☆104話 慕われてる先輩の挨拶、にゃん誤爆、デジャブお昼ご飯、馬が合う先輩
※2023/10/23文末に室戸千和のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
模擬戦初日、朝のホームルーム前。
1-Bではない生徒の手によって、教室の扉が開かれた。
「3-Dクラスリーダー! 双田リオンだ!」
ギラっと鮫歯スマイルを見せ、中に入って来たリオン先輩。
後ろに数人連れてる。
「ねぇねぇリオンちゃんリオンちゃん。これが今日の相手なのかい?」
「はん! 青臭い子供だこと!」
「本番でぶち当たっても余裕だね」
「ですわね♪」
「って事で1-Bの皆。今日の模擬戦はお遊び感覚でいいかにゃふん!?」
「おい馬鹿お前ら! 勝手に後輩を下に見てんじゃねぇよ!」
「「「「「ご、ごめんリオンちゃん!」」」」」
一喝された煽り同級生達は、およおよと涙目のリオン先輩に謝ってる。
リオン先輩が慕われてるのは、何かクラスリーダーとは別な気がした。
「ところで何か御用でしょうか」
臆せず本題を切り出す神流崎さんに、リオン先輩がピャッと嬉しそうに反応した。
「ナイス神流崎ちゃん! オレらが来た目的は、今日はよろしくのご挨拶の為だ!」
「……挨拶なら模擬戦前で充分かと」
「そ、そうだけどよ! 別に挨拶ぐらいやっても、何も減らねぇじゃん!」
「1-Bに足を踏み入れた時点で、簡易力量を目測した事により、私達の優位性は減りました。ので、これ以上の滞在や挨拶をご遠慮して頂き、速やかに1-Bから退出して下さい」
上級生相手にも屈せず、マウントを取ってしまう、なんて心強い委員長なんだ。
想定外の後輩の言葉に、リオン先輩はスカートをギュッと握ってぷるぷる震えてた。
「しょ、しょんなに言わなくてもいいじゃん……うぅ……」
「そうよそうよ! リオンちゃんは寝る間も惜しんで、何度も何度も挨拶を書き直してきたのよ!」
「リオンちゃんの純粋なフェア精神を蹴り飛ばすなんて、なんて冷酷な後輩ちゃんなんだ!」
「ですわですわ!」
「な、何ですかこの結束力は……」
上級生5人に詰め寄られ、流石の神流崎さんも白旗を振った。
挨拶後に即時退出するのを条件で、リオン先輩の挨拶が始まった。
「コホン……1-Bの皆、今日の模擬戦はお互いに一生懸命頑張りましょう。怪我もせず仲良く楽しめれば幸いです。本番も良い思い出になれたら最高です。以上、クラスリーダー双田リオンでした。終わり。ふぅー……!」
「最高だよリオンちゃん!」
「ふっぐ……涙脆くなっちまったわ……」
「ですわ……およよ……」
「お前ら……1-Bの皆も聞いてくれてありがとうな!」
無邪気な笑顔を見せたリオン先輩は、お連れの人達と感動シーンの如く、自分達の世界に入り込んでしまった。
一体何を見せられているのだろうか。
1-Bの気持ちが一つになる中、予鈴が鳴るのと同時に天羽先生が入って来た。
「皆さんおはようご……あ、双田さん達」
「あ、天羽先生! もうそんな時間かよ! 失礼します!」
「廊下は走っちゃダメですよー?」
ドタバタ出て行ったリオン先輩達は、本当に嵐の様だった。
「双田さん達は何をしに来たんですか?」
「挨拶をしに来たそうです」
「あぁー去年も一昨年も、確かそんなことやってましたね」
そんな律儀な3-Dは、はたして敵なのか味方なのか。
少なくとも、とても良い人達なのは確かだ。
ホームルームで気持ちを切り替えてると、スマホの連絡通知音が鳴った。
相手は今しがた去った、リオン先輩だった。
《積ちゃん! ついつい言い忘れちまってたけどさ、昼休みにグランドでサッカーの模擬戦すっから、よろしく頼むぜ! にゃん!》
もし放課後に模擬戦ともなれば、それこそ他クラスとブッキングは免れない。
そもそもサッカーや野球は場所が限られてるんだ。
昼休みなら時間と場所の有効活用にピッタリだ。
天羽先生達にこの事を伝え、了承を得たところで丁度リオン先輩から再び連絡が来た。
《にゃん! は誤爆だにゃん!》
触れないままだったのに、誤爆訂正で更に誤爆。
そして予想通り、秒で再び連絡が来た。
《なぁあああ!?》
リオン先輩が今どんなリアクションをしているのか、手に取るように分かるのだから、ある意味恐ろしい。
♢♢♢♢
昼休み、グランドに集まった1-Bと3-Dのサッカーチーム。
模擬戦はセンターラインの半分を使った、15分間一試合になってる。
コートのもう半分でも模擬戦が行われ、次の模擬戦を控えてる他クラスも、お昼を食べつつ見学中だ。
