☆100話 専用ストレッチ動画、生殺しな同盟、独り占めの恋人繋ぎ
※2023/10/18文末に鈴木爽のイラストを追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーで!
30分の有酸素運動を終え、手招く峰子さんの下へ向かい、人目のない場所に移動した。
気のせいか、峰子さんの身形が数十分前よりも洗練されてる気がする。
「さて、練習として一度通して撮ろうか」
「了解で……」
胸元とパンツのジッパーを下ろし、インストラクターコーデが数秒でビキニ姿に様変わりした。
「な、何してるんですか」
「あぁ、実は母の頼みでスポーツウェア関連の試作品を、度々試着してるんだ」
峰子さんのお母さんって、スポーツ用品店の社長さんだった筈。
スポーツウェアとビキニの組み合わせは画期的な仕様だ。
ただ何も知らない人からすれば、度肝を抜く仕様だ。
「折角なんでな、動画に残すなら試着と動作確認をと思ったんだ。ダメ……だろうか?」
軽く前のめって目線を合わせ、顔の距離が拳一つ分しかない。
通常時も魅力と破壊力が抜群なのに、ビキニ姿ともなれば、人によっては失神ものだ。
ただし、あくまでも峰子さんのお母さんの為だ。
照れ臭いだなんて言ってられない。
「わ、分かりました! 撮りましょう!」
「ありがとう、洋」
微笑みの感謝をする峰子さんに従い、撮影は向かい合わせでスタンバイ。
いざ始まったストレッチの撮影は、ビキニ姿も相まって過激なものだった。
しっかりとした呼吸のリズムは、何故か色気ある吐息に変わり、大人な空気がムンムン。
真剣な眼差しも撮影が始まった途端、一つの事に夢中な熱い眼差しとなり、レンズ越しに僕を見つめて来てる。
動作の一つ一つも身体の魅力をアピールしてるようで、ストレッチどころの話じゃなくなってる。
どこを切り取っても魅力しかない撮影に、集中が途切れそうな中、5分程でストレッチが終わった。
動画確認の為、ぴったりと触れ合う距離で、一緒に動画確認し始めた。
ストレッチで軽く火照った峰子さん身体に、むにゅんと優しく包み込まれ、意識はもう動画どころじゃない。
「……よし、いい感じに撮れたな」
「ほ、ほっ……あ、動画送るんでしたよね」
「ん? 次の本番ので構わないぞ」
「え、で、でも……し、試着と動作確認は……」
「あ、あぁ……い、今の動画は……洋専用の動画にして欲しいんだ」
「へぇ?」
唯一無二の動画を僕専用にして欲しいだなんて、当の本人が言うなんてあり得るのか。
盛大な聞き間違いかもしれない。
恥を忍んで再確認しようとした僕は、峰子さんの身体がどんどん熱くなるのを感じ、色々と悟った。
「そ、そのな……ど、動画ならいつでも私を見てくれると思って……い、嫌だったら消してくれ!」
決意表明後だから尚更、峰子さんの行動一つ一つが本気なんだ。
一歩踏み出した行動を本気を受け止め、向き合うのが僕が出来る事だ。
「い、嫌じゃないですし、消しません」
「そ、そうか……良かった……」
「ま、まぁ、いつもと違う一面を見られたのは良かったです。でも、いつもの峰子さんには敵わないですね」
「む、むぅ……か、かなり恥ずかしかったんだぞ?」
「で、ですよね」
綺麗な赤髪に負けない、顔を赤らめていた峰子さんだった。
♢♢♢♢
その後、本番のストレッチ撮影はスポーツウェア姿で、真面目に撮り終わった。
「よし、大丈夫そうだな」
「立派なお手本です」
「峰子―ちょっと来てくれー」
「ん? 秋子の声だな」
「動画はやっておくんで、行ってあげて下さい」
「む。もう少し居たかったが、独占できたから良しとするか」
去り際も名残惜しそうにチラチラ振り返る峰子さん。
軽く手を振ると、嬉しそうに頬を綻ばせ振り返してくれた。
忘れない内に1-BのクラスSNSに、ストレッチ動画を上げないと。
「お、撮り終わった?」
「ひょ!? み、美鼓さん?!」
「なははーびっくりした?」
上機嫌に肩をツンツンする美鼓さんは、薄手のスポーツパーカーからタンクトップウェアになり、しっとりと汗を掻いてた。
「で、動画どんな感じ?」
「あ、これです」
グッと触れ合う距離で、ザッと動画を確認した美鼓さんは納得してた。
「うんうん、良さげ」
「なら良かったです。クラスSNSに上げればいいんですか?」
「とりま、冒頭の数十秒だけ切り取って」
