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ほどほどに生きたい騎士団長  作者: お湯おじさん
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1話

他の騎士団長との顔合わせ(という名の俺に対する値踏みタイム)を終え、談話室を出る。

騎士団長と話すとか精神ゴリゴリに削られるわー。しかも歓迎ムードって訳じゃなくて「え?なんでこんな奴が?」て雰囲気がすごいし。


「…めんど」

「リュース・マハルさんですか!?」

「うお!?」


気がつけば傍に漆黒の外套を纏った女性がいた。

前髪パッツン、意志の強そうな瞳をした小柄な女性だ。

え、なにこの子?なんでそんなに声大きいの?俺そんなに耳遠そうに見えるの?いや普通だよ?普通……だよな?


「えと……多分、はい……」

「私は黒套騎士団所属マナ・ウッタルと申します! 副団長の命により、お迎えに参りました!」

「はあ」

「庁舎にご案内いたします!」


声、でけぇー。





ウッタルさんに連れられて皇城区画から出て、黒套騎士団の庁舎へと向かう。


黒套騎士団の庁舎は皇城から北に位置していた。庁舎自体の見た目は5階建ての大仰な建物で中には仕事用の部屋だけでなく、各団員用の部屋や食堂や大浴場なども完備されている。他にも敷地内には馬用の厩舎や訓練用の施設もあるとウッタルさんは自慢するように説明しながら庁舎内を案内してくれた。


まあ、俺が元いた騎士団もほぼ同じ作りの庁舎だったけどね。多分七騎士団の内、皇城区画外に庁舎を持つ5つの騎士団の庁舎は同じ作りだろう。外から見た限り一緒だから。


「マナ」


廊下の先に現れた人影が声をかけて近づいてくる。

近づいてくると共にその異様が見えてくる。

まず大きい。俺よりも一回り背が高く、肩や腕周りもデカイ。

そしてその顔は人ではない。獅子だ。くすんだ金色の立髪を靡かせた獅子が俺とウッタルさんの目の前に立っていた。


「彼か?」

「はい!」

「そうか。……挨拶が遅れて申し訳ありません。黒套騎士団副団長を務めさせていただいているポレスであります」

「あ、どうも」


知ってる。このポレスさん、すごい有名人だもん。

実力も人格も十分で、獣人でさえなければ七騎士団を束ねる総騎士団長間違いなしと言われてる、超有名人。人種差別のある帝国で、獣人族でありながら市民たちからの人気も高い。


「あ、と……リュース、マハル……です」

「マハル団長ですな。これからよろしくお願い致します」


深々と礼をするポレスさんに合わせて、慌てて礼をする。

この人は俺のような頼りない男でも侮るような雰囲気がない。噂通り、かなりの人格者みたいだ。


「マハル団長、早速で申し訳ありませんが団長室までよろしいでしょうか?時間がありませんので」

「あ、はい」


踵を返すポレスさんの後について行く。どうやら急ぎの用事があるらしい。

え、急に?今朝急に皇城に呼び出されて事態を掴めないまま黒套騎士団長に任じられて、もう任務?

いや待って、こっちはもうお腹いっぱいです、消化し切れてません。というか理解も追いついていません。


「早くせねば仕立て屋が帰ってしまいます」

「……はい?」




その後、団長室で待っていた騎士団御用達の仕立て屋に採寸された。仕立て屋のおじさん、すごく不機嫌で怖かったよ。え、俺が悪いの?


「本来ならば就任前に準備しているのですが、此度は急でしたから。仕立て屋も明朝までに正装を仕立てねばならぬので焦っていたようです。ご理解ください」

「あ、別に怒ってないですよ」


どっちかって言うと怒ってたのはあっちだし。


「正直、まだ自分の置かれた状況を飲み込めてないって言うかなんと言うか……」

「気持ちが固まらぬまま任命を受けたのですか?」

「固まるも何も、皇帝陛下に命じられて断れませんて」

「……失礼ですが、団長就任を知ったのはいつのことでしょうか?」

「いつって……皇帝陛下に言われた時?」

「な!? 前もっての打診や内示はなかったと!?」


ポレスさんが目を見開く。ちょっと怖い。

んー、でも本当に思い当たる節がないんだよな。庁舎までの道中に混乱する頭で可能な限り考えたんだが、団長就任は勿論、昇進や転属なんて話も聞いたことない。ガチで人違いじゃねえのかと思う。


「なんにもなかったですね」


なんせこの1ヶ月で業務用最低限の会話しかしてないし。昇進やらの話はおろか、世間話の一つもしてない。


「それは……飲み込めぬのも仕方ありませんな」

「あ、いや、別に黒套騎士団が嫌とかそういう訳じゃないんですよ!?」


下世話な話、給料増えるのは嬉しい。騎士団長になんてなったのを聞いたら母ちゃんや婆ちゃんは泣くんじゃないんだろうか。

ただ目立つのは嫌だし、責任ある立場にもなりたくないというのが本音だ。

ポレスさん呆れただろうか?ウッタルさんは?怒ってるのだろうか?う〜ウッタルさんの顔を見ることができない。


「それは良かったですね!」


ん?


「ウッタルさん?」

「リュース団長が黒套騎士団を嫌と思わなくて良かったです!」

「えーと……」

「団長、マナは嫌味ではなく完全な善意で言っている。それだけはわかってやってくれ」

「それはなんとなくわかるんですけど……」


満面の笑みのウッタルさん。これで皮肉や嫌味だとしたら女優だよ、アカデミー賞物だよ。

なんとなく思ってたけど、この人、頭の中があかん人だ。


「?」

「話を戻すが、明日には全団員に着任の訓示をしていただきたいのですが、宜しいですかな?」

「く、訓示? しかも全団員って……」


嫌でしかないんだが。


「……やらないと駄目ですかね?」

「何か問題が?」

「いえ……」


言えない。面倒臭いとか、人前に出たくないとか、目立ちたくないとか。言いたくないけど……やりたくないよー。




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