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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
19章 球技大会前の日々
116/131

116話 惚れた理由、コンビニで交換っ子、解釈違いの爆弾投下

 土曜日午前8時、総合体育館前。

 いつもの登校時間に出たくせで、集合時間の1時間前に着いてしまった。

 日陰があるにせよ、夏の暑さの中で待つより、近くのコンビニで涼んで、集合時間5分に行った方が吉だ。


「そうと決まれば回れ右」

「あれ、積木くん?」

「ん? え? き、霧神さん?」


 身体のラインを主張するジャージに短パン。

 スポーツバッグを肩に下げた霧神さんに会うとは思わなかった。

 どうやら開館時間を間違えた様で、一緒にコンビニに向かい、世間話がてら来た理由を聞いてみた。


「ワタシ、補欠員だからあまりやる事がないの。でも、卓球ならと思って、個人練習しに来たの」

「卓球の個人練ですか?」


 男装時なら、なんでもスタイリッシュにこなす姿を、容易に想像出来る。

 けど、今のか弱そうな霧神さんが、個人練してる姿を思い浮かべたら、とっても同情したくなった。


「あのー敵同士ですけど、良かったら一緒に練習しません?」

「い、いいの?! も、物凄く心細かったから嬉しいよ!」

「あ、当たってます!」


 握られた僕の手が、豊満な胸に当たってもお構いなし。

 数年間男装し続けてたんだ。

 それ相応の反応に戻るまで、もうしばらく掛かりそうだ。


「そ、そういえば、男装をやめてから、周りの反応はどうですか?」

「んー最初こそ驚かれたけど、受け入れて貰ってるよ」


 取り巻きの女性陣も名残惜しみつつ、コレはコレでありと、女友達としてイチャイチャされてるとか。

 一方で意中の赤鳥君には、まだ見せてないそうだ。


「遠目で機会は伺ってるけど、どうしても見惚れちゃって……」

「うーん……聞きそびれてたんですけど、惚れた理由って聞けたりします?」

「あ、えっとね……まず、コレ見て!」


 見せてくれたスマホ画面には、ボサボサ黒髪の小柄な瓶底眼鏡の女の子が、中学入学式の看板横で控えめなピースをしていた。


「これ男装始める前のワタシ」

「え。え!? だっ、こ、は、はへぇ……」


 過去と今のギャップがあり過ぎて、口から出る言葉の数々が、自然と馬鹿になった。

 何も知らない人が見たら、同一人物だとは思わない。


「ワタシって昔から、いつもうじうじで声もボソボソでね、独りぼっちだったの。でも、中学に入って大地だけは毎日話し掛けてくれてね、学校も楽しみになって、思い切って演劇部にも入って、自然と笑顔も増えて、少ないけど友達も出来たの」


