☆106話 子供が大好きな先輩一派、生身のミルクタイム、ジャージの救世主、あからさまな視線誘導
※2023/10/26文末に双田リオンのイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
粟沢先輩一派に連行されやって来たのは、校舎とは別棟の部室練。
各部室を横目に深部へ進み、同好会エリアの扉前でようやく止まった。
「到着ぅ~マキマキ開けてぇ~」
「りょ!」
巻き髪のマキマキさんが鍵を開け、緊張感の走る扉の先が開かれた。
中が暗くて全貌は見えずとも、どこか懐かしさを覚える甘い匂いが充満してた。
ただならぬ空気の中、薄暗かった部屋の電気が付いた。
「ようこそぉ~ベビちゃん同好会へぇ~」
ファンシーで可愛らしい飾り付けされた室内は、ありとあらゆる低年齢向けの玩具や絵本、服やお菓子などなどで溢れかえっていた。
「え、えっと……ここは一体……」
「私達ねぇ~子供が大大大好きだからぁ~将来保母さんになりたいんだぁ~」
「んで、ウチらなりに色々揃えて、勉強したり練習したりしてんだ」
「部はちょっと無理だったから、代わりに同好会になった訳!」」
「まぁまぁ立ち話じゃなくて、座って座ってぇ~」
「は、はい」
元々退路断ちされている以上、解放されるか予鈴が鳴らない限り、自由はない。
部屋の中央に敷かれた座布団に座り、四方を近距離で囲まれ、対面する粟沢先輩が話を振って来た。
「とりまぁ、明日の模擬戦についてだけどぉ~昼休みにバレーをやりたいんだよねぇ~」
「た、多分大丈夫かと」
「なら良かったぁ~はい、模擬戦の話はこれでおしまいにしてぇ~私達と色々やっちゃおうか?」
明日の打ち合わせはただの口実で、今からやられる事が本命だ。
粟沢先輩達が行動に移り、想像していた弄ばれるシチュエーションが始まった。
かに思えば、おままごとに絵本の読み聞かせ、手遊びレクリエーションなどなどの練習相手をするだけの、安心かつ健全なものだった。
見た目のギャップに比べ、真面目に真摯に自分の将来と向き合ってるんだと、内心反省しながらも粟沢先輩達に感心した。
♢♢♢♢
数十分経ち、予鈴5分前に差し迫る頃合い。
粟沢先輩がハッと何か思い出したように手を叩いた。
「あ、ミルクタイムを積木ちゃんにやってもらうんだったぁ~」
「み、ミルクタイム?」
マキマキさんの手によって粟沢先輩に託された、白い液体入り哺乳瓶に、嫌な汗が流れてきた。
「ゆくゆくは私達もお母さんになるでしょ~? だからこのベビちゃん人形で、ミルクタイムの練習してるんだよねぇ~」
人形に哺乳瓶を咥えさせ、練習風景を見せる傍ら、マキマキさん達が僕の耳元まで顔を近付けていた。
「もち、自前のは出せねぇし、いつもはフリしか練習出来んかったんだけどよ……」
「君を連れて来たお陰で、本番さながらの練習が可能になった訳♪」
開けてるYシャツを、更にボタンを外す粟沢先輩一派。
今にも胸元を曝け出す勢いに、本物の生身練習が迫ってるのだと悟るも、ここに連行された時点で、何もかも手遅れだ。
「だからねぇ? 積木ちゃんはただただ、お姉さん達に身を委ねればいいのぉ~」
「ぼ、僕に決定権は……」
「「「「なし♪」」」」
四つん這いで這い寄ってくる粟沢先輩一派に、何も出来ないと諦めた時。
救いの手が差し伸べられるが如く、扉が勢い良く開かれた。
「先輩方……事前通告しましたよね……多忙な期間中は、なるべく静かに活動して下さいって……」
「ご、ごめんねぇ~? テンション上がっちゃって、ついつい忘れ」
「言い訳無用……担当顧問の先生に伝え……あ? なんでお前がいんだよ」
「り、六華さん!」
不機嫌と疑問の形相を浮かべたジャージ姿の救世主は、来亥六華さんだった。
「ど、どうしてここに?」
「そりゃ、漫研が隣だかんな」
「し、知らなかったです」
「まぁ、そもそも物好きじゃねぇと、こんなとこ来ねぇし」
よっぽど交友関係が広いか、コミュニケーションが長けていない限り、部活動や同好会の人達と無縁な学生生活を送るなんて、よくある話だ。
六華さんが若干落ち着きを取り戻した一方。
粟沢先輩達の正座する反応に、漫研からのお叱りは1度や2度ではないと分かった。
