表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
19章 球技大会前の日々
118/131

118話 妹の分まで、似てない姉妹、お泊り会とタワマン、おもてなしと温泉

 思い掛けない空との遭遇に、かなり驚くも、朝に友達とお泊まり会するって、言ってた気がする。

 ついつい自分のお泊まり会とか、練習の事で頭がいっぱいで、記憶がおぼろげになってた。

 確か姉さんも友達を家に招いて、今頃お泊まり会してる筈だ。


 兎にも角にも、空もお菓子を買うなら、ちゃんと一緒に払わないとだ。


「そ、空? ポテティチョコ買うんだよね?」

「え? う、うん! 友達に積木家の定番お菓子を食べて貰いたくてね! もしかしてお兄ちゃんも?」

「うん、やっぱり似た者同士だね。ほら、カゴに入れて」

「ありがとうお兄ちゃん! えへへ」


 今日一日、イマイチな立ち振る舞いで、寝る前に1人反省会を開こうと考えてたけど、空のお陰で少し気持ちが楽になった。

 そのまま自然と頭を撫でて、空もご満悦な中。

 カゴを持った淡緑ショートの着崩した女の子が、僕らを視界に捉えながら接近してきていた。


「あーっと……空ちゃんの……知り合いの人?」

「ま、まぁ、そうです」

「私のお兄ちゃんだよ。こんなとこで会うなんて思わなかったから、2人してびっくりしてた所」

「ははぁーん? さては、貴方が噂の空ちゃんお兄ちゃん?」

「う、噂のかは分からないけど、兄の洋って言います」

「コホン! あーわたしは空ちゃんの同級生の……あ、ちょ待って、電話」


 ペコっと頭を下げ、10秒にも満たない通話を終えた。


「おっけ。ほんじゃ、改め」

「積木くんリーダーみっけ」

「わぁっちょ!? み、美鼓さん!? 背後から急に抱き付かないで下さいよ!」

「へへ。ワタシ達の仲じゃん」


 ギュッと更に密着させ、柔らかな感触を背中に押し拡げてる。

 ダメ押しで肩に顔を乗せ、目鼻立ちの可愛らしい顔が近くて、爽やかな清涼剤の香りも、鼻をくすぐってくる。


「ん? この子達と面あり?」

「い、いいいいい妹ですぅううう?! 今すぐお兄ちゃんから離れて下さいぃいいい?!」

「わぉ力技」


 力ずくで引き剥がし、僕にピッタリと貼り付いたまま離れた空は、美鼓さんに警戒の唸りを上げてる。

 

