☆109話 先生のプライベートルーム、令嬢の目の奥、女装会議、正統派清楚系大人女子
※2023/12/13文末に瓜原奏多のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
昼休みに入った直後、里夜先生が教室に現れた。
普段と変わらないテンションに見えても、背景がどことなく華々しく明るい気がする。
「さぁ、お弁当を持って行きますよ、つみき君」
「あ、あい」
本日はクラスリーダー召集の日だけど、大米さんが代わりに出てくれることになり、本当に頭が上がらない。
クラスメイトに見送られ、教室から一歩外に出た途端、スムーズな動きで濃密な腕絡み。
体にしっかり触れ当てる腕絡みは、心の余裕を減らすのに充分だった。
そんな里夜先生の行くまま、詳細不明の扉前にやって来た。
「ここは一体……」
「わたしのプライベートルームです」
「え?! さ、流石にマズいんじゃないですか?!」
「北春高校の方なら、総理事長様の許可が下りれば、空き部屋をレンタルという形で使用出来るのです。宮内様もそうなさってます」
「う、宇津姉も……」
授業や球技大会の顔出し以外で、宇津姉を校内であまり見掛けないのは、レンタル部屋にいるからなのかもしれない。
「さぁ、中へ」
肝心のプライベートルームは、シンプルで大人な色香を感じる、出来る人の執務室といった感じだ。
プライベートルームに興味が惹かれる中、ガチャリと鍵の閉まる音が耳に入った。
施錠したのは勿論、里夜先生だ。
1対1の密室状態になった、今この時。
スーツの胸元ボタンを外し、妖艶な微笑みを浮かべじわりじわりと距離を縮めて来てる。
「さて、つみき君……ゆっくりじっくりと懇切丁寧に、わたしの熟達したテクニックを、無垢な体に教えて上げます。ふふふ……」
「あ、そ、その前にお昼ご飯でも……」
「ふふふ……」
一度走り出したら止まらないのか、聞く耳無し。
1歩接近される度に、1歩後退するも、執務テーブル退路を呆気なく絶ってきた。
そのまま僕を挟む形で、テーブルに両手を置く里夜先生は、ボリューム満点の胸をゆっくりと押し当て、更に大接近。
「折角ですし……ほんの少し、意地悪でもしちゃいま」
「随分と楽しそうね、縣」
聞き覚えのある声がした執務椅子がひとりでに回り、笑顔の怖い眞燈ロさんが足組み姿で現れた。
「お、お嬢様!? ど、どうしてこちらに!?」
「わたくしが縣の動向を知らないとでも?」
事前説明してなかったのか、里夜さんの行動にも眞燈ロさんは静かにご立腹だった。
あわあわする里夜先生も、この状況には逆らえず、僕からアッサリと身を引いてくれた。
ただ入れ替わる形で、今度は眞燈ロさんが僕の胸元へと移動して来た。
「洋様も酷いです! 真っ先にわたくしにご相談下されば、天宮寺家が全面的にバックアップしましたのに!」
「そ、そこまで大袈裟な事ではないですし、今は敵同士なので、何よりも里夜先生が適任だったんです」
「しょ、しょんなぁ!?」
雷に撃たれたようなリアクションで、よろよろと足元に崩れ落ちた。
「て、敵同士であるなら、い、一層の事、球技大会を中止に!」
「だ、ダメですよ!?」
「うぅ……」
眞燈ロさんの一言で実際、行事はどうとでもなると思う。
ただ眞燈ロさんには、前までとは違う自分自身を再認識して、思う存分に球技大会を全身全霊で楽しんで欲しい。
「ま、眞燈ロさんの気持ちは有難いです。でも、折角眞燈ロさんが不幸体質を気にせず、こうして行事に参加出来るようになったんですよ?」
「! そうでした……洋様の言う通り、ようやく訪れた普通を台無しにしようとする、とても軽率で幼稚な発言でした」
反省の色が見え、行事中止の回避は成功だ。
それはそうと、眞燈ロさんは完全な善意で協力しようとしてくれてるんだ。
眞燈ロさんが先回りしていなかったら、今頃里夜さんに意地悪されていたんだ。
敵同士という理由抜きに考え直した方がいいみたいだ。
「眞燈ロさん」
「ふぁい……」
「さっきは敵同士なんて言いましたけど、一度乗ってくれた船ですし、眞燈ロさんさえ良ければ力になって欲しいです」
「よ、洋様! も、勿論です! あぁ……洋様しか勝たんのです……」
見上げる眞燈ロさんの目の奥は、どこか詰み要素を予感させ、怪しい雲行きになってた。
