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第二十一話 サプライズ

 今日は土曜日、学生や社会人には嬉しい休日である。

 いつも七時に俺の部屋に来る萌絵は八時を過ぎた今もまだ来ていない。まだ寝ているのだろう。別にそれはいい。ただ……。


「姉貴、勉強中だから部屋を出てくれねぇか」


 姉貴は俺の言葉を無視して、ベッドにうつ伏せになりながら返事をした。


「別に休日だからいいじゃない。大丈夫、今日は洗脳しないから」


 くそっ、何かあったら『洗脳』で俺をビビらせてきやがる。冗談だと信じたいが、今までの行動を振り返ると多分ガチだ。より重症化したら「愛しのあなたを道連れに私も死ぬ」とか言いそう。


「いいから部屋を出てくれ。勉強に集中できない」

「休日ぐらい遊んだら? もう中間テスト終わったのに」

「そんなのは関係ない。俺は勉強が趣味みたいなもんだからな」


 姉貴は興味がなさそうに「ふ~ん」と言ってベッドから起き上がり、後ろから俺の頭を撫でてきた。

 

「何すんだよ。髪の毛せっかく整えたのに」

「いいじゃない。ちょっとはイチャイチャさせてよ」


 その声はなまめめかしいが、俺は恐怖しか感じない。

 というか、なんで俺の周りの女子はみんな積極的なのかな。周りの女子と言っても三人だけだが……。

 姉貴は撫でる仕草を止めると、突然俺の手を取り部屋から引っ張りだした。


「おい、俺をどこに連れていく気だ」

「買い物。お母さんに頼まれてこれから行こうと思ってるんだけど、雄輝に付き合ってほしいの」

「え、俺は家で勉強……」

「洗脳……」

「分かったよ。出る前にちょっと着替えさせてくれ」


 もうこの女には逆らえない。森さんが入れば少しは対抗できるかもしれんが。

 そんなことを考えつつ、俺は一旦部屋に戻って外着そとぎに着替えた。そして姉貴と一緒に家を出て近くのスーパーに向かう。

 

「で、俺は何をすればいいんだ」

「荷物持つだけでいいわ。私みたいなか弱い女子一人じゃ大変だからね」


 あんた十分強いだろ。確か俺が中学生の時、姉貴が喧嘩で父さんをボコボコにしてたのを覚えている。

 

 スーパーに入ると姉貴は真っ先に食料品売り場に行った。俺はただついていくだけだ。

 

「今日は何を買うんだ」

「まずは卵でしょ、それからニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ。あとは残ったお金で適当にお菓子とか買う予定にしてる」

「適当にって……その金父さんのだろ? 勝手に使っていいのか?」

「お父さんに訊いたら『問題ない』って言ってくれた」


 身の安全を確保したんだろうな。そうでなければ金にうるさい父さんが許すはずがない。

 スーパーを出てから姉貴は鼻歌交じりで歩いていた。結局、俺は荷物をすべて持たされる羽目になった。俺はこのまま奴隷にされるのだろうか。


「姉貴、一つぐらい持ってくれてもいいんじゃないか?」

「しょうがないなぁ、じゃあこれ」


 姉貴はそう言って俺が持っている四つの袋のうち一番軽そうな袋を取った。


「これで少しは軽くなったでしょ」


 いや、なったけどさ、もう少し気を使ってくれてもいいだろ。

 内心でそんな愚痴を言いつつ家に戻ると、玄関で萌絵が正面から抱き着いてきた。その勢いで荷物を落としそうになった。


「萌絵、離れろ。おい姉貴! 見捨てるな!」

「お兄ちゃんどこ行ってたの?」

「ん? ああ、スーパーだ。姉貴に付き合ってたんだよ」


 萌絵はポカンと口を開けたまま俺を見た。別に驚くようなことは言ってないぞ。


「つ、つつつつ付き合う? お姉ちゃんと?」


 そういう意味じゃない。ホントに姉弟で付き合ったらマジで驚きだわ。


「萌絵、なんか勘違いしてるみたいだが俺は姉貴と一緒にスーパーに行っただけだ」


 俺の一言で萌絵はホッと胸をなで下ろした。おっと忘れてた。俺は急いで手に持っていた袋の中にある食料品を冷蔵庫に入れた。

 ふと時間を確認すると正午を回っていた。腹減ってきたな。

 

「あれ? 雄輝、また出るの?」

「コンビニで昼飯買ってくる」

「買ってこなくても私が作ってあげるわよ」

「でも毎日大変だろ。夕飯もあるんだし」


 両親が居る日でも、家事は基本的に姉貴がしている。父さんも母さんも仕事が休みの日は一日中寝てるからな。

 

「簡単なものなら十分で作れるから雄輝はそこで待ってて」


 俺は姉貴の言葉に甘え、リビングの椅子に座り姉貴の手料理を待つことにした。

 それから予告通り十分で姉貴が料理を持ってきた。サンドイッチか。


「急いで作ったから形はちょっと変だけど……」


 確かにいびつな四角形にはなっているが、味が美味ければ別にいい。


「味はどう?」


 一口食べ、俺は親指を上に立てる。姉貴は両手を合わせてパァッと明るい表情になった。

 姉貴は笑顔のまま視線を俺に向けてくる。気になって食べづらかったがなんとか食べきった。


「ありがとう、美味かったよ。姉貴はいいのか?」

「うん。お腹減ってないし」

「そうか……じゃあ俺、部屋に戻るわ」

「あ、待って」


 また襲ってくるのかと警戒していると、姉貴は口角をわずかに上げて俺の頬に唇を当ててきた。一瞬思考が止まった。

 

「買い物に付き合ってくれたお礼」


 俺は突然のことに言葉が出なかった。姉貴は唇に人差し指を当てて、「この事は誰にも内緒」と言ってきた。こんなこと人にさらっと言えるかよ。

 意識が遠のきそうになりながら、俺は今度こそ自室に戻った。……やっぱ姉貴には勝てねぇわ。

 


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