表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/35

第二十四話 不可抗力

 姉貴を驚愕法で眠らせたのはいいものの、俺自身も睡魔に襲われていた。

 ここ最近は姉貴のしつこさが増していて、ロクに寝れていない。

 

「マジでタチ悪いな」


 どうすれば姉貴は俺の洗脳を諦めてくれるのだろう。両親に言っても期待はできない。過去に一度相談したが、「何バカなこと言ってるの!」と一蹴された経験がある。そりゃ実の娘が弟を洗脳しようとしてるなんて普通信じられんわな。

 

 いい案が思い浮かばず途方に暮れていると、ドアがノックされた。時間を確認すると午前七時、俺は眠気を抑えてドアを開けた。

 そこにいたのは予想通り萌絵、こちらを見てニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。


「お兄ちゃん、おはよう~。今日は何してたの?」


 なんだこの既視感。確証はないが、何か面倒なことに巻き込まそうな気がする。


「何もしてない。ただボーッとしてた」

「勉強とかしてないの?」

生憎(あいにく)そういう気分になれなくてな。じゃあ、先にリビング下りるわ」

「ちょっ、ちょっと待って! せめてチューだけさせて!」


 ほら、やっぱりそうだよ。姉貴もそうだがこいつも懲りねぇな。

 

「お前、何度もしてるだろうが(一方的に)」

「でも最近してないし」

「はぁ……ったく。したきゃしてみな」


 俺の言葉に萌絵の眉がピクッと動いた。どうやらその気にさせてしまったらしい。

 まあ、萌絵のスピードにはもう慣れてるから、避けるのはさほど難しくない。ただ、そのたびに萌絵が床に顔面を打ち付けてるのが心配でならない。幸いけがはしてないが、何か起きる前に諦めてもらいたい。

 

「萌絵、あんまり飛びすぎるなよ。落ちたときの衝撃えぐいから」

「心配してくれてるの?」

「そりゃ何度も床に顔ガンガン打ってるからな」

「えへへ」

 

 褒めてない、と言おうとしたところで萌絵が一直線に向かってきた。完全に虚を突かれた。

 避けられる速さではあったが、眠気のせいで動きが鈍くなっている。マズい、これはぶつかる。

 そして案の定、萌絵の唇が思いきり当たった……俺の唇に。

 

 俺と萌絵は折り重なるように部屋の床に倒れた。それから数秒の沈黙が流れる。ついに恐れていたことが起きてしまった。まあ挑発した俺が悪いんだが……。

 

「萌絵、けがはしてないか?」


 返事はない。顔に目を向けるとゆでだこのように真っ赤になっている。


「……あ……ああ」

「ん?」

「わ&ぃ$#%りぁ!!」

 

 解読不可能。


「萌絵、落ち着け」

「うわあああぁぁぁ!!」


 こりゃダメだ。萌絵はパニック状態のまま俺から離れると、駆け足で部屋を出ていった。

 しかし、ファーストキスの相手が実の妹になってしまうとは……俺は天井を見上げ、深いため息をついた。

 リビングに下りてから俺と萌絵は一切目を合わせなかった。というより合わせられなかった。この事は絶対にバレてはいけない。姉貴は特にそうだ。

 

 学校に着いてから俺は萌絵の姿が脳裏にちらついた。家では冷静でいられたが、今思うとかなり恥ずかしい。あ~、時間戻せねぇかな。

 とりあえず今日の事は忘れよう。後悔先に立たずっていうしな。

 だが、忘れようと思えば思うほど余計に思い出してしまう。美優は俺の様子を見て違和感を抱いたのか、怪訝な顔で話しかけてきた。

 

「雄輝、今日なんかあったの? ずっとそわそわしてるというか……すごい気になるんだけど」

「別に何も、少し眠いだけだ」

「ホント? 隠し事とかしてないよね」


 美優の一言に俺は一瞬ヒヤリとした。こいつの勘の良さは昔から変わらない。


「お前、どんだけ疑り深いんだよ。嘘ついたって何のメリットもねぇのに」


 俺はなんとか平静を取り繕う。美優は肩をすくめて「ま、そうだね」と言うと、さっと踵を返した。ふぅ、久々に緊張した。

 放課後、昇降口に向かうと萌絵が俺の下駄箱の前で立っていた。一瞬目が合ったがすぐに逸らされた。

 一緒に校門を出てから俺たちは無言で歩き続ける。この重苦しい雰囲気をどうにかしたいが言葉が出てこない。そこでふいに、萌絵が口を開いた。


「……ねぇ、お兄ちゃん」

「なんだ?」

「今日はホントにごめん」

「お前が謝る必要ねぇだろ。今回は不可抗力だ、気にすんな」

「でも……この事がバレたら、お兄ちゃんに『シスコン』のレッテル貼られるかもしれないじゃん」


 どこ心配してんだ。ほかのこと心配しろ。


「とにかく、今日の事は忘れろ。くれぐれも姉貴には悟られるなよ」

「分かった」


 まだ油断はできんが、気にし過ぎたら逆に怪しまれる。普段通りに過ごしていれば大丈夫……なはずだ。

 帰宅してから俺はすぐ部屋に入り、制服のままベッドに横になった。朝から我慢していた眠気はすでに限界を超えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