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積木君は詰んでいる2  作者: とある農村の村人
2章 不幸な財閥令嬢
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10話 柔らかボディのツイスターゲーム、料理上手な令嬢、執事長とお風呂

 長い長い廊下を歩き数分、縣さんが扉を開けた。

 アナログ、アーケード、最新機器、未知の最先端機器などなど、無いものを探した方が早いゲーム達で、部屋が埋め尽くされてた。


「こ、ここは?」

(れん)お兄様がわたくしの為に、世界中から集めたゲームコレクションルームです♪」

「せめて我が家に楽しめる場所を。と、お嬢様を思いやる一心で作られた部屋です」


 いつの日か、家族でゲームを楽しめる日が来る。

 お兄さんはそう信じ続けてたんだ。

 不幸体質が起こらない今は、長年待ち望んでいた時なんだ。

 家族の皆さんが帰って来た時は、家族水入らずの時間を是非とも過ごして欲しい。


「ありました♪ 洋様と一緒にやりたかった、ツイスターゲームです♪」

「準備致しますので、柔軟体操で時間潰しをお願いします」

「ありがとう縣♪ さぁ洋様♪ 一緒に体操です♪」

「のわ!?」


 半ば強引に手を引かれ、2人で出来る柔軟体操が始まった。


 ツイスターゲームって言えば、お互い触れ合ってしまう極めて危険なゲームだ。

 詰み体質との相性は最悪だ。


 平和的に乗り切る方法を考える傍ら、体前屈をする天宮寺さんは、180°開脚のまま上半身を床に着けていた。

 

「か、体柔らかいですね」

「ふっふっふ♪ こんなのは序の口です♪ I字バランスもこの通り!」

「ま、ちょ!? み、見えてますって!?」

「ま!」


 軽く恥じらうだけでI字バランスを止めない。

 お陰でパープルの布地が記憶に焼き付いた。


 柔軟体操を終え、ツイスターゲームがスタート。

 進行役の縣さんが、ルーレットと指定場所の読み上げをしてくれる。


「参ります……積木洋様、右手の緑になります」

「は、はい」


 足元付近の緑丸に右手を着け、天宮寺さんのターンに。


「お嬢様、左脚の青になります」

「では、洋様のすぐ側で♪」


 僕の右手と隣接する右脚、ツルツルすべすべな白肌の美脚が限りなく近い。


 ターンが進むにつれ、体勢がどんどんキツくプルプル振動してる。

 身体の柔らかい天宮寺さんは、晴れやかな笑顔で楽しみ、僕の右脚にお尻がむにゅっと当たってもお構いなし。

 

