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第二十三話 対峙 

 幼い頃の雄輝はいつも私になついて可愛いかった。小学生になるまではいつも『お姉ちゃん』と呼んでくれたのを覚えている。

 でも、萌絵が小学生になってから雄輝は私になつかなくなり、今度は萌絵が雄輝になつくようになった。

 

 雄輝は最初こそ戸惑っていたが、まんざらでもない様子だった。正直悔しかった。やっぱり妹の方が可愛いのか。

 この時からだった。雄輝を洗脳しようと思ったのは。

 頭がイカレているのは自分でも十分理解している。だけど私はどうしても理性を抑えることができなかった。

 

「……さて、今日はどうするか」


 朝の五時、私は雄輝の部屋の前でどうやって中に侵入しようか考えていた。他人の家でやったら完全に犯罪だけど、自宅なら大丈夫でしょ。多分……。

 今までは容易に入れたけど、昨日は補助鍵を設置されて侵入を防がれてしまった。おそらく今も設置しているだろう。ここが一番の難所だ。

 

 派手にドアをぶち破ってもいいが、後処理が面倒だし両親に怒られるのでそれはしない。

 一番手っ取り早いのは雄輝本人に開けてもらうことだが、そんな都合よくいくわけがない。

 そんなことを考えていると、部屋の中から何か音がした。耳を澄ますと音はどんどん大きくなっていく。これもしかして……。


「姉貴、何してんだ?」


 ドアが開き雄輝が寝惚け眼で私を見た。私は無理矢理に笑顔を作って質問の答えを考える。まさかこの時間に起きるとは思っていなかった。


「ト、トイレに行こうと思って……雄輝は?」

「俺もだ。急に(もよお)してな」

「前? 後ろ?」

「どっちでもいいわ。行くならさっさと行ってくれ」


 よしっ! これは大きなチャンスよ。このチャンスを無駄にするわけにはいかない。

 私はトイレに行って適当に時間を潰し、部屋の前に戻った。

 雄輝はその場におらずドアは閉められている。部屋にいるんだろうけど、トイレは大丈夫なのかな? まあじきに出てくるでしょ。とりあえず離れた場所から見とこ。

 

 だが、いつまで経ってもドアが開く気配がない。もうトイレに行ったのかな。でもすれちがってないし……まさか部屋の中で? いやいや、雄輝がそんなことするわけない。もしかして催してたけどおさまったとか。それなら考えられる。

 そして待つこと三分、ようやく雄輝が姿を現した。幸いこちらには気付いていない。

 私はそっと部屋に近づきドアを開け、中に入った。さすがにやらかしてはいなかったようだ。


「どこに隠れよう」

 

 一番隠れやすいのはベッドの下だけどホコリとかつきそう。かと言って悠長にしていたら雄輝が戻ってきてしまう。

 私は仕方なくベッドの下にうつ伏せになって身を隠した。若干狭いがここは我慢だ。

 


 

 用を足して部屋に戻った俺はどうやって姉貴を追い出そうか考えていた。

 ベッドの下からガサゴソと音が鳴っている。俺がトイレに行っている間に入って隠れたのだろう。

 部屋の前にいた時点ですべてを察した。また性懲りもなく俺を洗脳しようとしてるのか。もう何も言う気になれん。

 ただ、ずっとここに居られると落ち着かないので早く追い出したい。俺はベッドの前に立ち、さりげなく言った。

 

「そういや、ベッドの下長い間掃除してなかったな。結構汚れてるかも」


 完全に棒読みだったが、効果はあったようでベッドがガタン! と大きく揺れた。動揺しすぎだろ。

 

「そこ、誰かいんのか?」


 返事はない。ならばもう少し攻めるか。


「確か昨日、ベッドの下から虫が出てきたような……」


 俺がそう言ってすぐ、「嘘でしょ!?」という声とともにベッドが大きくずれ、姉貴が現れた。

 姉貴は軽く服をはたき、俺を見てぎこちなく笑って言った。


「そ、その……防災訓練してたの」

「嘘つけ」

「話変わるけど、虫が出たって本当なの?」


 思いっきり変わったな。


「さあ。それは姉貴の想像に……」

「答えなかったら押し倒す」 

「出てねぇよ」


 何だ今の声、マジで怖かったんだけど。子どもが聞いたら絶対泣くぞ。いや、それは後でいい。姉貴を追い出すのが先だ。しかし力ではどうやっても勝てない……どうする。

 俺はふと、本屋でたまたま見た『アレ』を思い出した。成功する保証はないが……試してみるか。


「姉貴、髪の毛になんかついてんぞ」

「え? どこ?」

「ここだ」 


 俺はそう言って姉貴に近づき、目の前でパンッ、と手を叩く。そして間髪(かんはつ)入れず耳元で「眠れ」と言った。

 途端、姉貴の瞼がゆっくりと閉じていき、体が前に倒れていく。俺は咄嗟に体を支えた。


「……上手くいったな」


 これは『驚愕法』と呼ばれる催眠手法で、人間は驚いた時、思考が止まって暗示を受け入れやすくなるらしい。当然だがこれは百パーセント上手くいくわけではない。

 それから俺は眠った姉貴を抱きかかえ、ようやく部屋から追い出した。

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