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第八話 理由

 放課後。いつも通り俺は萌絵と一緒に帰路にいていた。

 横目で萌絵を見ると、腕を組みながらトコトコと歩いている。


「萌絵、何を考えてんだ?」


 突然声をかけられたからか、萌絵は狼狽ろうばいしたがすぐに落ち着き、俺の問いに答えた。


「えーとね。実の兄妹が付き合うのって倫理的に大丈夫なのかなーと……」


 また訳の分からんこと言い出したよ。やはり、あの日以来萌絵の言動がおかしくなってる。まあ、結論から言うと大丈夫ではない。そんなの言わずもがなだ。

 俺はあのことを言おうか迷ったが、思い切って訊いてみた。


「少し訊きたいんだけどさ。萌絵、お前はなんで異性として俺を好きになったんだ?」

「人を好きになるのに理由なんて要るの?」


 恋愛漫画とかでよくあるよな、そういうセリフ。だがこっちとしては理由を明確にしてくれないと、すごくもやもやする。


「じゃあ、理由を置いといて、俺を異性として好きになったのはいつからだ」

「えーとね。中学生になってからだと思う」


 断定じゃねぇんだな。まあ中学生は思春期まっさかりだから、恋愛感情を抱く時期として早すぎることはない。でも、なんで俺を好きになっちゃったかな。ほかにもいたでしょ。


「萌絵、世の中にいい男はたくさんいる。何も俺にこだわる必要はないんだぞ」

「私はお兄ちゃん以外の男子には興味ないもん」


 あっさり一蹴された。うーん、弱ったな。萌絵は頑固なタイプだからすぐに考えを改めることはないだろう。俺としては今すぐに考えを改めてほしいんだが。……もののついでに姉貴にも訊いとくか。

 

 ということで、その日の夜。俺は姉貴の部屋に向かった。


「あら雄輝、何の用?」

「姉貴、少し訊きたいことがあるんだけどいいか」

「何?」

「姉貴は俺を異性として好きなんだよな」

「ええそうよ」

「理由を訊かせてもらっていいか?」


 俺の言葉に姉貴は腕を組み、数秒唸ってから言った。


「そうね。一目惚れっていうのはどうかしら」


 訊くなよ。提案されても困るわ。


「もう理由は良い。異性として俺を好きになったのはいつからだ」

「あなたが産まれてから」


 俺はフリーズした。産まれてから? 早すぎるってレベルじゃねぇぞ。あんた当時一歳だろ。まだ簡単な単語しか喋れない状態で異性として俺を好きになったって言うのか? 無理がありすぎる。


「多分、本能的なものだと思うわ。十八年間あなたの事をずっと考えてたもの」


 やっぱりこの女、いろんな意味でやばい。

 

「雄輝はどうなの?」

「え?」

「私の事、どう思ってるの? 『姉弟』ではなく『異性』として」


 答えづらい質問してくるなぁ。……まあ姉貴の顔立ちはいいし、本性を知らなければ多分惚れていただろう。でも実際は人を洗脳しようと企む重度のヤンデレ女。


「……やばい女」

「それはどういう意味?」

「察しろ」


 姉貴は不満そうな顔をしたがすぐ開き直り、再び質問してきた。


「雄輝、もう一つ訊きたいんだけどいい?」

「なんだ?」

「実の姉弟が付き合うのは倫理的に大丈夫だと思う?」


 あんたもかい。まあ姉貴はもともとおかしいからな。別に驚きもない。


「姉貴、もう高三なんだから訊かなくても分かるだろ」


 姉弟(兄妹)で付き合うのが許されるのは小説や漫画だけだ。現実でそんなこと言ったら周りから批判食らうぞ。

 俺の返答に姉貴は表情を変えず淡々としている。意外に思っていると姉貴は奇妙な事を言った。


「実の姉弟が付き合うなんてまだ可愛いものじゃない。私たちの両親と比べればね」


 俺は姉貴の言葉が理解できなかった。一体何を言ってんだ? 


「私たちの両親は一つ年違いの義理の兄妹なの」


 ……はああぁぁぁぁ!? なんじゃそりゃ!? 父さんと母さんが義理の兄妹!?

 というか、兄妹で付き合うどころか結婚しちゃったの!? そして子どもを産んじゃったの!?


「最初結婚すると言った時は家族から猛反対されたそうよ」


 でしょうねぇ。俺でも反対するわ。あ、姉貴と萌絵はその遺伝子を受け継いじゃったのか。なんてこった。

 この世に生を受けて十六年、今年で十七年。俺の人生の中で一番の衝撃だった。


「つーか、それいつ聞いたんだよ。初耳だぞ」

「私が高校生になってからだから二年前、私も最初聞いたときは心底驚いたわ。で、どうかしら。付き合う気になった?」


 なるわけねぇだろ。マジで付き合おうとしてんのかよ。

 それにしても、まさか両親が義理の兄妹だったとは……。よく反対押し切ったな。

 俺は動揺を隠せぬまま姉貴の部屋を離れ、自室に入るとなぜか萌絵がいた。


「あ、お兄ちゃん、おかえり~」

「勝手に人の部屋に入るなよ。何もいじってないよな」

「ノープロブレム! それより私、分かったの。お兄ちゃんを好きになった理由」


 理由? まあ大方おおかた予想はできている。


「どうせ、兄妹だから俺といたら安心するとかそういう理由だろ?」


 萌絵は首を横に振った。違うのか。


「それじゃあ、なんなんだよ」

「多分ね。私はお兄ちゃんの顔面に惚れたんだと思う。一目惚れって言うのかな」


 顔面って……、外見なら分かるが。まあ、大して変わらんか。


「萌絵、自分で言うのもなんだけど、俺の外見って地味だぜ。惚れる要素はないと思うけど」

「そう? 確かに顔は地味かもしれないけど私はタイプだよ」


 褒めてんのか、けなしてるんかどっちなんだよ。しかし、実の妹に直接「地味」って言われると結構メンタルに来るな。

 

 

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