僕らの思い出作り〜君と過ごした時間〜
クリスマスに行ったイルミネーション。それは忘れることの無い一生の思い出。
今までそばにいた大切な人が突如いなくなる。それは悲しく、辛い。最後のひとときを大切な人と過ごす。それは2人にとってかけがえのない思い出になるだろう。
高校2年生の俺春希と彼女の希望
1年生の時から付き合っていて、冬になるとイルミネーションに行っていた。今年もそのイルミネーションに行く。それは俺の中でも1、2を争う程の1年の中で楽しみな日なのかも。
クリスマスが近づくにつれ、希望のテンションは上がっていくばかりだ。時には電話もしてくるほどに。
「もしもし、春希?今暇かな?」
「暇だけど、希望はなんでそんなにテンションが高いんだ...笑」
「当たり前でしょ?もうすぐクリスマス!クリスマスといったら2人でイルミネーション見に行くんだから!」
楽しみなのだが、まだテンションを上げるのには早い気が...とそんな気もするがあまり触れないでおこう。
「ま、まぁそうだな笑」 思わず失笑してしまった俺に希望は気にもとめることなく
「そうそう!じゃあまたクリスマスの日に!じゃあね!」 希望はたまに強引なところがある。でもそれが希望のことを好きな理由の一つでもある。
しかし俺の心の中で今年のクリスマスが忘れられない理由。
それは希望の最大の秘密を知ったからなのだろう。
クリスマス当日、人混みをかき分けるように現れた希望。その姿はまるで天使のようだった。
「か、かわいい...」 多くの声が響き渡る中、誰にも聞こえない中でそんな言葉が思わず出てしまった。
「ごめん、待った?」 「ううん、全然。」
そんな他愛もない会話を交わした。
「じゃあ、行こうか。」と優しく希望に問う。
互いの距離、そして手が徐々に近くなる。
「な、なんか恥ずかしいな。」 「なんで恥ずかしいのよ。去年もこんな感じだったじゃん!」
こんな俺よりも希望の方が何倍もたくましく、頼れる人なんだってこの時改めて実感した。 いや、男が女にリードされてどうする。こんな情けない自分が嫌いだ。こんな俺を希望はどう思っているのか気になって仕方ない。と、そんな悩み事をしていると前の方から見覚えのある姿が。同じ高校の瞬と千里がいた。 「よう!お前らもやっぱりカップルで来たのか!」 「カップルっていう言い方、やめろ。」 そんな愛想ないことを口に出した。「俺たちは今日2人でイルミネーション来たんだから。」 「ったく、お前たちが羨ましいよ。そんなに仲良くて。」 「これが普通だと思うんけど、周りから見るとそんな風に見えるのか。」
「別に深い意味は無いからさ。」 と簡単な言葉を交わし、2人にサヨナラをした。
イルミネーションも終盤にさしかかった時に突然、希望が俺に「ちょっと...いいかな?」
と言ってきた。
そこは辺りを一望できる絶景のスポットだった。「急に呼び止めてごめんね。今しか伝えるチャンスがないと思って。」俺は希望の目を見た。決してこれはふざけている訳では無い。希望の目はとても真剣だった。
「春希にずっと隠していたことがある。実は...
私はもうこの世界にはいないの。」
「...え?」 あまりの報告に声が出なかった。
「ど、どういうこと...なの...?」俺は戸惑いを隠せなかった。どういうことなんだ。希望はもうこの世界に存在していないって。
「私は先月11月15日に交通事故で亡くなったの。だから今、春希が見ているのは、幻覚なの。」 「幻覚...」
「他のクラスメイトやさっき会った瞬たちが見ていたのも全部幻覚であって、私の意志で見えているようなものなの。
「じ、じゃあ、見える人と見えない人がいるってこと...? そんなの嘘だ!だってさっき俺は希望の体にだって触れた!」 「それも、私の意志だよ。 伝えるのが遅くなってごめん。どうしても2人でイルミネーション見に行きたかったの。だから今まで伝えられなかった。みんなにも、先生にも、春希にだって。私のことはもう、見えなくなる。」
「希望、待って。 まだ俺は希望のことがはっきり見える。もし...もしもこの場所で消えてしまうのなら、最後にしたいことが...」
俺は希望の手をしっかりと掴み、涙がこぼれそうになった。悲しみをぐっとこらえて、優しく希望の唇にキスをした。 こんな感情初めてだ。二度と忘れることの無い。希望の優しく柔らかい唇。「ほんとに、これで終わり...なの...?」 「私だって...時間を巻き戻せるのなら、死んだことなんてなかったことにしたい!!」 希望のその言葉は今まで感じることが出来なかったほどの強い圧力が感じられた。 「私だって、自分を悔やんでる。悔やんでも悔やみきれない!!でも、もうお別れなんだ...この世界と...春希と」 希望はいつにも増して真剣だった。 「俺だって、何もしてあげることが出来なくてほんとにごめん...もっと、希望のそばにいたかった...もっとたくさん希望と一緒に過ごしたかった...後悔しないくらいに...」
「真実を知ってしまった...だからお別れなんだ...」
希望の体は今にも消えそうなくらい、優しい光に包まれた。「希望!!絶対に忘れないで!
