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【小話】トパーズ宮の人々

最高で日間ランキング総合3位までいったみたいで!ありがとうございます!

お礼…になってるのか微妙ですが、お礼小話です。

 トパーズ宮の使用人の朝は早い。


 主人であるライナス殿下が非常に気難しく、大勢の人間が自分の居住地にいるのを好まないため、最小限の人数で回されているせいだ。

 それに加えて、業務はすべてライナス殿下に気づかれないように行わなければならない。

 使用人は存在を悟られずに影のように業務を遂行するもの。まさに厳格な貴族と使用人の違いを徹底しているのがライナス殿下。


 なのだが・・・。



「お願い、待ってーーーっ」


 ある日のトパーズ宮、侍女は足音がうるさくないように注意しながらも、出来る限りの速さで屋敷の中を走っていた。

 彼女の視線の先にいるのは薄汚れたぶち猫。どこからか中に入り込んだらしい。

 

 にゃーん?と首を傾げてこちらを見つめる様子はすごくかわいい。すごくかわいいが、屋敷内の調度品や食材に被害が出ないうちに外へ追い出さなくては。


「え!?猫?」


 侍女の奮闘も虚しく、ぶち猫は曲がり角から現れたライナスと鉢合わせしてしまった。

 珍客に驚いたライナス殿下の顔がふわり、と緩む。その顔が物語っている『かわいい』と。

 が、侍女に気付くと、しまったとばかりにわざとらしく眉をしかめて顔を取り繕う。


 むんずっとぶち猫は首根っこを掴まれると、侍女に差し出された。

 流石ケトス様。いつでも冷静すぎる。

 侍女はケトスから差し出された猫を受け取ると、離さないようにしっかりと抱きかかえながら廊下脇の壁に同化するように立ち、2人がいなくなるまで頭を下げ続けた。

 


 庭師が前定作業をしていると、どこからか声が聞こえてきた。


「ごめんね。追い出してしまって。人懐こいね。誰かの飼い猫なのかな?」


 そっと木陰から声の方を窺うと、アセビの木々の影に隠れるようにしてライナス殿下がいた。地面に腰を下ろし、膝の上にぶち猫を乗せている。


「かわいいね。遊びに来てくれてありがとう。僕は人とはなかなか喋れないから君が来てくれて、とても嬉しいよ」


 ライナスがぶち猫の喉元を撫でてやると、猫はゴロゴロと気持ち良さそうだ。

 そんな猫と会話するライナスを目に焼き付けて、庭師はそっとそこを後にした。そして使用人達にアセビの木の辺りには近づかないように伝えた。



 その日の晩餐、ライナスはデザートを見た途端に目を輝かせた。

 丸く盛り付けられたムースに耳に見立てた三角の飴細工が刺さっており、ご丁寧にココアでぶち模様も表現されている。


「屋敷に迷い込んだ猫からインスパイアを受けたデザートだそうです」


 と、ケトスから説明を受けると、ライナスはにこにこと猫型ムースを見つめ続けた。

 晩餐の場にはケトスしかいないから、ライナスは心置きなく猫型ムースのかわいさを堪能し、惜しみながらも美味しく完食した。



 一方、その夜の使用人達は。


「ああああ、今日のライナス殿下の猫に見惚れた表情といったら、なんて可愛らしいのかしらっ」

「ふんっ、儂なんて猫と語らうライナス殿下を目撃したぞ!あの時、アセビの木の周りだけが天国になったようじゃった」


 ゴホンっ


 おもむろにシェフは咳払いをすると、懐からカードを取り出した。

 カードには、ライナスのサインが書かれている。


「えええ!ライナス殿下のサンキューカード!!」

「さては、晩餐に猫をモチーフにした何かを入れたんでしょ。ずるいわよ!」


 シェフはそのカードを誇らしげに掲げて見せびらかす。


 このサンキューカードとは、普段は使用人に接することができず、会えても冷たくすることしかできないライナスの負い目とストレスを軽減させるためにケトスが考えたものだ。

 このライナスのサインが書かれただけの何の変哲もないカードをもらうことは、ライナスから働きを認められたことを意味する。


「私は7枚持っているからね。ライナス殿下の筆跡が年々大人びていくのが感じられるよ」


 シェフが、自分はライナス殿下の筆跡を比較できるほどカードを貰っているのだ。と一層、他の使用人への自慢を強める。ブーイングにも得意げな様子が増すばかりだ。


「シェフってずるいのよ!食事は毎日、殿下の目に留まるんだから!!」

「儂も4枚持っとるぞ!!」

「私も欲しいっ!!」


「静かになさい!」


 白熱し出した場を侍女長が鶴の一声で静める。


「私たち使用人の役目は誠心誠意、ライナス殿下にお仕えすることです。そんな下心を持つなんてもっての(ほか)ですよ」


 しゅん、と項垂れる使用人達が、そうだ。見返りを求めるなんて間違っている。我々は影に徹する使用人なのだ!と決意を新たにしたところで、侍女長が付け加えた。


「ちなみに、私は10枚持っておりますけどね」


「侍女長ーーーー!!」

「やっぱり侍女長も自慢したいんじゃないですか!」

「10枚ってことは小さい頃のライナス殿下の筆跡も?侍女長、見せてくださいよ!」


 こうして、今日もトパーズ宮の夜は更けていくのだった。

こんな1日もあったかもしれない。リリアが来る直前ぐらいのトパーズ宮の1日でした。


番外編も考えてるので、そちらは今しばらくお待ちくださいねー!

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