「てか、わたしのターンは?」

「どういった状況なのかしら、実々花」

「あ、野乃花ちゃんお姉ちゃん!」

「わぁー! 積木くんに似てる可愛い女の子だぁ!」

「でも、なんであんな蝉みたいになってるんだろう?」

「ちょ、ちょっとした出来事がありまして……」


 かくかくしかじかと馬蝶林さん達に事情説明し、空も警戒は解いてくれるも、僕から離れないままだ。


「って事で、三度目の正直! 野乃花ちゃんお姉ちゃんの妹! 馬蝶林実々花(みみか)、中学2年!だ!」

「ね、似てないでしょ」

「外見は水と油的な?」

「若さが眩しいよ……ほわぁ……」

「ワタシ一人っ子だから、兄妹がいるのって羨ましいよ!」


 僕らも軽く自己紹介を済ませ、空がクイクイと服を引っ張り、何か言いた気だった。


「ねぇお兄ちゃん。そこの金髪殺人ボディー美人さんと、どんな関係」

「霧神さん? 普通の友達だよ?」

「本当? 誘惑されたりしてない?」

「無い無い」

「怪じぃ……ぐぅうう……」


 普段は人当たりがいい空だけど、僕が異性と一緒にいたり、異性の話題が上がると、相手がどこの誰なのか食い掛かってくるんだ。

 特に胸の大きい人に限っては、僕に近付けさせないように身を挺して、必死に守りに徹するんだ。


 この守りは空が納得するまで解除してくれないから、正直どうこうするのは難しいんだ。


 せめて霧神さん話題から、別の話題に逸らせば、多少マシにはなる筈だ。


「そ、そういえば空が実々花ちゃんと一緒って事は、お泊まり会も?」

「うん。お兄ちゃん達と一緒……ハッ! って、ちょっとちょっとちょっと!? お兄ちゃん!? こんな綺麗で可愛い人達と、お泊まり会するつもりだったの!?」


 話題を盛大に間違えた。

 ここは素直に返事をした方が身の為だ。


「さ、誘われただけだから、決して邪な気持ちで泊まる訳じゃ無いよ?」

「今のお兄ちゃんに説得力無し! 寝る時は私と一緒! 2人っきり! じゃないとダメ!」

「は、はい」


 気迫と語気の強さに、兄としての威厳は吹き飛ばされた。

 同時に不安だったお泊まり会も、空がいる事でなんら家と変わらない状態に変わり、少しホッとする自分がいた。


 ♢♢♢♢


 買い出し後、和気藹々と歩いてる内に、馬蝶林さん宅のタワーマンションが見えてきた。

 しかも最上階とその下の2階、計3階層までが馬蝶林さんの住まいだそうで、聞いた時は皆して腰を抜かしそうになった。

 ご両親が不動産関係の仕事で、ここ以外にも数件所有してるそうだ。


 高級な玄関ロビーを見渡し、外を一望できる高速エレベーターに乗り、到着した階層では広々とした玄関がお出迎え。

 馬蝶林さん宅直通のエレベーターだったみたいだ。


「さぁ、どうぞ」

「ウェールカンム! どぞどぞー!」

「おんじゃまー」

「はわぁー……玄関だけで暮らせそう……」

「お泊まり会♪ お泊まり会♪」


 高級ホテル並の内装に浮き足立ったまま、リビングへと足を踏み入れた。


 第一印象は100人規模のパーティーを余裕で開けそうな、場違い感が否めない異空間。

 皆も恐縮気味かと思えば、目をキランキラン輝かせ、あちこちと動き回って見学していた。


「セルフ展望台じゃん。おわ、窓際怖っ」

「凄い凄い! バーがあるよ! バーが!」

「ふわぁ~……人がダメになるソファ~最高~」

「こんな素敵な場所で、みんなと川の字……ん! 楽しみ過ぎるよ!」

「なっはっは! 先輩達のリアクション最高かよ! ほれ、こっちも見て見て!」


 ノリノリな実々花ちゃんの見学会を遠目に、僕は馬蝶林さんと一緒に、手狭とは無縁なアイランドキッチンで、野菜の下準備だ。


「助かるわ、積木くん」

「一晩お世話になるんですから、このぐらいお安い御用です」

「律儀なのはいいけど、貴方はお客さんよ。あとでちゃんとおもてなしさせて貰うわね」


 何か別なおもてなしがあるのなら、その時は有難く受け入れよう。

 世間話をしながらせっせと下準備してると、美鼓さんと実々花ちゃんがダイニングテーブルで一息ついてた。


「人んちって、おもろい。あ、なぁーみーちゃん。ホットプレートとか用意しないんかい?」

「ぬっふっふ……我が家にはコレがあるんでい! ほれ、ポチッとご開帳!」


 ダイニングテーブルの中央が動き、お好み焼き屋さんとかで見掛ける、大きな鉄板が登場。

 何から何まで僕ら一般人の域を超えてるのだから、これ以上何かあれば驚き疲れしそうだ。


 ♢♢♢♢


 豪勢な焼き肉を堪能し、洗い物や片付けを綺麗に終わらせた後。

 日中の疲れと満腹感で、その場から動きたがらない僕らの前で、馬蝶林姉妹がドンと立った。


「皆、ちょっと来てくれるかしら」

「カムォン、カムォン」


 実々花ちゃんの陽気な手招きに誘われる様に、理由が明かされないままゆったりと続くと、廊下の大きな両開きスライドの扉前で止まった。


 ガラガラとスライドする先は、数十畳ある竹タイルの床と、温泉さながらの脱衣所だった。


「ご覧の通り、我が家の温泉よ。いつでも入って貰って構わないわ」

「って事で、今すぐ入っちゃおうZE♪」

「わーい! 着替え持って来るね!」

「爽チン、肉食って爆元気じゃん。まてーぃ」

「これがお泊まり会の醍醐味の一つ、みんなとお風呂……くぅ! 最高だよ!」


 すっかり温泉モードの女性陣に、唯一男の僕が水を差す訳にはいかない。

 静かに脱衣所を出て行こうと、扉に手を掛けようとしたら、横から手を掴まれた。


「どこ行くつもりなのかしら、積木くん」

「え、み、皆さんのお風呂上がりまで、リビングで待とうかと……」

「さっき言ったわよね。おもてなしさせて貰うって」

「あ、い、いや、べ、別にお風呂を頂けるだけで大丈夫なんで、おもてなしもお気遣いな」

「なーに、洋ちゃんお兄ちゃんさん? 謙遜ってヤツ? わたし達の前じゃ、無駄無駄ぁ!」

「わちょっと!?」


 実々花ちゃんにも強引に手を引かれ、脱衣所の中心部まで強制移動。

 そのまま実々花ちゃんの腕絡めホールドをされ、馬蝶林さんがとても心許ない腰巻きタオルを一枚、僕へ差し向けようとしてた。


 逃げ場を失い、詰み体質の魔の手が今にも届きそうな時、最愛の妹の声が脱衣所に響いた。


「待って! 実々花ちゃん! 野乃花さん!」

「そ、空!」

「お兄ちゃんの背中を流すのは私だからね!」

「そ、空!?」


 最愛の妹もやっぱり詰み体質の対象なんだと、脱衣所という孤独な戦場で絶望するしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