2人ですごした思い出を!!天国に行っても、俺の人生、ちゃんと見ていてね...笑」
「もちろん、ずーっと春希を見ているよ!」私の事、絶対に忘れないでね...!」
希望の最後の言葉だった。忘れるもんか。2人で作った...最高の思い出を。
そう心の中で誓った。希望は優しい微笑みでイルミネーションの光の中へと消えてった。気づけば辺りには俺一人だった。しばらくの間、俺はその場を立ち上がることが出来なかった。
複雑な心境で年が明けた。もしもあの時に知った秘密を知らなかったらまだ希望はこの世界にいたのだろうか。希望のことばかり考えていて、新年のことなど、どうでも良かった。
新年にもかかわらず、俺は初詣に行っていないし、幸先悪いスタートだ。
と、その時無言の部屋に響き渡る家のチャイムが。
玄関を開けるとそこには希望の家族がいた。
「あけましておめでとう。春希くん。」
「あけましておめでとうございます。どうしたんですか?」
「希望は春希君に秘密を伝えたんだよね。イルミネーションに行く前に私たちに報告をしてきたの。」 「そ、そうなんですか。」
「伝えに来たのはそれだけじゃないの。希望が、「私がこの世界からいなくなったとき、春希にこれを渡してほしいの。」「そう希望に伝えられてね。家に帰ってからじっくり見てほしいの。」 「分かりました。ありがとうございます。」 希望から俺に渡したいもの...
自分の部屋に入り、袋の中から取り出した。そこに入っていたのは一通の手紙とアルバムが入っていた。 表紙には「春希と希望の思い出」そう書かれてあった。めくると、そこには希望との思い出の写真が何枚も。めくる度に出てくるものは涙だった。
そしてもう1つの手紙。そこに書いてあったこと。
「大好きな春希へ。
この手紙を春希が読んでいるということは、私はもうこの世にはいないでしょう。私はもっとたくさんの思い出を春希と一緒に作りたかった。でもごめんね。謝りたいことだらけだよ... 私、カップルって言うのに憧れていて春希と一緒になれたって言うのがとても嬉しかったの!同じ漢字もあるからある意味運命なのかもって自分で感じたりもしてた笑
短い間だったけどたくさん笑って泣いて楽しかった。私はずっと春希を見ているからね。どんな事があっても春希なら必ず乗り越えれる。そう私は信じているからね。
希望より。」
希望の手紙に涙が止まらない。と、その中から1つの写真が。それは、イルミネーションの時に2人で撮った最後の写真。裏には小さく、「一番の思い出!」そう書かれてあった。
希望からのプレゼント。こんなにも胸が締め付けられたこと、今まであっただろうか。
その日、俺は1歩も家から出ることなく、2人での思い出をただただ見ていた。
3学期初日。クラスの中からはあけましておめでとうの声があちらこちらに響き渡ってる。
希望が居ないことは、先生も生徒までも、触れることは無かった。記憶が無くなったのかと不安にもなったが希望の意思でみんなの頭から希望が消えたという風にも捉えれる。そんな気がした。
「ありがとう。希望。また、思い出作りたいな。」そんな独り言をつぶやき、空を見上げた。空には、雲ひとつない晴天。
希望がいない無人の席に向かい、優しく微笑んだ。
外ではもう少しで咲きそうな桜の花が。
桜の花が咲いた時、僕らの思い出作りは始まった。 2018.4.15~2019.1.15
~END~