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第十五話 文芸部の日常

 文芸部に入部して二週間経った。部活に参加したのは今日で三回目と少ないが、間にゴールデンウイークをはさんでいたので、学校があったのは十回もない。まだ積極的な方だろう。とは言っても、ラノベやアニメの話をして終わることがほとんどだが……。

 ちなみに、文芸部の残り一人はまさかの姉貴だった。吉田先輩曰く、二年前も文芸部は人数不足で廃部の危機にあったらしい。

 そこで、吉田先輩が高木先輩を誘い、姉貴は、漫研と掛け持ちで入部して廃部を免れたそうだ。

 閑話休題、今、部室にいるのは俺、萌絵、美優の三人だけ。特に何か話すこともなく沈黙している。


「ねぇ、雄輝」

「ん?」

「私の小説……」


 美優がその先を言おうとしたところで高木先輩が入って来た。俺と美優の視線が高木先輩に向く。


「どうした。僕の顔に何かついてるか?」

「いえ、何も」


 俺が答えると高木先輩は「そうか」と言って空いている椅子に座り、鞄からノートを取り出した。かなり使い古されている。


「それで美優、さっき何を言おうとしたんだ」

「え? ああ、私の小説読んでくれない? 部誌で出す予定の作品なんだけど、率直な感想が欲しいの」


 美優はそう言って原稿を俺に渡した。結構分厚い。

 俺は一字一句読み進め内容を確認する。改行が少なすぎて読みづらいが、ここは我慢しよう。

 ジャンルは予想通りラブコメ。ただ、ヒロインが僕っというのは意外だった。斬新ではあるが、セリフだけだと、男同士が会話しているようにしか感じない。


「どう? 読んだ感想は」

「設定は悪くないと思うけど、主人公とヒロインの一人称が両方『僕』だからどっちが喋ってるかが分からん。主人公の一人称は『俺』でいいと思う。あと、登場人物の説明がないから人物像がイメージしづらい。せめて、主人公とどういう関係にあるのかを書いてくれると助かる」


 あ、ちと言い過ぎたか。俺は恐る恐る美優の顔を見る。

 うつむいてはいるものの、口元で「確かにそうかも」と言っているのが読み取れた。


「はは、関君って意外と厳しいんだね。竹内さん、よかったら僕にも見せてくれないか?」

「はい、どうぞ」


 高木先輩は美優から原稿を受け取り、ゆっくりと読み進めていく。


「確かに関君の言うことも一理あるね。でも、内容自体は悪くないから気を落とさなくてもいいと思うよ」

「ありがとうございます」


 美優は笑顔で高木先輩を見た後、冷ややかな目で俺を見た。読んでくれって言ったのはどこの誰だよ。

 

「竹内さん、関君は君の作品を批判してるわけじゃない。実際、彼の言っていることはかなり的をている。関君、君は小説をよく読むの?」

「たまに読みます。月に二、三冊程度ですけど」

「そうなんだ。よかったら関君も小説書いてみないか? 文芸部の部員は毎年、一人一作品書いて部誌に載せてるんだ」


 読むならまだしも、書くのは面倒だな。ただ「書いてみないか?」だから、強制ではない。そもそも俺は人数合わせで入っただけだし、協力する義理などないのだ。


「……考えておきます」


 俺の返事に高木先輩は苦笑いした。俺の心境を悟ったのだろう。


「まあ、気が向いた時は僕に言ってくれ。できる限りサポートするから」


 高木先輩はそう言って再びノートに目を向けた。一体何を書いているのか。ま、それはそれとして、


「吉田先輩、来る気配ないですね」

「そうだね。まあ、彼女は受験生だし勉強で忙しいんじゃないかな。部活に来なかったのは今日だけじゃないし」


 三年は大変だな。来年は俺と美優も……いや、今は考えないでおこう。すっかり忘れていたが、萌絵が部室に入ってから一言も発していない。ずっと窓から外の景色を眺めている。クラスでもあんな感じなのだろうか。などと考えていると、部室の外から足音が聞こえた。

 そして、ドアが勢いよく開かれ吉田先輩が部室に入って来た。だが、表情が優れない。


「吉田さん、来るの遅かったね。何かあったのか?」

「久しぶりに由奈と部活やろうと思って、ホームルーム終わってから誘ったんです。でも、由奈は『私はいい』の一点張りで。『今日だけでもいい』って言ったんですけど……、部活嫌なのかな」

「うーん、彼女はもともと漫研希望だったし、文芸部にはなかば強引に入部させちゃったからね。拒むのはしょうがないと思う」


 吉田先輩は腕を組んで数秒経ったのち、「ですね」と言って俺の横にある椅子に座り、訊いてきた。


「雄輝君、由奈って家に居る時何してるの?」

「専ら家事です。両親が仕事でいない事が多くて、姉貴が代わりにやってるんですよ」

「あー、だいぶ前に由奈そんなこと言ってなぁ。最終学年だし一回ぐらいは一緒に部活したかったんだけど、それならしょうがないか」


 寂しさをごまかしているのか、顔こそ笑ってはいるが、無理をしているのが素人目でも分かった。


「でも凄いよね。高校生で家事こなすなんて、ホントに尊敬する」


 尊敬ね……。俺を洗脳するなんて物騒な事さえ言わなければ、心からそう思えるんだがな。


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