「気付いた時にはもう好きになっててね、毎日毎日告白しようかどうか迷ってたけど、今のワタシじゃ絶対に釣り合わないって分かってたから、諦めようとしてたんだよね」


「でもそんな時に、好きな人になったつもりで気持ちを理解すれば、自分がどんな理想の意中になればいいか分かるって、女優さんがテレビで言ってたの」


「だから、百面相先輩にお願いして男装を始めて、大地がやってる事を見様見真似でやってみたの」


「そういった経緯だったんですね……」


 自分を変えてくれた恩人を好きになる。

 それはもう立派な恋の始まりだ。

 ただ霧神さんの場合、男装してからは一方的に、恩を仇で返す様な事になった。

 僕が出来るのは舵を戻して、正常な進路へと導く事だ。


「愛実さんも言ってましたけど、今の霧神さんを一目見れば、赤鳥君ともっと距離が縮まる筈です」

「で、でもでも、急に元通りになっちゃって、大地に怪しまれないかな?」

「そんな時は僕や愛実さんを、遠慮なく頼って下さい」

「積木くん……わ、ワタシ頑張るよ! だ、だからよろしくお願いします!」


 キッカケを与えるだけで、先の事は霧神さん次第だ。

 一友人としてどんな結果になっても、最後まで見届けるつもりだ。


 ♢♢♢♢


 コンビニで数個入りのアイスを買い、イートインスペースで食べながら時間を潰し中だ。


「あむあむ……気になってたけど、積木くんの荷物多いね」

「荷物? あぁー実は今日、友達の家に泊まるんですよ」

「えぇー! いいないいなー! 誰かとお泊まり会した事ないから、物凄く羨ましいよ! ふわぁー……」


 ぽわぽわと理想のお泊まり会を妄想してるのか、とても嬉しそうな顔をしてる。

 ただ霧神さんの妄想と違い、僕のは男子禁制の女子お泊まり会なんだ。

 詰み体質が悪さしないのを願いつつ、平和的に朝を迎えるのが目標だ。


「今度愛実に聞いて、やってみようかなー」

「お、いいじゃないですか。でも、今は球技大会があるんで、終わってからですね」

「うん! あ、ねぇねぇ! ちょっと練習じゃないけど……アイスの交換っ子しよ! はい、あーん!」

「え」


 霧神さんも口を開けて、既にあーんスタンバイ済み。

 時折見せる積極性を、赤鳥君の前でも出せればいいのだけれど、それはまた別の話だ。

 ただ、あーんも幸か不幸か、人目の付き難いイートインスペースだ。

 誰も来ない内に手早くやってしまうのが、お互いの為だ。

 気恥ずかしさが込み上げ、抹茶味のピモを一粒、付属の小さい棒で刺し、霧神さんの口へと近付けたら、パクッと食べられた。


「んー! 抹茶味も美味しいね!」

「そ、それは良かったでわひゃっこい?!」

「みゃん?! び、ビックリした!? ど、どうしたの? はっ!」

「デートは楽しいかな、積木くんリーダー」

「み、美鼓さん」


 購入済みの未開封あずきバーを手の平でペシペシ叩き、ご機嫌斜めさを体現してる。

 急に首元を襲った冷たさは、美鼓さんの仕業しか考えられないけど、霧神さんとのツーショットを誤解してるなら、今すぐに解かないと。


「た、ただの味比べしてただけですんで! ですよね霧神さん!」

「そ、そうだよ?」

「んなら、ワタシのあずきバーともやって」


 剥き出したあずきバーを、僕の口元へ差し向け、一口食べろと催促。

 あーん問題があーんで解決するしかないのなら、やるしかない。

 恐る恐る一口齧った瞬間、バッとあずきバーを口元から離され、あろうことか同じ箇所に齧り付き始めていた。


「ん、美味(うま)し」

「あわわわ……か、間接キスなんて、大胆だよ……」

「仲良しダチトモとなら、こんぐらい普通じゃん」


 強固なあずきバーをガリガリ食う美鼓さんは、普通だと言った割に耳が赤く染まっていた。

 このままピモをあーんさせた方がいいのか。

 少々迷っていると、コンビニ袋のカサカサ音が接近していた。


「あ! やっぱり心菜ちゃんと積木君だ!」

「謎美女もいるわね」


 パンパンのコンビニ袋両手に、大荷物を背負った鈴木さんと、高校ジャージ姿の馬蝶林さんも合流して、全員集合。

 2人も早く来過ぎて、時間潰しでコンビニに寄ったそうだ。


「てか、爽チン、アイス買い過ぎじゃ?」

「大丈夫! 全部ヘルシーなヤツだから!」

「卓球してる間、どこで冷やすん?」

「え? あ、い、いつものノリでつい……どうしよう!?」

「総合体育館の受付で頼めば、冷蔵庫貸してくれると思うよ」

「ほ、ホント! え、っと……」


 本来の霧神司さんだとザックリ説明するも、あまり納得がいかない様で、3人でペタペタぷにぷにと身体に触れていた。


「こんな悩殺ボディーで男装? どうやってたん?」

「凄い凄い! やわっこいのにハリがすごいよ!」

「色んなところで引く手数多ね」

「く、擽ったいから、や、やめてぇ……」


 悩殺ボディーに触れた事で、今度は存分に納得したご様子。

 3人も軽く自己紹介を済ませ、霧神さんが今日の練習に混ざっても大丈夫か聞いたところ、手をワキワキさせながらオッケーしてくれた。


「皆ありがとう! 頑張るよ!」

「微笑ましいわね。あら、もう開館時間になるわね」

「じゃあ、アイスの件もありますし、行きましょうか」


 コンビニを出て、総合体育館へと向かう中。

 横を歩く霧神さんがチョイチョイと、お耳を拝借したいと手招いてた。


「どうしました?」

「ねぇねぇ積木くん。もしかして……3人とお泊まり会なの?」

「ま、まぁ……察して下さい」

「察す……ハッ! そういう事だね! ねぇねぇ皆! もし良かったらなんだけど、ワタシもお泊まり会にお邪魔してもいいかな?」

「き、霧神さん?!」


 3対1の肩身狭い環境に、霧神さんも参戦すれば、いよいよ僕の居場所がなくなる。


「1人増えたところで問題ないわ。歓迎するわ」

「でも、お泊まりセットないんじゃない?」

「万が一に備えて、スポーツバッグにそれっぽいのが一式入ってるから大丈夫!」

「ま、野乃のんがいいなら、いいんじゃない」

「やったー! って事でいいんだよね! 積木くん!」


 霧神さんの解釈は、お泊まり会に参加したいなら、自分でちゃんと言わないとダメだよ、って事だったんだ。

 とんでもない爆弾が投下で、これから始まる練習も、数時間後に迫るお泊まり会の事で、もう気が気でなかった。

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