「うっし! ほんじゃ、行ってくるわ、積っち!」
「ファイト愛実さん!」
愛実さんとのファイト一発ハイタッチに続き、瑠衣さんや霞さん達、最後の赤鳥君とは拳を突き当て合った。
「うっしゃー! お前ら! 今日勝ち星上げて、こんまま本番まで突っ切るぜぇ! ぐべぇ?!」
「クソドリが音頭取ってんじゃねぇよ!」
「こ、このデッドウォールが! ぎゃひん!?」
可憐な尻蹴りする愛実さんと、ぴょんぴょんとお尻を労り飛び跳ねる赤鳥君。
犬猿の仲コンビの実力も然り、全体的の実力を確認するのもクラスリーダーの役目だ。
試合の行く末を見届けつつ、しゅーちゃん直伝レシピの健康サンドウィッチを食べようとしたら、背後から不意に声を掛けられた。
「やぁやぁ、どこぞの誰かと思えば洋君じゃないか」
「敵情視察ですか、呉橋会長」
「いんや~? 私達も野球の模擬戦で、たまたまグランドにいるだけだよん?」
隣に座る野球ユニフォーム姿の呉橋会長のお言葉通り、グランドの四隅で野球の模擬戦は行われ、嘘は付いていない。
だとしても、怪しさ満点な行為を受け入れる理由にはならない。
「お、今日のお昼飯も美味しそうじゃない! 全部一口ずつ欲ちいなぁ♪」
「デジャブじゃないですか……一つあげるので勘弁して下さい」
「なんでよー? 折角の黒髪美人の間接チューなのにー? にょわ?」
「会長。洋が困る様な真似は、控えて頂きたいです」
力づくで割り込んで来た峰子さんは、ご機嫌斜めなご様子だった。
更にはギュッと懐に抱き寄せられる、強固な守り付き。
同時に多方面から鋭い視線が突き刺さるも、峰子ファンクラブの方々に違いない。
「ぬぎぎ……姑息な真似をするじゃない、峰子ちゅわん」
「それよりも、ほら。試合始まりますよ」
「今日は打者メインだから、まだ出番じゃないんですぅーってな訳で、間接サンドウィッチしようぜ洋君♪」
「……どうしても戻らないのなら、こちらも強行手段で行かせて頂きます」
側にいた大米さんに、僕の身柄を託した峰子さんが、呉橋会長の前にドンと構えた。
一触即発の空気の中、峰子さんの取った行動は、まさかのお姫様抱っこ。
一瞬ポカンとした呉橋会長も、徐々に赤面し、状況を飲み込んでいた。
「ちょ、ちょっと峰子ちゃん?! は、恥ずかしいんだけど?!」
「ただ運ぶだけです。このままグルッと優雅に、グランドを回って送り届けますよ」
「しゅ、羞恥プレイじゃん?! よ、洋君! た、助けて!?」
「野球頑張って下さい。あと約束通りサンドウィッチも、お一つどうぞ」
「今欲しい優しさじゃないぃいい!」
呉橋会長は、くっ殺ボイスと共に峰子さんとグランドを巡って行った。
これでひとまず模擬戦とお昼ご飯に集中出来る。
「リーダー、もう大丈夫そうかな?」
「え? あ、大米さん! すみません! すぐ退けます!」
大米さんに優しく支えられるあまり、居心地の良さと安心感に、離れるのを忘れるところだった。
真昼間の夏場で、かなりの近距離だったのが暑苦しかったのか、大米さんの顔がほんのりと赤い気がした。
「よぉ積ちゃん! 朝振りだな!」
「へ? あ、リオン先輩。……サッカーに出なくていいんですか?」
「ん? オレはバドミントンだぜ?」
「え」
サッカーの模擬戦話を持ちかけて来たから、ついつい担当球技がサッカーだと思ってた。
「隣、お邪魔すんぜ!」
「あ、ど、どうぞ」
可愛い猫模様の巾着の紐を緩め、ラップに包まれた数個のおにぎりと、おかずの小箱を出し、元気良くいただきますを言い食べ始めた。
呉橋会長と違い、敵情視察も何も無ky、このままお昼を一緒にするのが吉だ。
「てか、積ちゃんのヤツ美味そうだな! オレのおにぎりと交換しようぜ!」
「あ、じゃあ好きなのを取って下さい」
「あんがと! てか、具が全部昆布だけど良かったか?」
「昆布好きなんで、むしろウェルカムです」
「やっぱ昆布だよな! 積ちゃんと馬が合うぜ!」
ガッと肩を組み嬉しそうに横揺れするリオン先輩。
ご自分の柔らかな部位が当たっててもお構いなし。
お昼ご飯と試合観戦に集中出来ない中、リオン先輩の足首辺りに視線が向いた。
「あ、足のそれってミサンガですか?」
「お! お目が高いぜ積ちゃん! コイツはオレのお手製ミサンガだぜ!」
「お手製ですか。ピンクと青の配色もいい感じですね」
「だろだろ? この3-D全員のミサンガパワーがありゃ、どんな相手でも負けねぇぜ! ふふーん♪」
リオン先輩の言う通り、3-Dの結束力と連携プレイは1-Bを優に上回り、1対2という結果で初めての模擬戦が終了した。




