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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
18章 女装スパイ作戦
113/131

113話 周知の事実、密着エアバッグ、アイツにほの字、百面相先輩、明日から敵同士

 女性だと判明した霧神君こと霧神さん。

 絶望顔で足腰を震わせ、へにゃりと座り込んでしまった。


「も、もう……終わりだよ……何もかも……ふっぐ……」

「ちょ?! 司!? デカ乳見られたぐらいで、んなに落ち込むなって!」

「愛実ぃ……ふぇええん……」

「おーよしよし」


 愛実さんに泣きつく霧神さんに対し、愛実さんや里夜先生の反応は、さも知ってて当然なものだった。

 

「あ、あの……ど、どうして女性だって教えてくれなかったんですか?」

「へ? 積っち、知ってたんじゃないの?」

「てっきり周知の事実かと」

「じゃ、じゃあ……ぼ、僕だけ知らなかったんだ……」


 なんとも言えない敗北感を噛み締めてると、霧神さんが光のない虚な瞳で、愛実さんを盾に僕を見ていた。


「こ、これでワタシも、積木くんハーレムの一員に取り込まれて、あれやこれやされちゃうんだぁああああ!」

「んな事しないって、なぁ積っち」

「う、うん。本当に何もしませんから、安心して下さい」

「そ、そうやって油断させた女の子達を、ハーレムに取り込んでるんでしょ……」

「し、しません」

「つみき君。今は霧神さんから離れましょう」


 里夜先生に室内の角へ連れてかれ、愛実さんも霧神さんを対角線上に移動させた。


「とりま、司は私がなんとかすっから、聞く耳は立てて置いて」

「わ、分かったよ」

「頼りになりますね」

「はい……あの、そんなに密着しなくてもいいんじゃ?」

「もしもの為の防御態勢です。エアバックとでも思って下さい」


 これ見よがしに右半身に密着する里夜先生は、お着替え悪戯の不完全燃焼を発散してるに違いない。

 魅惑な密着に集中を削がれない様に、愛実さん達の話に聞く耳を立てないと。


「てかさ、もうそのエセイケメン卒業したら?」

「で、でもでも、ま、まだ全然『あの人』の気持ちに近付けてないもん……」

「アイツなら今の司を見れば、鼻の下伸ばして何でもお望み通りになるけど」

「う、嘘……だよね?」

「いや、マジで。司が男装始めたのが中1でしょ? そん時からアイツって、ろくに元の司を見てない訳だから、今のこんなにも立派に成長し……間近で見ると、本当にデカ過ぎるって……このこのこの!」

「さ、触っちゃダメだよ……擽ったいから……」

「ご、ごめん。ついつい……んでだ。本来の司を数年振りにお披露目すれば、全部解決する! そんぐらいアイツはチョロッチョロのチョロ!」

「しょ、しょんな……い、今までの男装とかハーレムとかは何だったの……ふぇぇ……」


 2人の話を聞いて『ある人』の正体が誰なのか分かった。


「あの、愛実さんの言ってるアイツって、そうなの?」

「そうそう! って、あ、ごめん積っち。何にも教えてないまま話しちゃって。えーっと、積っちはもう分かったと思うけど、司はク……赤鳥にほの字なんだ」


 第三者を通してでの好きな人暴露に、霧神さんは真っ赤だった。

 霧神さんの場合、好きな人を真似る事で近付く、そんなアプローチだったんだ。

 霧神さんの真似はまさに、赤鳥君が求めていたハーレムの理想系そのもの。

 結果的に赤鳥君は狙ってた女の子を奪われ、霧神さんはうんちくしょうとだと印象付けされてるんだ。

 それでも霧神さんが本来の姿に戻れば、恋路はグッドエンドに向かう筈だ。


 愛実さんをターゲットにしてたのも、犬猿の仲の赤鳥君と何だかんだ近しい関係で、色々と情報を聞きたかったんだと思う。

 方法はともあれ、霧神さんがハーレムを築く理由は無くなったんだ。


「愛実ぃ……い、今更女の子に戻っても大丈夫なんだよね?」

「たりめーじゃん! 男装するのがもったいねぇぐらい、司って美人で可愛いから!」

「もし猫の手も借りたいのであれば、僭越ながらこの縣里夜が、全身全霊心置きなくお助け致します」

「縣先生ぃ……」


 愛実さんからのアイコンタクトで、僕らは部屋の中央へと戻って来た。

 そして霧神さんの恋事情を知った今、僕から送る言葉は至って簡潔だ。


「霧神さん。僕も2人の恋を応援したり、力になりたいです」

「積木くん……ふっぐっ……無礼な数々を働いちゃって、本当に本当にごめんなさぃい……」

「そんな時もあります。だからお互い綺麗サッパリ水に流しましょう」

「う、うん……ありがとう……ふっぐっ……」


 涙と鼻水でグジュグジュな顔は、モヤモヤがサッパリ晴れたような、霧神さんの本当の気持ちみたいだった。


 霧神さんが落ち着くのを待ち、皆でお弁当を囲み、少し遅めの昼食を食べる事になった。


「にしてもさ、初めて男装見た時は、完成度のエグさにめっちゃ驚いたわ」

「えへへ、演劇部の先輩からご教授して貰ったんだよ」

「演劇部の……あ、その人って百面相(ひゃくめんそう)先輩?」

「うん。親身になって一から教えてくれたから、感謝してもしきれないよ」

「百面相とはあだ名なのでしょうか」

「そうそう。性別問わず誰にでもなれるんだ」

「非常に興味深い方ですね。あとで調べてみましょう」

「あ、先輩は北高の3年生で、変わらず演劇部なので分かると思いますよ」

「そういや積っちも最近会ってるぞ?」

「ぼ、僕も?」


 愛実さんに百面相先輩の名前を聞き、『あの人』に関する違和感が、やっと解決した気がした。


 ♢♢♢♢


 放課後、茶道部で小麦さんに、霧神さん問題が解決した事を報告しに来ていた。


「き、霧神君って女の子だったんですか?」

「知らなかったみたいですね」

「お、お恥ずかしながら……」


 同じ中学や先生方、一部の人達だけしか、霧神さんが女性である事を知ってなかったそうだ。

 色々と不都合はあるのに、今日まで男装で乗り切れてきたんだ。

 素直に霧神さんを凄いと思えた。


「これで凛道さんも一安心だと思います」

「無茶なお願いを叶えてくれた、全て積木君のお陰です。本当にありがとうございました」

「僕にとっても大事な事だったんで、気にしないで下さい」


 愛実さんを守れたのが、何よりも大きかったんだ。

 今回の解決で球技大会にどんな影響を及ぼすか。

 本番まで誰にも分からないけど、結果的にプラスになれば万々歳だ。


「じゃあ、僕の役目はこれで終わったんで、また明日から敵同士です」

「あ……積木君。球技大会が終わったら、改めてお友達になってくれますか?」

「元からそのつもりです。本番は負けませんからね」

「こちらも負けませんから。ふふふ」

「さぁ、敵に戻る前に、点てたお茶と菓子を食べて、英気を養っていけ」

「じゃあ、お言葉に甘えていただきます」


 小麦さんも肩の荷が下りたのか、柔らかな嬉しそうで楽しそうな表情で、撫子さんとも一緒に平和なひと時を満喫した。


 一件落着と行きたいとこ、もう一つ向き合わないといけない事があるから、明日直接会って必ず解き明かすんだ。


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