☆114話 初々しい関係性、裏で手を引いてた者、シークレットな共通点
※2024/4/4文末に霧神司のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
女装スパイ作戦成功の翌日。
本日の昼休み、とあるクラスリーダーを屋上で待ってる。
面識は週一の招集日ぐらいで、関係性は初々しいままだ。
階段を駆け上がる音が聞こえ、扉が元気良く開いた。
「いやいや! お待たせしました!」
「いえ、こちらこそ呼び出しちゃってすみません」
「とんでもないです! でも、男の子と2人っきりで食べる機会が滅多にないので、ちょっぴりドキドキです!」
流石演劇部と言うべきか。
リアクションの一つ一つが素なのか演技なのか。
素人目では見分けがつかない。
額の汗を拭い、一人分の距離を開けてベンチに座った。
「ふぅ……それで、私に話があるんですよね?」
「はい。友達から聞いたんですけど、昔、百面相先輩って呼ばれてたらしいですね」
「いやはや! 懐かしいあだ名ですね……何も知らなかったら、怪人か何かかと思っちゃいますよね?」
「ですね。性別問わず誰にでもなれる、そう簡単に出来ない芸当ですもんね」
「ほ、褒め千切ってもオカズしか上げませんよ! 唐揚げですか? 明太子入り卵焼きですか?」
「じゃあ、唐揚げ同士を交換で」
受け答えは大丈夫なのに、掴みどころのない不思議な感覚だ。
なあなあに話題が終わる前に、直球短時間勝負だ。
生姜の効いた唐揚げを頂きながら、早速直球の言葉を放った。
「さっきの続きですけど、中学の時に霧神さんに男装を一から教えたそうですね」
「あ、あれ? バレちゃったんですか? 司さんはかなりの逸材だと思ったんですけど、まだまだ教え足りなかったみたいです!」
「そんな事ないですよ。僕も昨日まで貴方の術中にハマってた1人ですから、室戸先輩」
「わ、私が積木くんを術中に? またまた冗談ですよね!」
「なら、こう呼ぶ方が相応しいでしょうか。壱良木先輩」
身振り手振りのリアクションが止まった。
垂れ目な糸目がゆっくり開き、不敵な笑みを浮かべ空気を変えて来た。
「おかしいですね、バレる要素は無かった筈ですけど」
「た、確かに意識しない限り全然気付かないものでした。でもよくよく思い返せば、2人の声のちょっとしたアクセントとか、ふとした癖が同じだったんです」
「ほぉ……」
変装のプロフェッショナルである里夜先生ですら、小さな仕草までは隠せないんだ。
それに比べれば、百面相と呼ばれていても、共通点を見つけるのは、そう難しいものではなかった。
「で、室戸であり壱良木だと分かったところで、積木さんにはなんら影響はないですよね?」
「あります。同盟の意図についてです」
同盟話の根幹は、絶大な影響力を持つ1-Aを止める事。
そして3-Bが総合優勝・準優勝・3位のどれかを獲った暁には、1-Bに譲るという特大のメリット付き。
更には同盟相手である壱良木先輩が、前年度の球技大会MVPの実績がある事。
いくら脅威になる1-Aを、同盟を組んでまで止めたいにしても、かなり回りくど過ぎる。
このきな臭い同盟によって、壱良木先輩にもメリットがあるそうだけど、偽った姿での同盟と分かった以上、全てがブラフの可能性があるんだ。
だから今この場限りで、同盟を解消しないとなんだ。
僕が話を終えると、室戸先輩は焦る素振りもなく、余裕すら感じる態度だった。
「疑心暗鬼に陥るのも無理はないです。が、同盟のメリットには嘘は無いですし、提供情報も本物ですよ」
「そうそう。なんせ、裏で手を引いてたのは私だからね♪」
声のする出入り口から悠々と歩み寄る、美しく綺麗な黒髪を靡かせる美女の名前が、自然と口から零れ落ちた。
「く、呉橋会長……」
「にょほほ♪ 千和が京泉だってバレちった以上、もう隠す必要は無いけど、首謀者は私になります♪ えへ♪」
「素敵です星さん♪ チュッチュ♪ むうぇ」
「おっとっと……ご褒美は球技大会が終わるまで、お預けだぜ、ベイビィ……」
「お、おあじゅけ……しゃいこうでしゅ!」
涎を啜り目をハートにし、呉橋会長にお熱なご様子。
それよりも、呉橋会長の策略にハマってるのなら、逸早く抜け出さないとマズイ。
でも、理由を聞かず去るなんて出来ない。
「あの……幾つか聞いてもいいですか」
「もちのろんろん♪ 私はいつでも洋君の声を、き・い・ちゃ・う♪」
「私も星さんの肉声を録音して、毎日聴いてます♪」
「こらこら、人前で言っちゃダメだぞー?」
