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第六話 妹の変化、幼なじみの不調

 萌絵の告白から約九時間、その余韻が残ったまま俺は起床した。

 あの後、「私も一緒に寝る!」と言い出した萌絵を説得するのにだいぶ労力を使った。今はちゃんと自分の部屋で寝てるだろうが、顔を合わせづらい。

 

 姉貴に関しては特に問題はない。昨日の朝に俺がロリコン(大嘘)だと言ったときはかなりショックを受けていたが、夕飯のときには何もなかったかのようにけろっとしていた。内心ではまだ引きずっている可能性も否定できんがな。

 そんなことを思いながら俺は制服に着替え、いつも通り日課の勉強に勤しむ……が。

 

「……集中できねぇ」


 昨日のことがまだ頭から離れない。俺に告白したときの恥ずかしげな萌絵の表情が今も鮮明に残っている。結局、勉強が進むことはなく七時、ドアがノックされた。誰かはもう分かっている。


「お兄ちゃん、おはよう! 今日も朝から勉強?」

「あ、ああ」


 なんだろう。今目の前にいる萌絵が少し大人びているような気がする。外見はまったく同じなんだが……やはり昨日の影響か。


「さすがだね~。私なんか昨日、お兄ちゃんに教えてもらった内容全部忘れちゃった。どうすればいい?」


 知らねーよ。つーかまだ半日経ってねぇのになんで忘れんだ。

 俺は呆れたと同時に少しだけ安心した。テンションはいつも通りの萌絵だ。表情も俺が見る限り、特に大きな変化はない。

 ただ、リビングに下りてから萌絵の口数が少なくなったのが気にかかった。萌絵は人見知りではあるが、家族や美優に対しては饒舌(じょうぜつ)だ。

 姉貴もこれには気付いたようで、萌絵がトイレに行っている間、俺に訊いてきた。


「今日の萌絵、何かおかしくない? 妙におとなしいというか……」


 俺は昨日のことを言おうか迷ったが、すぐに却下した。ここで無闇に言ったら何をしてくるか分からない。


「そんなときもあるだろ。常時ハイテンションとか疲れるぜ」


 姉貴は納得していない様子だが、俺にも原因が分からないのでそういうほかない。

 


 学校に着き、俺は美優がいないことに気付いた。普段なら俺よりも先に来るのに……。俺はスマホを取り出し、メッセージアプリを起動させて美優にメッセージを送った。

 それから三十秒、もう返信が来た。早っ。


『ごめん風邪引いた。熱はあるけど一日休めば治ると思う』


 やはり風邪か。内容を見る限り心配はなさそうだな。


『そうか。ゆっくり休めよ』

『心配した?』

『ちょっとだけ』

『もっと心配してよ!』


 なぜだ。こいつ本当に風邪なのか?

 俺はスマホを机に置き、大きく背伸びした。美優がいないとなるとすっげぇ暇になるな。俺は専ら萌絵、姉貴、美優の三人としか話さない。ほかの生徒とも交流はしたいが男子はみんな敵だし、ほかの女子に話しかけても怪訝に思われるだけだ。

 ホームルームまでやることがないので、勉強でもしようかとノートを取り出したとき、横から谷山が声をかけてきた。


「関、今日は竹内さんと一緒じゃないんだね」

「美優は風邪らしい。すぐ治るって返事来たから大丈夫だと思う」


 谷山の「えっ」という声と同時にクラスが騒然とする。美優は男女ともに人気高いからな。これが俺だったら心配されるどころか逆に男子から喜ばれるだろう。


「そうか。……つまり関は今日ぼっちなんだね。仲間ができて嬉しいよ」


 俺は全然嬉しくねぇけどな。ぼっちなのは認めるが。

 ぼっちの気持ちがちょっとだけ分かった一時間目の途中、美優がふらつきながら教室に入って来た。


「美優、お前休むんじゃなかったのか」

「私、学校を休むとは一度も言ってないよ」

 

 いや、確かにそうだが、そんな無理して来たら風邪が悪化するぞ。


「竹内、顔赤いが大丈夫か」


 美優は教師の質問に「大丈夫です」と言ったがその直後、へなへなとうずくまってしまった。まったく何やってんだか。

 俺は席を立ち、教師の承諾を得た上で美優の腕を肩に乗せて保健室まで連れていくことにした。


「美優、お前なんで休まなかったんだよ」

「だって……雄輝に会いたかったんだもん」


 だからその上目遣いやめろ。恥ずかしいから。……つーか、家そんなに遠くないんだしいつでも会えるだろ。

 

「とにかく今日は早退しろ。そんな状態じゃまともに授業受けれんぞ」


 美優は涙目でコクリ頷いた。……っと、ここから階段か。俺は美優が転倒しないようにゆっくりと階段を下りて保健室のある一階へ向かう。これ、担ぎながらだとだいぶ時間かかりそうだな……仕方ない。


「美優、背中に乗れ、保健室まで背負ってやる」

「え、そんなの恥ずかしいよ」


 毎度俺に抱き着いてくるくせに、背負われるのは恥ずかしいのかよ。


「担ぎながらだと時間かかるんだよ。心配すんな。今は授業中だから誰も見てない」


 美優は躊躇う様子を見せながらも俺の背中に乗った。なんか思ったより重いような……気のせいだな。うん。

 

「ふふ、雄輝の背中大きいね」

「あんまり動くなよ。バランス崩して階段から転げ落ちたら洒落にならない」

「分かってるって」


 ホントかよ。俺は内心不安になりながら慎重に階段を下りていく。

 

「そういやさ、お前なんで風邪引いたんだ。変な物でも食ったか?」

「ううん。多分、寝不足だと思う。私、ここ最近小説のネタ考えてばっかりでロクに寝てなかったから……」


 ああそうか、美優文芸部部員だったな。すっかり忘れてたわ。

 俺は一階に下りるまで美優と適当に話し、保健室が見えたところで美優を降ろした。


「ここからは自分でも行けるだろ。ゆっくり休めよ」

「雄輝」

「ん?」

「……ありがとね」


 俺は思わず美優から目を逸らし、頭を掻いた。

 

「あはは、雄輝、顔赤い」

「うるさい。さっさと保健室行けよ」

「はーい」


 まったく、世話が焼ける。俺は美優が保健室に入ったところを見て階段を上がる。そして、ふと思った。

 やはりあいつのいる教室が一番落ち着くな、と。


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