☆110話 美形の微笑み、御眼鏡リスト、お気にの場所と門前払い、とある危険人物
※2024/4/3文末に富士亀夏海のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
翌日の放課後。
里燈となった僕は、慎重且つ機敏に、霧神君を探している。
事前情報だと取り巻き女性陣と一緒に、球技大会会場をブラブラ徘徊してるそうだ。
情報頼りに足を動かすこと数分。
グラウンド端の木陰でイチャイチャするターゲットを、目視する事に成功。
問題は如何に偶然を装って、霧神君と接触するかだ。
目の前で転ぶのはワザとらしい。
一目惚れしたので仲間に入れて下さいは、無理矢理過ぎる。
「んー……普通に話し掛けるのが、一番い」
「どうした! そこの木でコソコソしてるお前!」
「ひゃい!?」
僕を指摘してきた声の主は、3-Cのクラスリーダー火ヶ島さん。
ズンズンと筋肉質な御御足で近付く度、何故だか知らないけど、肌がヒリつく熱さを感じた。
「んー? ほぉ! あそこの群がりに行きたいんだな!」
「あ、い、いや、違わなくなわぁ!?」
「ヌッハッハ! 遠慮はいらん! この火ヶ島に任せろ!」
「ぬひゃ!?」
軽々しく小脇抱えられ、エッサホッサと霧神君達の所へ小走り。
心の準備も出来ないまま、霧神君達の元へ着いてしまった。
テリトリーに足を踏み込んだせいか、取り巻き女性陣の殺気じみた眼差しが、容赦なく刺さってくる。
「ちょっといいか!」
「ん? 確か……3年の火ヶ島? 先輩ですよね。オレに何か?」
「この子がお前を遠巻きから見てたもんでな! 連れて来た!」
「ふぅん……」
足先から頭まで視線を滑らせ、目を合わせてきてニヤッと微笑んでいた。
美形の微笑みは絵になる、不覚にもそう思ってしまった。
「え? なになに? 司キュンの知り合い?」
「全然」
「えぇー!? じゃあ、このアマ何しに来たの?」
「さぁ?」
「ま、まさか泥棒猫か!? 追い出してや」
「シィィ……お前に乱暴な言葉は似合わないぜ」
「ちゅ、司キュン……」
「それによ、このオレが迷える子猫ちゃんを、簡単に見捨てる訳ねぇじゃん?」
「「「「「キャアアアアア♪ 流石、司キュン♪」」」」」
「喜劇か?」
若干呆れ混じりな火ヶ島さんは、僕を優しく降ろして、来た道を颯爽と戻って行った。
ここからが女装スパイ作戦の本番だ。
気負けしない様に頑張らないと。
「で、アンタの名前は?」
「あ、な、洋木里燈です」
「聞いた事ねぇな。へい、リスト」
「はい司キュン♪」
タブレット受け取り、高速スワイプで何か確認し始めてる。
リストという不吉な言葉に嫌な予感がする。
「……おかしいなぁ。オレ好みの女なら、御眼鏡リストに載ってんのに、アンタの情報ゼロだ」
「どっから湧いてきたのよ!」
「そうだそうだ! 早く吐きやがれ!」
昨日今日生まれた里燈を、霧神君が知る由もないんだ。
それでも尚、付け焼き刃の設定で乗り切る。
「し、新学期からの、て、転入生ですので……」
「転入生? ……ふーん。確かに2-Cにアンタの情報があんな」
タブレットと僕の顔を見比べ、納得した様子だ。
一応、眞燈ロさんの計らいで、洋木里燈は2-Cに在籍してる事になってる。
お陰で、霧神君達の警戒心も若干マシになった気がする。
「とりま、失礼を働いちまった事、謝ります。すみませんでした、里燈パイセン」
「い、いえいえ。気になさらないで下さい」
女性陣もペコっと頭を下げてくれた。
殺気染みた視線は無くなるも、警戒心の方はまだ解いてくれなさそうだ。
「で、遠巻きに見てた訳は?」
「あ、そ、そのですね? 私、転入して日も浅く、周りの方が校内見学に付き添ってくれる事になってました。でも、球技大会の方で忙しそうで、私の為に時間を割かれるのも悪いと思い、1人で周りますと言って遠慮しちゃったんです」
「んで、暇を持て余してるだろう、オレらを見つけたと」
「そ、そうなります」
少々こじ付けがましい理由ではあるけど、転入生と球技大会の2つが合わさったのなら、あり得なくない理由だと思う。