「キャ♪」
「……ま、まず、室戸先輩が3-Aに在籍しているのに、壱良木先輩も3-Bに実際在籍してますよね?」
先日、洋木里燈になった際、女装スパイ作戦で一時的にどこかのクラスに在籍する為、里夜先生とクラス名簿をザッと目を通したんだ。
その時に2人の名前があるのを確認してる。
「うぷぷ……千和は勉学も優秀、部活動でも多大な功績を残してるんだよ? それを維持する条件で、総理事長の許可が直々に降りてんの、おほほほ♪」
「一粒で二度美味しいってヤツですよ♪」
「は、はぁ」
どうしてそんな事をしてるのかは、今回の球技大会諸々に関係なく、室戸先輩の個人的な理由だとしたら、僕からは何も言えなくなる。
ここは大人しく次の質問に切り替えよう。
「じゃ、じゃあ次は、どうして1-Bと同盟を組んだんですか」
「それも私が京泉に頼んだのさ♪ 洋君が1人になった時に接触してちょ♪ って」
「なのでしました♪」
またフワッとした返事だけど、ここは引き下がれない。
「呉橋会長、ちゃんとした理由ですよ、理由」
「もうーせっかちさんは、いけないんだぞぉー? ま、他クラスの戦力削りに適任だったのが、顔の広い洋君達のクラスだったんだよんねー」
「それに積木くんは、一番脅威の1-Aである凛道さんと、接点ある人でしたもんね♪」
周知されてる接点は、林間学校の肝試し実行委員会で一緒だった、ぐらいだ。
関係性が薄く見えても、相手が相手なんだ。
接点がある時点で、他と違うんだ。
「プラスα、霧神ちゃんの復帰で凛道ちゃんが改めて狙われるって、小麦ちゃんから頼られたでしょ? んで、見事解決した洋君に心揺れた小麦ちゃんこと1-Aは、1-Bに対し本気になりにくくなってるだろうし、まさに棚ぼただよね!」
「ま、待って下さい。昨日解決した話を、なんで知って……ま、まさか」
茶道部にいた、もう1人がそうなら、嘘だと信じたい。
のに、呉橋会長の楽しそうな顔が否定してくる。
「おっほっほ♪ お察しの通り、小麦ちゃんのお姉ちゃんで、茶道部部長の撫子は、最初から私側の人間さ」
「小麦さんは知らなかったみたいですけどね♪」
撫子さんが呉橋会長サイドの人間だと想像出来なかった。
考えてみれば、3年生という横繋がりを想定すれば、呉橋会長との接点も考えられた。
そこまで頭が回らなかったのは失態だ。
「……それらを踏まえて、呉橋会長の最終目的はなんなんですか」
「そりゃ、1番いい賞しかないでしょ♪」
「だとしたら、おかしいです。呉橋会長は壱良木先輩と同じ、同盟を組んだ3-B。優勝しても1-Bに譲る事になっ」
「ノン、ノン、ノン……洋君は1年生だから知らないよね♪」
「ち、違うんですか?」
「そ♪ 私が狙ってるのは……優勝やMVPの更なる高み! 本番当日の結果発表時に明かされる、シークレット賞さ!」
「し、シークレット賞?」
1年生だけ知らないのなら、2・3年生は事前に知ってるんだ。
シークレットと言っても、1年生にも知る権利はあった筈だ。
「前年度は先輩が獲ってさ、今は企業して社長やってんだよね」
「資金援助やバックアップをして貰ったんでしたよね♪」
「そうそう。それ以前だと海外留学金免除とか、大学費免除とか、まぁ大体の事は叶えてくれんだよね」
「じゃあ、呉橋会長は何かしらの願いを叶える為に、シークレット賞を狙ってるんですか」
「んだね。そしてシークレット賞に選ばれた人達の共通点は、優勝・準優勝・3位・MVPからは選ばれない、だよ♪ま、あとは球技大会に本気になれてるのが前提じゃないかな?」
「だからこそ、京泉との同盟じゃないといけなかったんです♪」
シークレット賞に選ばれる為、デメリット条件の同盟を組んだんだ。
最初から2人の手のひらの上で転がされてたんだ。
「で、同盟はどうすんの? 解消? 継続?」
「どちらでも構いませんよ?」
解消は優勝・準優勝・3位を受け取れなくなり、最悪シークレット賞も獲られるかもしれない。
継続はメリットしか残らないけど、きっと心の底から喜べはしない。
だから僕が選ぶのは、こっちしかない。
「解消させて貰います。そして正々堂々と貴方達と闘います!」
「お、言ったね? 後悔はないかね?」
「はい。敵同士になりますが、改めてよろしくお願いします」
「握手もいいけど、まずはお昼食べよっか!」
「っ……台無しですよ」
「何が食べたいですか星さん♪」
締まらない同盟解消と宣戦布告はさておき、呉橋会長と室戸先輩とのお昼ご飯後、改めて握手をした。