簡易動画編集アプリで冒頭数十秒を切り取った。
ストレッチの導入部分でしかない動画が、一体何になるんだろう。
「これでいいですか?」
「オケーほんで、その動画を蜂園さんに送って」
「蜂園さんって……1-Cの蜂園伊豆流さん?」
「そ」
急に出てきた蜂園さんの名前と、峰子さんの切り抜きストレッチ動画に、ようやく美鼓さんの真意が見えた。
蜂園さんに動画と一言を添えて送った。
「これで、よし……どうして僕が蜂園さんと知り合いだと?」
「積木くんリーダーさ、夏休み前に歩達と勉強会してたでしょ」
「しました」
「で、そん時に蜂園さんとも連絡先交換してたって、歩から聞いた感じ」
「なるほど」
勉強会合コンで生天目さんと蜂園さんは、確かに同じ場にいた。
生天目さん情報とは言え、美鼓さんはその事を覚えていて、有益になる今作戦を閃いたんだ。
そうこうしてる内に蜂園さんから返事が来た。
《つ、続きはないのですか?! 生殺しもいいところです!》
「食い付いた。読み通りじゃん」
「じゃあ、動画を条件に交渉でいいんですよね?」
「ん。とりま1-C及び、北高支部義刃峰子ファンクラブ会員は1-Bと同盟を組む、かな」
蜂園さんの特殊人脈が成せる、別角度からの情報や、深堀り情報は期待できる。
交渉条件を送ると、秒で返信が来た。
《同盟でも何でもするので、早く動画を!》
「なははー血眼になってそう」
「で、ですね」
想定外の同盟を結び、動画は送らせて貰った。
事後報告にはなるけど、大米さんにも報告しないと。
「大米さんに連絡するんで、先に戻ってていいですよ」
「ほいーあ」
「? どうしました?」
「なんかさ、さっきチラッと峰っ子さんのビキニ動画もなかった?」
「き、気のせいですよ? ほ、ほら、そんな動画なんて無いでしょ?」
「ありゃ、気のせいか」
万が一に備えて、ビキニ動画を真っ先に非表示切り替えにして正解だった。
もしビキニ動画を蜂園さん達に送ってたら、それこそ死人が出てもおかしくない。
峰子さんには申し訳ないけど、今後の為にもビキニ動画は封印だ。
♢♢♢♢
《義刃さんファンクラブまでも懐柔するなんて、凄いね》
「提案者の美鼓さんのお陰ですけどね」
《だね。でも、リーダー無しじゃ実現できなかったんだから、もっと自分を誇って良いんだよ》
事後報告でも文句の一つも言わず、むしろ褒めてくれた大米さん。
リーダーシップの素質は圧倒的に大米さんが勝ってるも、僕にしかないリーダーシップもあるんだ。
いつまでも自分を下げず、時には自分を誇っても罰は当たらない筈だ。
「あ、ありがとうございます。と、ところで、そっちの状況はどうですか?」
《順調だよ。サッカーは愛実さんが牽引してくれて、ちょくちょく赤鳥君と喧嘩騒ぎが起きてるけどね》
「まぁ、2人は犬猿の仲ですからね」
他にも何でもそつなくこなす瑠衣さん、運動大好きっ子なありすさんもいるんだ。
ライバルになり得る相手でない限りは、難なく突破出来る布陣だ。
「野球の方は?」
《防御面は緑岡君と夕季さんのバッテリーが要だね。攻撃面は百発百中の長平さんと、予測不可能な照さんで点取りする感じかな》
「攻守ともに大丈夫そうですね」
《うん。ジムは……はーい! 今行くよ! 愛実ちゃんに呼ばれたから、またね》
「あ、はい。またです」
ジム終わりの落ち着いた時にでも、また連絡しよう。
トレーニングに本腰入れ、皆の下へと戻ろうとしたら、しゅーちゃんが丁度向かって来てた。
「あ、洋さん。もう大丈夫なのか?」
「うん。呼びに来てくれたの?」
「まぁ、建前はな。2人っきりになれる機会なんて、またとない機会だし」
「そうだね、いつも誰かしらいるもんね」
「だから……今だけは独り占め」
キュッと恋人握りをするしゅーちゃんの、頬染める嬉しそうな顔が、なんだか可愛らしかった。
戻り道のほんの僅かな時間、しゅーちゃんから幸せオーラが溢れ出す中、皆の姿が見えた途端、ゆっくりと解けるように手が離れた。
「独り占めはここまで……ここからはインストラクターとして頑張るから」
「うん、ありがとう」
気持ちを切り替えたしゅーちゃんは、胸元に掛けてた眼鏡を装着し、空気を一変。
しゅーちゃんの眼鏡姿と言えば、勉強会合コンで赤鳥君が味わった、鬼教師化姿だ。
一切妥協を許さない鬼教師化のしゅーちゃんに、緊張の汗が背中を伝っていた。




