103話 クラスリーダー招集、カオスおかず交換、123学年、スンスン包囲網
休日が明けたら本日は、週一で行われるクラスリーダー招集の日だ。
招集目的は模擬戦相手を選ぶ、くじ引きだ。
発案者の呉橋会長によれば、現状の実力を知る機会を設けた方が、攻略甲斐あって面白くね?との事。
くじ引きで模擬戦相手は曜日ごとに変わり、その日の内でなら何度も模擬戦可能。
これを球技大会前まで実施する、有難い処置ではある。
昼休み早々、お弁当持参で生徒会室横の空き教室へと、緊張交じりで足を運んでる。
いざ扉前に来るも、中から談笑が聞こえて入り辛い。
こんな時こそ愛実さん直伝、リラックス効果のあるツボ押しだ。
緊張が軽く緩和した内に、扉を静かに開けた。
「こ、こんにちは……」
「およよ! 来ましたね! さぁさぁ! 空いてる席にどうぞどうぞ!」
「積木君。小麦の隣空いてるから、いいよ」
「オレの隣でいいだろうが」
「もしかして~膝上がお好み~?」
「何を言ってるんだね君達! 洋君は私の隣だよ! ねぇー?」
「あ、じゃあ呉橋会長の隣で」
各学年のAからDのクラスリーダー、計12人が集う中、唯一の知り合いが呉橋会長だけだ。
しかも男が僕だけの完全な詰み場だ。
そもそもの話、元々男女比率が極端な北高で、男子が統率役を担う方が珍しいんだ。
全員が揃い、自己紹介タイムが始まった。
「3-Aの室戸千和です! 今回の進行役をやらせて貰ってます!」
「3-B呉橋星です♪ 皆が知ってる生徒会長だよ♪」
「3-C! 火ヶ島! 獅子美! よろしく! 後輩諸君!」
「3-D双田リオンだ。リオンでいいぜ」
ぴょんぴょんミントグリンの髪が跳ねてる、垂れ糸目の室戸先輩。
カワイ子ちゃんぶってる、お馴染みの呉橋会長。
風も無いのに何故か赤髪がゆらゆらと揺らめく、熱血系の火ヶ島先輩。
サメみたいに歯が鋭い、蒼髪ショートの双田先輩。
壱良木先輩がクラスリーダーでないのが意外だ。
「2-A蛇ノ目風花です。お手柔らかにお願いします」
「2-B~粟沢~五月~」
「に、2-Cこ、寿村寧々です!」
「2-D瓜原奏多」
黒髪でぱっつんV字バンクで、切れ長な眼の蛇ノ目先輩。
真里さんに似た茶髪ボブでギャルな粟沢先輩。
ちんまり小動物系のふわふわ金髪な寿村先輩。
ハスキーボイスで淡白な、グレーウルフカットの瓜原先輩。
3年生に負けず劣らずな面々の中、蛇ノ目先輩の獲物を狙う眼がチラチラ向けられてる。
「1-Aの月鉈小麦です」
「あ、1-Bの積木洋です。よ、よろしくお願いします」
「はい! 1-C富士亀夏海っス! よろしくお願いしますっス!」
「1-Dの最上川琥珀だよ。よろしく」
制服も綺麗に着こなし真面目そうな、黒のワンレンボブショートの月鉈さん。
緑短髪でスポーツ系な富士亀さん。
金のお団子頭で独特な声の最上川さん。
1年生はお互い林間学校で見かけたぐらいで、顔合わせは今が初めてだ。
2・3年生に比べれば濃い面々でもなく、多少話し易い筈だ。
「皆さんありがとうございます! くじ引きはすぐ終わると思うので、先にお昼ご飯にしましょう!」
「イエーイ♪ てな訳で洋君♪ お姉さんとおかず交換しようや」
「え。呉橋会長のお昼、どう見たってパンですよね」
ドンとテーブルに置かれてるのは、10個入りの小ぶりなバターロールパン。
おかず交換には不釣り合いだ。
「ち・な・み・に♪ 超絶美少女との間接キス付きだぞぉー?」
「なんで食べ掛け前提なんですか。普通に一つ下さいよ」
「照れなさんなって! ほら、はよ弁当開けんさい!」
「なんだ呉橋! おかず交換なら、この火ヶ島の激辛レッドチキンと交換だ! 遠慮はいらないぞ!」
弁当箱の蓋に乗せた真っ赤なチキンと、パン一つを強引交換した火ヶ島先輩。
同級生という平等立場で、あの呉橋会長をものともしてない。
「ちょ!? し、獅子美?! か、勝手に交換し」
「では、ワシのゴーヤチャンプルとも交換しましょうか」
「ふ、風花ちゃんも?!」
「わちからは蜂蜜レモン。どぞー」
「ふ、ふぎゃあ!?」
次々押し寄せるおかず交換は一箇所に集い、パンも残り一個だけになってた。
「楽しいおかず交換もした事ですし、今度こそいただきましょう!」
室戸先輩のいただきますに続き、お昼ご飯を食べ始めた。
「ひ、ひっぐ……まむ……ふぇぇ……甘辛苦酸っぱいよぉ……ひん!」
