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第九話 幼なじみとデート1

 ある日の休日、俺は美優と自宅の最寄り駅でデートの待ち合わせをしていた。

 誘ってきたのは美優。昨日の夜、電話でいきなり頼まれた。

 なんでも部活で執筆している恋愛小説でデートの話を書きたいのだが、どのようにストーリーを展開していこうか悩んでいるらしい。

 そんなの思いつくままに書けばいいだろと言ったら、「思いつくまま書くよりも実際に体験した方が良いアイデアが出る!」と力強く返して来た。根拠はどこにあるんだよ。

 俺はほかの奴に頼めと言ったが、美優は「雄輝じゃないとダメなの」の一点張り。休日ぐらいゆっくりさせてほしいと思ったが、特に断る理由もないので承諾した。


 待ち合わせの時間は午前十時で現在九時四十分。来るの早すぎたかな。

 俺は欠伸を噛み殺して美優が来るのを待つ。それから約十分、ようやく美優が姿を現した。


「あ、雄輝! もう来てたんだ」


 美優は白のトップスに黒のジーパンとシンプルな服装。できればスカートの方が良かったんだがまあいいか。……いや、別にやましいことは考えてないよ? 


「遅れてごめんね。どれくらい待った?」

「十分ぐらい。まあ俺が早く来過ぎただけだから気にしなくていい」

「そう? ……じゃあ気を取り直して行こっか」

「どこに?」

「公園。映画館や遊園地も考えたんだけど定番すぎるし人多いから……」


 まあ無難な選択だな。公園なら金もかかんねぇし。

 俺と美優は駅を離れ、目的の公園に向かう。

 

「今日はありがとね。私に付き合ってくれて」

「別に感謝されるほどでもねぇよ。ずっと家にいても暇だしな。それよりもお前、相当小説好きなんだな」

「そりゃ小説家目指してるからね。デビューしたらそんなに時間取れないから、今のうちにいろんなこと体験しておこうと思って」


 もう先のこと見据えてんだな。俺はまったく考えてない。


「今日は天気もいいし時間の許す限り……」


 美優はその先を言いかけて口をつぐんだ。

 

「時間の許す限り……なんだ?」

「う、ううん! なんでもない。今のは忘れて」


 余計気になるが本人がそう言うなら深入りはしないでおこう。

 そういえば、私服の美優を見るのは結構久しぶりな気がする。幼い頃はよく一緒に遊んでたけど、最近は学校でしか会ってなかったからな。改めてみると今日の美優はなんか大人っぽい。……それにしても美優の履いてるジーパン、体のラインくっきり出すぎじゃねぇか? 目のやり場に困る。

 

「美優、もっと大きいジーパンなかったのか? すごいキツそうに見えるんだけど」

「え? 別にキツくないよ。というか、これスキニーだし」


 スキニー? ジーパンと何が違うんだ。


「スキニーはざっくり説明すると、体のラインにピッタリ合ったパンツのこと。最初はデニムにしようと思ったんだけどちょっと履いてみたくなって」


 へぇ、俺は服装なんて適当だからな。さすがにアニメTシャツとかは目立って……上着羽織ればどうにでもなるか。

 


「……いやぁ、やっぱ自然はいいね。すごい落ち着く」


 公園に着くと美優は腕を広げて大きく深呼吸した。公園は広い割に人気ひとけがなく確かに落ち着く。ずっと立ってるのも疲れるので、座れる場所を探していたその時、美優が正面から俺に抱き着いてきた。くそっ、完全に油断してた。


「あ~、やっと雄輝とイチャイチャできるよ。人前じゃ恥ずかしいからね~」


 お前、学校でいつもイチャついてくるだろうが! つーか、顔に当たってる! 何かは言わんが当たってる! Tシャツだけだからいつもより感触が強い。こんなの人に見られたら絶対引かれるぞ。今は人がいないが誰かが来る前にこの状況を打破せねば。ただ相手は女子だからなるべく攻撃はしたくない。

 俺は美優の両肩を掴み、腕を真っ直ぐに伸ばして顔を胸から離した。そしてその場でしゃがみ込み、後ろに移動して美優から距離をとる。窒息するかと思った。

 

「雄輝、そんなに警戒しなくてもいいじゃん。ほら」


 美優は両手を差し出し、おいでおいでと俺を招く。普通の男子から躊躇いなく行くだろうが、俺はまた抱き着かれるのではないかと警戒心を抱いてしまう。

 初めの頃はまあ嬉しかった。美優は学校でも五本の指に入るぐらいの美少女で『学園のアイドル』と呼ぶ奴もいる。そんな子に抱き着かれるなんて滅多にない。だがそれが何度も続くと正直辛い。非リアからしたら贅沢だと思われるだろうが……。

 俺は恐る恐る美優に近づき横についた。今度は何もされなかったが油断は禁物だ。

 そんな俺を尻目に美優はきょろきょろと周りを見渡し、俺の手を引っ張りベンチまで行った。やっと座れる……。

 そしてベンチに座って俺はある事を思い出した。


「美優、なんかいいアイデアは思いついたのか?」

「え?」

「『え?』って……お前このデートの目的忘れてねぇか? 小説のストーリー展開で悩んでたんだろ? デートの話書こうとして。んで実際にデートしたらいいアイデアが出るとか言って俺を誘ったんだろ?」

「あ、ああ。そうそう」

「……もしかして単に俺とデートしたかっただけじゃないだろうな」

「そんなことないよ! 雄輝とデートしたかったのは事実だけど」

 

 そこは認めんのね。……まあ嬉しいけどさ。



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