 ただ体勢キープの振動がお尻に伝わってるのか、天宮寺さんから微かに艶かしい声が漏れ、大変に申し訳ない気持ちで一杯だ。


「んっ……中々やりますね洋様♪」

「て、天宮寺さんも」

「参ります。お嬢様、左手の黄になります」

「では、あそこの黄色を目指して、そーれ♪」


 クルッと身体をネジった瞬間、手元が滑り、覆い被さって来た。


「お嬢様の両手足以外接地により、積木洋様の勝利です」

「ついつい手元が疎かになってました♪」


 覆い被さったまま、柔らかボディーを預け、むにぅぅぅっと接触面を広げてる。

 上体を起こそうにも無闇に触れられないまま、別なことを精一杯考える事で必死だった。


♢♢♢♢


 盛り沢山の接触ゲーム後、夕食の準備の為、名残惜しみながらゲームを切り上げた。

 夕飯は予定通り、天宮寺さんが腕を振ってくれるので、大広間の映画や漫画でしか見たことがない長いテーブルで、首を長くして待ってる。


 落ち着きのないのを察し、縣さんがカルピソをグラスに注いでくれ、チビチビ飲みながら気持ち半分落ち着かせてる。


 厨房方面から食欲誘う香りが強まり、ぐーぐーお腹が鳴って1時間。

 フリルエプロン姿の天宮寺さんが、ルンルンと陽気に料理カートで運んで来た。


「お待たせしました♪ コチラ北京ダックになります♪」


 一羽丸々パリパリに焼けた北京ダック。

 対面しただけで涎が口一杯に広がるなんて、初めての経験だ。

 追加でどんどん豪勢な手料理が運ばれ、お寿司にステーキ、懐石料理に舟盛り。


 到底1時間でやり遂げたとは思えない豪華なクオリティーは、ある意味でお腹いっぱいだ。


「では、いただきましょうか♪」


 天宮寺さんがパンパンと手を鳴らし、メイドさん達数十人が一斉に現れた。

 全員同じ料理をバランス良くワンプレートに乗せ、一矢乱れぬ動きで定位置の椅子に座った。


「お父様達が不在の日は、いつもこうなんです♪ それでは、いただきます♪」

「「「「「いただきます」」」」」

「い、いただきます」


 姿勢正しく、綺麗な作法で食事をする天宮寺さん達は楽しく談笑をしてる。

 縣さんもメイドさん達と談笑し、全く違和感がない。


 よくよく見れば縣さんと僕以外、同性の姿が一切見当たらないのに気付いた。


「あの……天宮寺さん。男の人は他に……」

「お父様やお兄様、縣しかいません♪」


 つまり、若い男は僕だけ。

 縣さんは絶対に天宮寺さんサイドに違いない。

 今日から1週間、己の戦いになる詰みを、百戦錬磨詰みだと名付けた。


♢♢♢♢


 夕食の片付け中、一番風呂をどうぞと言われ、お言葉に甘えさせて頂いてる。

 正しくは遠慮する暇さえなく、おもてなし圧が強かったんだ。


 流されやすい性格だと、若干ナイーブなまま浴場に足を踏み入れた。


「……ぷ、プール並みに広い……」


 獅子の彫像から温泉が流れる大浴場、露天風呂にサウナ、ジャグジーに打たせ湯。

 お金を払わないと入れないレベルのお風呂が、無償で一番風呂。

 現実味のない高待遇には本当に頭が上がらない。


 体を洗い、広過ぎる浴槽に肩まで浸かり、束の間のリラックス状態を堪能だ。

 慣れない環境も、明日にはマシになってる事だ。


 ボーッと体の芯まで温まるのを感じ、目を瞑っていたら、チャポンと誰かが浴槽に入ってくる音が、すぐ隣で聞こえた。


 仮に天宮寺さんなら一声掛けてきそうだ。

 だから天宮寺豪邸で唯一の同性、執事長の縣さんの可能性が高い。

 1週間お世話になるなら、親交を深めた方がいいに決まってるんだ。


 早速声を掛けてみようと、湯煙越しシルエットを目視し、名前を呼んだ。


「縣さ……だ!? ど?! ど、どちら様ですか?」

「執事長代理人の(あがた)里夜(りよ)と申します」


 湯煙先にいた里夜と名乗った、クールな美女。

 黒髪ショートで片目が隠れ、水を弾く健康的な肌と、プカプカ浮くぐらい大きな胸が印象に残る。


 縣さんと同じ苗字なら、身内の方しかあり得ない。


「あ、あの……執事長さんは?」

「執事長の父は、数日前にギックリ腰になり、医療室で安静中です」

「え。じゃ、じゃあ僕が知ってるダンディーな縣さんは……」

「わたしの変装になります」


 声もガタイも全てがダンディーな執事が、クール系美女だと見破れるわけがない。

 一体どんな事をすれば、変装がバレずに済むか、ある意味興味をそそられた。


「積木洋様。貴方様には感謝しかございません」

「え、へ?」

「わたしの夢は、お嬢様の夢。お嬢様の不幸体質が現れない今があるのは、貴方様のお陰なのです。ですので、心より感謝申し上げます」


