」


 右腕に霧神さん、左腕に実々花ちゃんの、生肌濃厚接触付き添いに、本気でのぼせそうになる。

 両腕に意識を持っていかれながら、危うい足取りで脱衣所まで移動して、椅子に座らせて貰った。


「お水取ってくるから、待っててね!」

「新しいタオル持ってくるわいな! ちょい待っててな!」

「あ……ありがたいけど、もう全部見えちゃって……る……」


 揺れ動く肌色景色を最後に、僕はキューっとのぼせて、数分間気を失った。


 そして目を覚ますと、心配そうに見つめる女性陣全員に取り囲まれていた。

 安堵の顔を浮かべる女性陣は、全員タオル無し姿で、申し訳なさとさ情けなさに浸る間もなく、思考停止のち再び気を失った。


挿絵(By みてみん)

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