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第十六話 いつもより早い朝

「あっぶねー!!」


 朝起きた俺の第一声がそれだった。

 十秒ほど前、俺が目を覚ますと制服姿の萌絵が馬乗りになっていて、いきなり俺の頬にキスをしようとしてきた。咄嗟に首を曲げて回避したが、曲げ方が悪かったのか、結構痛い。


「ちっ、外した」

「外したじゃねぇよ! お前、何しに来た」

「何しにって……おはようのチューをしにきただけだよ」


 当たり前のように言ってるが、この状況を他人が見たら、完全にイケないことやってるようにしか見えねぇぞ。

 俺は手で自分の顔をガードしながら体を起こし、萌絵を俺から引き離した。

 時間は午前五時半。まったく、こんな朝早くから勘弁してくれよ。正直まだ眠いが、俺は睡眠に時間をきたくないタチだ。このまま起きよう。

 

「萌絵、着替えるから部屋を出てくれ」

「着替え見られるの嫌なの?」

「嫌に決まってんだろ。逆に訊くけど、お前は着替えるところ見られたいか?」

「私はお兄ちゃんに見られるなら平気だよ。何なら今から脱いでもいいけど」


 やめろやめろやめろ。それは色々とマズい。

 俺は暴走しかけている萌絵を抱え上げて、部屋から追い出そうとした。そこで萌絵が言う。


「もう、お兄ちゃん、いきなりお姫様だっこだなんて大胆~」

「離すぞ」

「それはやめて。ごめん、おとなしくするから」


 だったら、最初からそうしてくれ。朝から余計な体力使わせやがって……。もうそろそろドアに鍵を付けた方がいいかもしれない。ネットで探せば、取り外しできる補助鍵も売っているだろう。

 俺は萌絵を追い出した後、制服に着替えていつもより早く勉強を始めた。

 だが、睡眠時間が短かった影響か、中々勉強に身が入らない。スマホで時間を確認すると午前六時。いつも起きている時間だ。俺は顔を洗ってリフレッシュしようと、洗面台に向かうためドアを開けた。その瞬間、何かが当たり、物が落ちる音がした。


「う~、鼻痛い」


 部屋の外で、萌絵が涙目になって両手で鼻を押さえていた。床に筆記用具とノートが落ちている。


「お前、何やってんだ」

「一緒に勉強しようと思って……いきなりドアいたから……痛い」


 説明が飛び飛びだが、言いたいことは分かった。


「少し鼻、見せてみろ」

 

 萌絵は涙目のまま手を鼻から離した。少し赤くなってはいるが……。

 

「大丈夫だな。で、一緒に勉強だって?」

「うん。起きててもやることないし、勉強だったら部屋に入ってもいいでしょ?」


 どんだけ俺の部屋に入りたいんだよ。


「別にいいけど邪魔はするなよ。あと、次に勝手に部屋入ったら二度と入れんからな」


 俺の言葉に萌絵は一瞬顔を強張らせたが、すぐに頷いた。

 部屋に入ってから萌絵はやたら上機嫌で、鼻歌を歌いながらノートを書き進めていく。

 椅子と机は萌絵に独占されてしまったので、俺は仕方なくベッドに座って教科書を黙読していた。

 それから数分、鼻歌がまったく聴こえなくなった。気になって萌絵を見ると、俺の方を向いて寝ていた。目は閉じているが、見られているような感覚に陥り集中できない。


「おい、萌絵」


 反応はない。もう一度呼んだが結果は同じだった。

 面倒だがここは強引に起こすしかない。抱え上げて部屋に戻してもいいが、妹の部屋に勝手に入るのは気が引ける。

 俺は萌絵の肩を揺すり、耳元で何度も「起きろ」と言った。が、一向に起きる気配がない。完全に熟睡している。

 

 考えた末、俺は萌絵をベッドに寝かせて起きるのを待つことにした。気にならないと言えば嘘になるが、邪魔されなければそれでいい。

 椅子に座ると生温かい。少し違和感を感じるがすぐに慣れるだろう。

 いつの間にか眠気もすっきり覚め、ようやく勉強に身が入る。さてと、どの教科からやろうか。

 

「お兄ちゃん」


 声の方を向くと萌絵が体を起こして寝ぼけまなこで俺を見ている。


「私、さっきそこに座ってたよね。なんで今はお兄ちゃんが座ってるの?」

「お前が寝ちまったからそっちに移動させたんだよ」

「え、私寝てた?」


 覚えてねぇのかよ。思いきり寝てたぞ。


「あれ、ノートと筆記用具は……」

「枕元に置いてる。それで、お前は勉強する気あるのか? ないなら出てってくれ」

「ああ! するする! ちょっと待って」


 俺は萌絵の慌てっぷりに思わず笑いそうになったが、口を引き締めなんとかこらえる。

 

「……お兄ちゃん、今笑ったでしょ」


 意外と鋭いな。こいつの洞察力は中々侮れない。

 萌絵はベッドから起き上がると、大きな欠伸をしながら俺に近づき訊いてきた。


「お兄ちゃん、椅子それしかないの?」

「一人でしか勉強しないのに、二つもあったら邪魔だろ」

「じゃあ、お兄ちゃんの上に座っていい?」

「なぜそうなる」

「だって、座るとこないし」

「ベッドに座ればいいだろ」

「ベッドは寝るとこだよ」

「……分かった。俺が立つからお前は椅子に座れ……また寝るなよ」


 俺は再びベッドに移動し、萌絵はチョコンと椅子に座った。はぁ、なんで朝から萌絵の相手をしなきゃならんのだ。

 やはり部屋に入れるべきではなかった。俺は教科書で顔を隠して深いため息をついた。


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