「大変喜ばしい限りです、お嬢様」
「ちょっと縣。どさくさに紛れて逃れる気満々でしょうが、洋様にふしだらな行為を秘密裏に働こうとしたのは別件よ!」
「も、申し訳ございませんでした!」
何度もペコペコ土下座する里夜さんも、しっかりと反省したので、眞燈ロさんを説得して、どうにか落ち着いた。
♢♢♢♢
「女性が男装するならば、多少体格は誤魔化せますが、男性の女装となると大幅に制限が掛かります」
「洋様は標準体格でも、上背が女性にしては高くなるので、可愛い系は控えた方がよろしいかも」
「加えて今回は校内での女装。しかも夏服仕様です。人目や肌見えが多ければ、女装バレの確率も高くなります」
「だったら、正統派清楚系大人女子を主軸に、メイク術や所作のリストアップを早急に行わないと」
「あ、あの……」
「どうしました、つみき君」
「ご不満な点がありましたら、遠慮なさらず申して下さい!」
「あ、いや、そのですね? し、親身になって考えてくれるのは凄く嬉しいんですけど……僕に触れながらじゃなくてもいいですよね?」
「ダメです」
「ダメなのです♪」
「え、えぇ……」
お昼ご飯を食べて早々、両側からペタペタさわさわと触られ、さも当たり前のように女装会議を始めてる。
「そもそもの話、わたし達は一度、つみき君のありのままの姿を拝見してるのです。それに比べれば触れる事など、恥じらいに値しませんよ」
「あの時の洋様といったら……もう可愛らしくて愛らしくて、思い出しただけでも、ニヤけてしまいます♪」
ポッ赤く染まる頬に手を添え、視線先をチラチラと僕の顔と下を行き来する2人。
天宮寺家での体隅々キレイキレイ事件は、触れて欲しくない出来事なのに、当事者同士だから2人の遠慮がない。
「も、もう忘れて下さいよ……」
「鮮明に記憶されてるので無理です。ただ、泡立ちが良過ぎて、肝心な部分は拝めれませんでした」
「うふふ……縣、実はわたくし、洗い流す時にチラッと見ちゃったの」
「な、なんと?! ど、どんな感じでしたか?!」
「うふふ♪ 手で再現すると、このくら」
「わー! わー! それ以上は絶対やめて下さい!」
それからも2人に、冗談か本気か分かり辛い絡まれをされ、話がまとまった頃には色々と擦り減っていた。
♢♢♢♢
放課後、眞燈ロさんと里夜さんに仕込みの女装を引っ提げ、確認の為小麦さんに茶道部で待って貰うようお願いしてる。
最上川さんがヒントをくれた、女性声帯に近しい声を意識し、茶道部の扉をノックした。
姿を見せたのは撫子さんだった。
「む? 茶道部に何用か?」
「あ、まぁ、そうです」
「ふむ。ならば、茶を点れよう」
積木洋として一度会って話したとはいえ、今目の前にいるのが、僕だと気付いていない様子だ。
内心ガッツポーズを決めてると、綺麗な正座と一緒に、お茶を呑んでいる小麦さんが見え、声を掛けた。
「お待たせしました小麦さん」
反応した小麦さんが視界に入れた途端、モナカを口に運ぶ手が止まり、数秒の静寂が流れた。
「……あの、失礼ですが……どちら様ですか?」
「やったー! 難なくバレずに2人クリア!」
「???」
セミロングの青髪。
涼しげで大人びた印象を与えるメイクを施された顔。
お手本のような着こなしの夏服から主張するメリハリのあるボディライン。
そして足を美しく見せるアイテムのタイツ。
これこそが眞燈ロさんと里夜先生煮餅合作、正統派清楚系大人女子だ。
小麦さんに正体を明かすも、何故かご自身の胸を揉んで本物かどうか確かめる程、混乱していた。
「まさか積木君……ちゃん……さん……に、ここまでの才があるとは……」
「あ、今のこの姿の時は、洋木 里燈って呼んで下さい」
「分かりましたけど、ご自分で考えたんですか?」
「いえ、女装を協力してくれた方々に、付けて貰いました」
里燈は、眞燈ロさんと里夜さんの1文字ずつ取った名前だ。
「なるほど。ここまでのハイクォリティならば、霧神君の懐にも潜入可能ですね」
「恐らく。明日の放課後、女装スパイ作戦を実行するので、よろしくお願いします」
「はい。僭越ながら今の内に、ご武運のハグをさせて下さい」
「あ、はい」
小麦さんの想いをハグから受け継ぎ、明日は絶対に作戦を成功させるんだ。