「てか、もう昼休み終わんじゃん。一緒に教室戻るか」
「は、はい! お、お邪魔しました!」
ベビちゃん同好会を後に、そのまま六華さんが漫研に戻って数十秒。
ジャージ姿からいつものYシャツとスカート姿に着替えて戻ってきた。
「うっし。行くか」
「は、早かったですね」
「上からジャージ着てただけだかんな」
「ズボラ着替えってヤツですか」
「だな」
シワを雑に手で伸ばして歩く六華さんに続き、部室練の通路を歩きつつ、僕は六華さんに改めて感謝した。
「あの、さっきは本当に助かりました」
「ん? たまたまだから気にすんな。今度先輩達にゃ詫び入れとして、ヌードモデルになって貰うからよ」
「あ、粟沢先輩達も悪気は無かったんで……」
「相変わらずお人好しだな。ま、お前の顔に免じて今回は大目に見ておくわ」
ペシペシと背中を叩いて、ニカっと微笑む六華さん。
尖りに尖ってた最初の頃に比べたら、こうして聞く耳を持ってくれてるまでに丸くなってくれてる。
今後とも友人として気兼ねなく仲良くして行けたら幸いだ。
「つーか、全然そっちに参加出来んくて悪ぃな」
「いえいえ、気にしないで下さい。六華さんのやるべき事は皆理解してますし、六華さんの大事な手を怪我させる訳にはいかないですし」
「お、おぅ……」
球技大会と高校生漫画コンテストがドン被りなのもあり、六華さんには了承の上で補欠員にさせて貰ってる。
クラスの皆も納得するどころか、差し入れやらを提供する程応援してくれてる。
六華さん本人はまだ申し訳なさが抜けずとも、頼って頼られる関係をそのまま築けたら、今よりも申し訳なさは薄れる筈だ。
「て、てか、お前ってあんな癖があったんだな」
「癖? ……はっ! あ、あれはやられそうになっただけで、違いますから」
急に話題を変えたと思ったら、ミルクタイムの特殊癖光景を指摘して来た。
誤解を解かないと、後々面倒な事になる。
「なーに、とびっきりの変態癖じゃねぇなら、授乳癖ぐらい恥ずかしがる事ねぇって」
「そ、そういった癖は、これっぽっちもないですって!」
世の中の千差万別ある癖に口出しないが、僕自身は至ってノーマルな癖だ。
いくら六華さん相手でも、そこはしっかりと伝えないといけない。
「ふーん。じゃあ、私のは出るっつったらどうする?」
「私のは出るっえ?」
普段胸潰しインナーで潜めてる、本来の大きな胸が解放され、ご自身の手でたぷんたぷんと揺れ動かし、あからさまな視線誘導をされた。
話の流れからするに、そういった意味合いでの出るって事だ。
大きさ的に有り得なくない話なのだろうか。
正解の見えない問答に、脳内が軽くパニックになる中、六華さんが息を漏らした。
「ぷっ。んな夢中になんなくても、冗談に決まってんだろ! デカけりゃ出るってもんじゃねぇし! あはは!」
「い、いきなりからかわないで下さいよ! ちょっと考えちゃったんですから!」
「うぷぷ! ま、出る出ない話はさておき、お前が単なる巨乳好きなのは分かったわ。ぷぷぷ!」
「あー! もうー! ……もうそれでいいですよ」
下手に反論すれば余計にからかわれるから、早めの諦めが肝心だ。
「まぁまぁ、誰にも言わんからよ、そう拗ねんなって」
「拗ねてないですけど、今みたいのは今回限りで勘弁して下さい」
「そいつは約束は出来ねぇから、もし似たような感じになった時には、詫びとして5分間揉ませてやんよ」
「普通にダメでしょう」
「ほーん? 巨乳生女子高生が直々にお許しした、またとない機会を棒に振るなんて、勿体ねぇな。将来後悔してもしんねぇからな」
「あのですね……言っておきますけど、そんな事言ったら人によっては勘違いしちゃうかもで……」
六華さんのペースに飲まれ、少々取り乱し気味だったが、冷静さを取り戻した事でとある事に気付いた。
いつからかは分からないけど、六華さんの耳が真っ赤になっていると。
そんな視線と言葉の途切れに気付いた六華さんは、耳を慌てて隠して小走りし始めた。
「お、おら! と、とっとと戻んぞ!」
恐らく急に話題を変えた辺りから、らしくもない自分が軽く暴走してしまったんだ。
いつもとは違う可愛らしい一面が見られたと、チラッと振り返ってる六華さんの後を追った。




