第八十七話 「風俗」
第八十六話とあまり時間の変化はありません。
また、再登場するシアに関しては『閑話 ヴァイルの街の奇跡』参照です。
〜魔獣共存派領・ヴェグノの街〜
ヴェグノは学校があることで有名だ。
武術養成学校、魔術養成学校、戦闘技術養成学校の三種類が一つの街に集まっており、そのため街自体もかなり大きなものとなっている。
そしてどの学校も留年しない限り二年で全ての教育が終わり、武術では武術養成学校が一番。
魔法では魔術養成学校が一番となり、戦闘技術養成学校はどちらも総合的に習得できる。
その三つの学校の内、戦闘技術養成学校に今章の主役となるシエラ…………の友達のシアが通っていた。
「うー……寒いぃ…。」
はー、と吐息で手を暖め、擦って熱を作り出そうとする。
ヴァイルの街にいたときよりも随分成長したように見えるシアは学校への道を歩く。
学校に通い始めてもうすぐ一年が経とうとしており、季節は冬の終わり頃。
使い慣れ、自分の身体の一部にも等しくなったミドルソードを腰に下げ、魔法発動の補助をしてくれる指輪を嵌めている。
筋肉もそれなりに付いていながらも女性らしい身体になり始め、スラッとしている。
こうなったのはヴァイルが襲撃されたときに助けてくれた魔族の冒険者……そう、今シアの目線の先で風俗嬢に誘われて風俗店に入ろうとしている男のせい…否、おかげだった。
「ち、ちょっとクディ!?」
シアがクディと呼んだ男の名前はクドムヒース。クディと言うのは愛称だ。
「あらら〜見つかってしまいましたか!」
よしよし、作戦は順調。
このままシアに風俗店に興味を持たせ、性に目覚めさせるのだ!
そのためなら推しのメメたんに少しくらい会えなくても構わない!
言葉の影でこの男はとてもまともとは思えない思考をしていた。が、そんなことはおくびにも出していないつもりで演技を続ける。
「ん〜、シアたんはこんなお店、まだ駄目だよ?ほらほら、ここは大人のお店だからね、それより早く学校へ行かないと。」
あぁ、またでた…クディの悪い癖だ……。
こんなお店全然キョーミ無いのになぁ…。
チラと店の方に視線をやると、露出の多い格好で朝からお酒を飲み交わす大人の姿が目に入る。
んー、ちょっと楽しそう…なのかな?
…あ!いやいや、ぜんぜんキョーミ無いし。うん。
と心の中で一人二役の小劇をしていると学校から登校時刻十分前の鐘が聞こえてくる。
「あっ!いけない、もう行かなきゃ!じゃあねクディ。そーゆーお店はほどほどにしてよ!」
タタタと走り去るシアを見つつ、クドムヒースは思考を続ける。
うん、作戦は上々。
店内に視線をやっているのも見えたし少なくとも性に対する意識は芽生えているだろう。うん、うん。
「なに?あの子。娘?」
「いや、前に森で拾ってね。戦争孤児なんだよ。だから、僕にパートナーなんていないよメメたん。」
「なんだぁ、よかった〜!さ、中に入りましょ!」
「そうだね。」
二人は風俗店に入っていった。




