115話 同盟解消後、元北高生、勝利への渇望、お誘い圧
同盟解消後、教室で真っ先に報告したのは、サブリーダーの大米さんだった。
「相談もせず勝手に決めてすみません」
「ううん。適切な判断だよ、だから顔上げて」
「皆が楽しみにしてた賞も、これで届かないかもしれません」
「かもね。賞も大事だけど、まずウチらが球技大会を楽しまないと」
「わ、わたしも桐子ちゃんと同意見です」
誰の声かと思えば、寒色のパステルカラーヘアーを、フワッと揺らす夢望叶さんだった。
「ふっ……リーダーがそんな弱腰じゃ、勝てるもんも勝てんくなるぞ、積木」
「青柳君……」
ご飯粒が口横に付いてても、今は流石に指摘しない方がいい気がする。
「ちゅ、積木しゃんが沢山頑張ってるのは、私達1-Bが一番知ってましゅ!」
「檜木さ……あ、ちょっと、転びそうでうわっぁ!?」
「あみゃん!?」
歩み寄りの自爆足絡ませで、ドジっ子が発動。
進路先にいた僕に直撃し、柔らかな感触を前面に受け、一緒に転んだ。
「ご、ごめんなしゃい!」
「だ、大丈夫ですよ」
「2人とも立て……ん? 廊下が騒がしいね」
手を貸してくれた大米さんの言う通り、廊下の騒めきが聞こえ、1-Bに近付いていた。
「あ、いたいた! おーい積木君!」
「へ? し、静香さん?!」
「私もいます」
「智香さんまでも!?」
教室に現れた美女2人は、林間学校の陶芸体験で指導してくれた三輪静香さんと、妹の智香さん。
作業後姿ではないTシャツカーゴパンツ姿は、モデルも顔負けな程お似合いだった。
「ど、どうして北高に?」
「言ったじゃないですか! 作品ができ次第、お届けに上がるって!」
「作品……あ、あぁ! そうでしたね!」
「ふふ、戸惑い姿も可愛らしいです」
丁寧に梱包された作品を手渡す静香さんに、元北高生として何かアドバイスが貰えないか、事情説明してダメ元で聞いてみた。
「確かにそんな賞がありましたね、懐かしい懐かしい……」
「静姉」
「えへへ、ついつい……でも、星ちゃん相手なら、対処は物凄く簡単ですよ?」
「え! お、教えて下さい!」
「ふっふっふ……これです! じゃーん!」
スマホを見せられ、小首を傾げるも、ピンとその意味が分かった。
呉橋会長を無力化させる、最適な方法がスマホ一つで済むと。
「あの人に連絡すれば良いんですね」
「流石積木君! 気付いたんですね! 星ちゃんには本番当日のサプライズって事にしましょう!」
「目には目を歯には歯を、です」
「はい!」
健闘ハグを2人同時にされ、愛実さん達の作品を託して、静香さん達は1-Bから去った。
本番当日も丁度時間があり、応援しに行くと約束して貰った。
思わぬ人物の助太刀に、モチベーションが上がる一方、大米さんが軽く困り眉になっていた。
「大米さん?」
「包容力には自信あるんだけどな……」
「聞こえてます?」
「年上がいいのかな」
「おーい。大米さーん?」
「あ、じ、自分の世界に入っちゃってます、これ」
夢望さんの言葉通り、大米さんは予鈴までうんともすんとも反応せず、ふと我に返った途端、顔を一気に赤くして言い訳をしてた。
♢♢♢♢
放課後、総合体育会の卓球場にて。
模擬戦相手の3-Aである室戸先輩が、何食わぬ顔で僕らに話し掛けてきた。
「1-Bの皆さん、一緒に準備運動でもしませんか?」
「いいですよ。2人1組のヤツで良ければ」
「では、積木くんと組ませて貰いますか」
「喜んで」
室戸先輩の手を優しく引き、邪魔にならないスペースで早速取り掛かった。
昼休みの一件こそあったものの、大米さん達や静香さん達のお陰で、何も臆していない。
「同盟解消の割には余裕がありますね」
「貴方達に勝つ算段が見つかったんですよ」
「そうですか。まぁ、星さんに敗北の2文字は刻ませませんがね」
「余裕も今の内です」
「言いますね……叩き潰し甲斐がありそうです」
