過剰な愛は迷惑をかけない程度で
「コレット!!!無事か!!!」
「お父様!」
「領主様!お待ちください!」
扉が意気良い良く開けられ、大きな音とともに入り口スレスレの大男とそれを止めようとする兵士がやってきた。
「おお!コレットよ!無事であったか!」
「はい!」
「おお、おお…良かった…攫われたと聞いた時は血の気がひいたぞ」
そう言ってコレットさんに近づき、優しく抱きしめ合った。
感動的な再会だが、止めようとした兵士はオロオロとしており、ちらっと見たジョゼンさんは映画とかで良く見る手を組んで頭を抱えていた。
…あ、大男がこっちを見てる。
「む?君は「べゼット」!はい!」
俺について聞こうとした瞬間、ジョゼンさんが低い声で名前を呼ぶと機敏で無駄のない動作で大男が直立する。
「何でありましょうか!」
「…べゼット、前にも申したがそういう行為は屋敷の中でのみと申したはずであろう…」
「はい!」
「何度言えば気が済む…しかも!コレットの恩人の前で粗相を起こしなどッ!」
ドン!と音を立て、ジョゼンさんが自分の机の上に足を乗せ、次の瞬間、大男の前までものすごい勢いで近づき
「この!大馬鹿ものが!!!!!!」
ドズゴーーーーーーン!!
頭に拳を振るい、大男は机を壊し、大きな音とともに床にめり込んだ。
「全く、誰に似たんであろうなぁ」
「…ふぅ、それはおと…んん、兵長殿にございましょうかね?」
大男が頭に着いた床や机の破片を祓いながら答えた…えぇ…
「ふむ…わしも衰えたかな」
「いえいえ、私は軍事を離れましたのでこれでも立っているのがやっとですよ」
「…兵長、このことは経理部長に言っておきますからね」
「ホホホ…勘弁願いたいのぉ、あやつの説教はちときついからなぁ」
「兵長!!!!!!!!!!!!」
「…噂はするもんでないな…ゲンヤ殿」
「はい?」
「報酬を受け取ったらすぐに立ち去ることをお勧めしよう、長居すると君にも火が飛んでしまうからな」
「え、あ、はい、分かりました?」
「うむ、あやつのことだ、すでに報酬の用意はしてあるであろうし、こっちにきていたのであろう」
「兵長!!!」
ジョゼンさんが言い終わると同時に大声を出して入り口で袋を持った女性が立っていた。
「うむ、なんだね、ロイロス女史」
「!なんだじゃないですよ!なんの騒ぎですか!!」
「ホホホ、少し身内の粗相でな、それよりゲンヤ殿の報酬の用意は「出来ています!」よろしい、では」
そう言って持っていた袋を取ると俺に渡して…結構重いな。
ええっと、とりあえずさっさと依頼の報告…の前に風呂掃除がまだ残ってたっけ…まだ時間は大丈
(この時間であれば余裕を持っていけるでしょう)
なら良かった、まあ早めに行くとしよう。
「はい、じゃあ私はこれで」
「うむ、気をつけて帰るようにな」
「そうします、失礼します」
そう言って、少しだけ固まった女性の横を通り抜けて、そそくさと兵舎を後にする。
なお、階段を降りる途中で何度か大声が響いて、たまたま目があってしまった兵士は苦笑いをしていた。
ええっと、依頼の風呂屋は…確か俺が行ってる風呂屋だから…あ、あった。
「ごめんくださーい」
「はーい」
入って声を上げて呼ぶと奥の方から男性の声…昨日の番頭さんかな?が聞こえた。
「はいはい、すみませんがまだ風呂は」
「あ、自分、冒険者で依頼されたんで来たんですが」
「おお、それは良かった!いやー、ちょうど昨日、掃除屋が腰を痛めて、昨日の夜に依頼していたが来るか心配だったんだよ!」
「ああ、腰を…その方は?」
「まあ早くて2、3日で治るとは言ってたが、いかんせん風呂は毎日清潔にしなきゃなんねぇし、風呂場は広いしで困ってたんだよ、まあ、とりあえずついてきてくれ」
「あ、はい」
番頭さんに案内されたのは昨日入った風呂場だった…お湯はまだ張られてない。
「とりあえずこっちを綺麗にしといてくれ、俺は脱衣所を掃除すっから、何かあれば聞いてくれ」
「分かりました」
…さて、神託さん生活魔法でここを綺麗にしたいんだけど範囲ってどのくらいなんですか?
(この広さであれば全く問題なく一度で汚れを落として綺麗にできます)
…はぇ〜、結構広いけどできるんだ…ええっと
「清掃…おお」
俺が魔法を言った瞬間、俺の立っている場所から光の円が広がっていき通った場所は綺麗になって、光を少し反射して眩しい!
「おお、これはすごいな」
「ん?どうし…!?なんだべや!?」
「あ、番頭さん、これでいいですかね?」
「………」
「あれ?」
声をかけたが返事がない…死んでないよね?
触ってみようと近づくと、こっちを見
「ななななにしたんだべや!?」
「え!?何かダメでしたか!?」
「いやいや、こんな短時間でここまで綺麗にされて文句なんてないだべ!それよりどないしてこうなったんだ!?」
「あ、ああ、なるほど、自分は生活魔法があるのでそれでちょちょいーっと」
「生活魔法!?そげなすごい掃除屋が覚える魔法を使えるだべ!?」
「あはは…そういうもんなんですね、それより他に何かあれば」
「おお!それならあと女性用の風呂場とあとはできれば手洗い場、それと脱衣所をお願いします!」
「分かりました」
まあ、どうせ自分が入る風呂屋だし、綺麗にするけど…なんだろう…良いように使われてるような……気のせいだよな?
とりあえずさっさと終わらせて報告しないとな。
設定メモ
生活魔法について追記
この世界の掃除屋は2種類あって
1つは普通の人力掃除で、もう1つは生活魔法によるもので、人力よりもお金を取るところが多い。
が、理由としてまず生活魔法を覚えている人でさらに魔法の能力が高い人出なければ主人公のような綺麗な仕事ができないため人が少なく、さらに言えば範囲が広ければ広いほどMPを使うので今回のような広い範囲を出来る人は実は主人公しか居ないのである。
次回:気づけば…