異なるおかずが一箇所に集えば、味も見た目もカオスそのもの。
ただ、駄々下りなテンションで食べ続けられるのも、なんだか可哀想だ。
雀の涙程の慰めだけど、メインのおかずで元気になって貰おう。
「あの呉橋会長。ハンバーグあげるんで元気だして下さい」
「! いいの?」
「2つありますし、交換も無しでいいです」
「よ、洋君……君って奴は、なんていい男なんだ!」
ハンバーグ一つでケロッと機嫌が治る、まるで子供そのもの。
カオスおかずの上に乗せたハンバーグを、呉橋会長は嬉しそうに口へと運んだ。
「ふみゅ♪ ……よ、洋君……こ、このハンバーグって、ま、まさか!?」
「え? 豆腐ハンバーグですけど?」
「ぐはぁああああああ!?」
ハンバーグに裏切られたあまり、ぐったりと椅子に仰け反って撃沈。
しゅーちゃん直伝の体作りレシピの豆腐ハンバーグは、見た目も味も、本物のハンバーグに負けず劣らずなクオリティーなんだ。
まだまだしゅーちゃんの足元には及ばないけど、我ながら良い出来なのは確かだ。
♢♢♢♢
お腹の満たされた昼食後、くじ引きが始まった。
「まず1年生が引いて下さい! 1-Aの月鉈さんから順にお願いします!」
室戸先輩の指示の下、くじ引きボックスの番号紙を引き、あらかじめ黒板に割り振られた曜日表と番号を照らし合わせた。
今週の1-Bの模擬戦相手はこうなった。
1日目は双田さんの3-Dとの模擬戦。
2日目は富士亀さんの1-C。
3日目は粟沢先輩の2-B。
4日目は月鉈さんの1-Aに決まった。
「各クラスリーダーは予定調整をしてから解散して下さい!」
1-Bは睨みを利かせて来てる双田先輩だ。
既に椅子が対面状態でセッティングされ、座らざるを得なかった。
初対面云々でなくても、挨拶は後輩からだ。
「こ、こんにちは双田せ」
「リオン」
「り、リオン先輩」
「ふーふん♪」
軽く踏ん反り返り、ご機嫌様々なリオン先輩は、呉橋会長と同じタイプかもしれない。
「積ちゃんだったか? 3-Dはいつでもウェルカムだぜ?」
「あ、助かります。じゃあ、各球技リーダーにもそう伝えてお」
「何勝手に話を終わらそうとしてんだ」
「え」
「普通初っ端のコミュニケーションつったら、趣味とか好きなもんも聞くだろうが!」
早々に切り上げようとするのが、よっぽど嫌だったのか、本気で涙目だ。
呉橋会長とは違うとっつきにくさに、どうこう抗う勇気もなく、リオン先輩主導にコミュニケーションが進み、最終的に連絡先交換までした。
続いての富士亀さんは、体育会系ならでは強コミュニケーションだった。
「改めて1-Cの富士亀っス! よろしくっス!」
「よ、よろしうぉ?! お、お願いしまっす!」
三半規管が弱い人なら絶対に酔う、上下運動の激しい握手。
話し合いなら平然と肩を組み、お互いの顔が真横にあろうとお構いなし。
そのまま富士亀さんペースで話が進み、連絡先も追加されていた。
平常心を取り戻す暇なもなく、粟沢先輩の方からやって来た。
「はーい~積木ちゃん~とりま挨拶代わりに~連絡先交換しよ~」
「あ、りょ、了解です」
「まごまごする積木ちゃん〜カワイィ〜」
頬にチョンチョン触れ、ニコニコと楽しそうな粟沢先輩。
先輩後輩関係よりも、保母さんと子供の関係に近い感じがする。
話し合い中も、提案する度ヨシヨシ偉いねと撫でられ、終盤には膝枕寸前まで甘やかされてるのに気付かず、ハッと我に返って事なきを得た。
最後の月鉈さんに近付くや否や、何故か両手を広げて待ち構えていた。
「積木君。小麦はいつでもウェルカムです」
「え」
「対戦相手とは試合前に、健闘を讃えハグし合うそうです。ので、しましょう」
何か裏があるにしては、月鉈さんの眼は真剣そのもの。
遠慮しても引き下がる気がない空気で、若干数人の視線が突き刺さるも、この場は軽めのハグで乗り切るしかない。
月鉈さんの細身ながら大きいものが、むにゃりと押し潰され、匂いもスンスンと嗅がれ、なんだかとってもソワソワしてした。
「成程……これが刹那さんの言っていた、病み付きフレグランス……納得……」
「あ、あの……そ、そろそろ離れませ」
「オレにも嗅がせろ!」
「リオンちゃんズルいですよ~私も混ざっちゃお~」
「ちょ!?」
リオン先輩と粟沢先輩にも挟まれたスンスン包囲網は、予鈴が鳴るまで解放されなかった。