物腰柔らかな冷静な声と、細い女性の背中から伝わる、勝利への渇望には思わず息を呑んだ。
「積木くんリーダー、千和わん先輩の身体が、そんなにいいんだ」
「へ? な、何言ってるんですか美鼓さん?」
「さっき生唾ごっくんしてたでしょ。えっちぃー」
「積木くんのえっちぃー」
「ちょ?! ち、違いますから?!」
変な誤解を招いた準備運動後、隙あればツンツンと美鼓さんに指で突かれ、リーダー対決が始まった。
相手は勿論、室戸先輩だ。
「お手柔らかにお願いしますね」
「本番のつもりで行きます」
先制ボールを繰り出すも簡単に返され、10ラリー目にスピンで点を取られた。
技に対する対処は、まだまだ練習不足、とは簡単に言えない。
対策として、宇津姉に強化練習して貰う予定だけど、各球技に引っ張りだこで、中々に時間を割けてない状態だ。
その都度、夜に謝罪の電話をくれる律儀さは、宇津姉らしいけど、毎回1時間以上の長電話になるんだ。
ただ愚痴とかを一切溢さず、毎日充実してやり甲斐を感じてると、前向きを通り越した前のめりな話ばかりなんだ。
昔馴染みとして一個人として、無理してないか心配だったけど、誰かに教える事が宇津姉の肌に合っていて良かったって、電話をしてくれる度に思ってる。
「もう集中切れちゃいましたか?」
「かもですね。次、どうぞ」
「では、遠慮なく」
余裕の笑みを崩さず、テクニックを織り交ぜた体力削りをされ、終盤にはラリーも数回しか続けられず、1セットも取れないまま完敗した。
「では、お疲れ様でした。本番も楽しみにしてます」
全敗した僕らに言葉を掛け、爽やかな汗をタオルで拭い、卓球場を出て行った室戸先輩達。
汗を拭って立ち尽くす僕に、美鼓さん達が近付いてきた。
「美鼓さん、鈴木さん、馬蝶林さん……撮れましたか」
「バチグー」
「先輩達全然気付いてなかったよ!」
「ピンボケしてるけど問題ないわ」
「ナイスです!」
僕らは模擬戦の傍ら、相手の動きやテクニックを盗む為、密かに動画を撮っていたんだ。
なんせ室戸先輩は、前年度MVPの壱良木先輩と同一人物。
自称平均的な人間だと言っても、MVPを取ってる以上は絶対に何かあると睨んでた。
だから、模擬戦で有益な情報を手に入れる必要があったんだ。
早速皆で動画を確認し、動きやテクを分析。
実戦出来るか試行錯誤を重ね合い、瞬く間に2時間もの時間が流れた。
「時間も時間なんで、今日はこのぐらいで切り上げましょうか」
「おけー見様見真似でやれなくはないけど、やっぱどれも精度は低いなー」
「まだ付け焼き刃だもん! 仕方がないよ!」
「本番まで残り1週間ちょっとあるわ。それまでに身体に叩き込むわよ」
「無理は禁物ですからね」
「てか、土日も集まって、やるっしょ?」
「土日は一般開放もされて混みそうですけど、予約さえすれば大丈夫です」
「じゃあじゃあ! 集合は何時する? 私はいつでもいいよ!」
「では、開館時間の9時に現地集合しましょうか」
2日間朝からみっちり特訓すれば、疲労は引きずってしまいそうだけど、その分室戸先輩達に近付ける。
ただし、あくまでも無理はしない範囲でだ。
「なんかミニ合宿みたいで、泊まり込みしたい気分になるね!」
「なら、私の家に泊まっていいわよ」
「いいの! 野乃花ちゃんありがとう!」
「心菜ちゃんと積木君もどうかしら」
「お泊るー」
「ぼ、僕は遠慮してお」
何故かどうしてか、馬蝶林さんと鈴木さんに両腕を拘束された。
空気が一丸となってる気がする。
「そこはイエスじゃない? ねぇ、積木くんリーダー」
「い、いやいや、女の子の家に男が泊まるだなんて、ダメですって!」
「構わないわ。むしろ歓迎するわ」
「だって! もう、泊まるしかないよね」
お泊まり会のお誘い圧に、参加する道しか残されていないと悟り、3人に凝視されたまま静かに頷いてた。