女性陣の半信半疑な眼差しと、霧神君のちょっとした沈黙後、口を開いてくれた。
「いいですよ。オレも里燈パイセンと、お近付きになりたいですし」
「えぇー!? 今日のイチャイチャお預け!?」
「てか、さっきの火ヶ島さんに頼めばいいじゃん! そうしようよ司キュン!」
「って事ですんで、先輩。お達者でー♪」
「うっ……」
女性陣の防壁が立ち塞がってる以上、攻略は難しい。
後日出直すか脳内に過ると、霧神君が僕の腰に手を回し、ギュッと抱き寄せて来た。
「お前らがどうこう言っても、オレは里燈パイセンと行くぜ」
「で、でも司キュン……」
「明日もっと可愛がってあげっから、今日ぐらい我慢出来っしょ?」
「「「「が、我慢しましゅ! ハァハァハァ……」」」」
魔法にお言葉でメロメロの子犬ちゃんにするなんて、なんて恐ろしい人なんだ。
「んじゃ、里燈パイセン。校内デートと洒落込んじゃいましょうか」
「ふぁ、ふぁい!」
リードされる気持ちを体感し、赤面のまま校内見学こと校内デートが始まった。
霧神君に好き放題連れ回されると思いきや、紳士的な態度を崩さず、現実に王子様がいればピッタリと思う程、印象がガラッと変わった。
取り巻き女性陣があんな風になるのも納得だ。
だからこそ、霧神君が狙ってる凛道さんや愛実さんが、そうならないよう絶対防ぐんだ。
そろそろ下校タイミングだ。
作戦を延長し、親交を深めつつ、情報の深掘りもアリだ。
ただ初回接触で大胆過ぎる行動は、控えておくべきだ。
今日は退いて、明日以降にお礼の菓子折りを持って接触しよう。
「霧神君、今日はありが」
「おっと。最後はオレのお気にの場所に、付き合って貰うぜ」
「あ……」
腰に手を回され抱き寄せられ、連れられるがままやって来たのは、前に大米さんと来た駅前の喫茶店だった。
「いらっしゃ、あ! もう怪我は大丈夫なの?」
「ご覧の通り。いつもの頼めるかい?」
「かしこまりました♪ 空いてるとこ、好きに座っていいから♪」
「あんがとさん。こっちの静かなとこに座りましょうか」
奥のテーブル席で向き合って座り、校内見学や高校はどうかを話してる内に、店員のお姉さんがやって来た。
「ロイヤルカフェラテです♪」
「あんがと。里燈パイセンは何にします?」
「あ、抹茶ラテで」
「うふふ♪ 貴方、良かったわね♪」
「?」
「仕事に戻った方がいいんじゃないか」
「はーい♪ うふふ♪」
意味深な言葉と微笑みを置き土産に、仕事に戻るお姉さんに、霧神君は呆れ混じりの笑みを溢してた。
「ごめんな里燈パイセン。誰かとお気にの場所に来るのは、よっぽどの事じゃないと無いんでね」
「そ、そうなんですか」
取り巻き女性陣との溜まり場かと思ってた。
霧神君の中で、どこかで線引きしているのかもしれない。
「ち、ちなみに今までにも居たんですか?」
「まぁ、一緒に行きたいってせがむ女はごまんと居るぜ? けど、オレが連れて来たいって思ってる人には、何度も門前払いされ続けてる。だから実質、里燈パイセンが初めてかな」
「わ、わっふぅ……」
そんなセリフを真正面から言われれば、問答無用で照れる。
霧神君を門前払いをしてるのは、恐らく愛実さんだ。
仮に凛道さんなら、霧神君が大怪我する前の限られた4月の、ごく短い期間にしか接触チャンスがないんだ。
愛実さんと霧神君が同じ中学の仲でも、愛実さんに対する気持ちは負けてないつもりだ。
「ところで里燈パイセン。抹茶好きなんですね」
「え? ま、まぁそうですね」
「……なら尚更、言っておかないとだ」
真剣な眼差しと緊張走る空気感に、ごくりと息を呑んだ。
「里燈パイセン、抹茶好きであるなら今後気を付けて下さい」
「え、えっと……どうしてですか?」
「とある危険人物の好物と一緒なんです」
「き、危険人物? 好物が一緒? い、一体誰なんですか?」
「奴の名前は1年の積木洋。自覚なきハーレム野郎なんです」
自分の名前が出てくるとは思わず、女装を忘れて素の声が出そうになった。