 深々と頭を下げる里夜さんに、すぐ頭を上げて貰った。

 キッチリお礼を言われるのは、いつまでも慣れない。


 そもそもの話、昨日今日出会ったばかりな僕は、感謝される事は何もしてない。

 里夜さんやメイドさん達、ご家族の皆さんが支えてきたからこそ、天宮寺さんは不幸体質と向き合えてこれた結果なんだ。


「何か嬉しそうですが、どうされましたか」

「へ? あ、いや、何でも……あ」

「?」


 里夜さんを見て、ふと疑問に思った事が、ようやく分かった気がした。


「あの……間違ってたら申し訳ないんですけど……」

「はい」

「里夜さんも天宮寺さんと同じで、普通を楽しみたいんじゃないかと……」


 ゲームを傍で見守ってる時は、頻繁にうずうずと手足が微かに動き、どこか混ざりたさそうだったんだ。


 夕食準備中にカルピソを注いでくれる際、お腹を小さく鳴らし、夕食を誰よりも待ち侘びてた。


 決め手は、僕の家に来た時、ちょこちょこ興味津々な視線で室内を眺め、浮足立った雰囲気を感じた事だ。


 執事の立場上、普通の感情は表沙汰には出来ないから、人一倍普通でありたい気持ちがある筈なんだ。


 それに不幸体質の天宮寺さんの傍にいる身だ。

 天宮寺さんの夢だった普通に生きる。

 それを知りながら自分だけ普通に生きるのは、絶対に出来ないんだ。


 信頼と絆、目には見えない心の繋がりがあるから。


「……わたしは代々天宮寺家に仕える家柄で生まれ、幼き頃からお嬢様と時間を過ごすのが当たり前でした。お嬢様の感性や考えなど、数多くの影響を大きく受け、今のわたしがいます」

「そうだったんですね」

「はい。ただ、お嬢様の夢は正直、手放した方がいいと考える日はありました」


 不幸体質の話を聞いた時、身に降りかかる不幸と一緒に生きるなんて、少なからず無理だと思った。


 でも、天宮寺さんの夢を諦めない姿に、協力したいって心の底から思えた。


「ですが、お嬢様はどんな不幸が降り掛かろうとも、夢に向かって今できる事を進み続けてました。ずっと傍にいながら、こんな身勝手な考えをした自分を嫌いになり掛けました……けど、お嬢様はそんなわたしに、いつものように微笑みかけて手を差し伸べてくれました」


 どんなに自分が不幸であっても、誰かを思いやる気持ちは絶対に忘れない。

 それが天宮寺さんなんだ。


 詰み体質も見方によれば、誰かに手を差し伸べられる機会でもある。

 出会って日は浅いけど、天宮寺さんの事は本当に尊敬できる。


「それからわたしは、お嬢様の為に生き、普通に生きたい夢も共に歩もうと心に刻みました。……すみません、すっかり自分語りになってしまいました」

「いえいえ。里夜さんの話、聞けて良かったです」

「……長々とペラペラ喋り過ぎました」


 顔が恥ずかしさで火照ってる。

 きっとお風呂が居心地良くて、そう見えるだけだ。

 里夜さんもそう思って欲しいに違いない。


 不幸体質が次、何時降り掛かるかは誰にも分からない。

 ただ詰み体質で帳消しになっている間は、里夜さん達はわがままになっていいんだ。


「里夜さん。僕がいる間の1週間、里夜さんのわがままをやってみませんか?」

「わ、わがままですか? わたしみたいな者がいいのでしょうか?」

「天宮寺さんなら、きっと喜んで受け入れてくれる筈です」

「お嬢様なら……ですか……」


 ゆっくりと天井を見上げ、少し考え始めた里夜さんは、またゆっくりと視線を戻し、目を合わせてくれた。


 自分にもっとわがままになっていいんだ。

 そう決めたみたいだ。

 言葉に出さずとも柔らかく微笑む表情が、そう言ってる。


 和やかな空気に包まれ、もう少しお風呂を堪能しようと体を伸ばした時、扉の開く音が耳に入った。


「洋様♪ お背中をお流しに参りました♪」

「な?!」


 タオルを巻いた天宮寺さんを先導に、メイドさん達も後からズラズラ入って来てる。


 詰み経験上、男女比率の傾きが一気に変わるのは、良くない詰み場の兆候だ。

 今すぐ逃げないと、総出で背中流しをされるに違いない。


 浴槽を出ようとした直前、里夜さんが羽交い締め。

 むにゃんと柔くてモチモチする感触が、背中を埋め尽くして来てる。


「わたしのわがままは、まず積木洋様をこの場に引き止め、背中を流す事に決めました」

「り、里夜しゃん!?」

「ナイスホールド~縣~♪ さぁ~……洋様……ただただ身を委ねて下さいね……♪」

「や、やめてぇええええぇえええ?!」


 誰にも声は届かず、ひたすらに背中流しで存分におもてなしされた。

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