第七十九話 アッケス火山
レートに依頼を受けてから二日後、装備を整えた俺はアッケス火山へと来ていた。
先日フォーと訪れたときは全体の四分の一辺りまでしか登らなかったが、今日はその火口まで行くつもりだ。
なにせ、フェニックスがどこにいるかわからないからな。
今は火山の半分辺りまで登ったが、ここまで来るとゴツゴツとした岩ばかりとなり、時折地面に空いた穴の奥にもうもうと熱気を放つ赤い溶岩が見えたりもする。
中に落ちても死にはしないだろうが、かなり危険だ。
そして相変わらずノツワ鳥はそこら中にいた。
ここらには餌もないだろうに。
と思ってみていると、なにやらノツワ鳥たちの挙動がおかしいことに気が付いた。
なんと一匹残らず火口の方を向き、グェェ……と低く不気味な声を上げている。
通常のノツワ鳥はもっと高い鳴き声のはずなのだが、おかしいな。
チラリとノツワ鳥たちの視線の方向を見るが、そこにはいつもの煙をあげたアッケス火山があるだけだった。
「……行ってみるか。」
呟き、火口に向かって進路を変更した。
確か、フェニックスはノツワ鳥の進化したものだったはずだ。
このノツワ鳥たちはフェニックスの存在を感知してこんな行動を取っているのかもしれないしな。
思いつつ、地道に歩いていくのはちょっと面倒くさいので人化を解き、空を飛んで火口へと向かう。
火口へは数分程度で到着し、少し窪んだ火口のへりに降り立った。
火口の中はやはり岩だらけであったが、中心からは遠くからも見える煙があがり、その下には熱く煮えたぎるマグマが顔を覗かせている。
ドラゴン状態の大質量ではへりが崩れて足を滑らせかねないので、再び人化する。
「あっちいな。」
マグマのせいか、地面の岩や周囲の空気が熱くなっている。
上着を一枚脱ぎ、フォーから借りてきたマジックバッグに押し込む。
それから水を取り出して一気に飲み干した。
「こんな時に(氷鎧)があればなぁ。」
(氷鎧)を発動させていれば、多少は暑さが緩和されたかも知れなかったのに。
そう思うが、さっさとフェニックスを見つけてしまおうとへりを反時計回りにあるき出す。
火口の中には居なかったので、麓の方を見下ろしながらだ。
真後ろには村が見えており、目のいい俺には建設作業の様子がかろうじて見ることができた。
「……いない、か。」
一周し終え、火山全体を見回ったのだが、フェニックスの姿は何処にも見ることができなかった。
…今日は帰るか。
そう思い、村の方向に歩き出す……が、背後の火口から聞こえた爆音に直ぐに足を止める事となった。
「クェェェェェェッ!!」
弾かれたように振り返ると、火口の真上に二羽のフェニックスが前後に重なるようにして浮かんでいた。
燃え盛る金色の羽毛に紅のオーラ。
村長から聞いていた特徴そのままだ。
ただ一つ違う特徴としては、凶暴そうなところだ。
話では、村民が触れ合えるほど接近し、目を合わせて会話ができるほど、穏やかで温厚な性格だったのだが………。
まぁ、その前に会話が出来るということに驚きなのだが。
恐らく今鳴き声をあげたのが俺から見て手前にいる雄のフェニックスだ。思いっきり俺を威嚇している。
そして後ろで様子を見ているのは恐らく雌だ。
腹が膨らんでいるところを見ると、恐らく身籠っているのだろう。フェニックスは鳥にしては珍しい胎生だからな。
「クェアアアアアアアアアッ!」
先程とは違う鳴き声を見せると、同時にその口から青い炎のブレスを吐いた。
タンッと軽い足音で跳んで避けるが、フェニックスは首を動かして追尾してくる。
チッと舌打ちし、被弾覚悟で前に出た。
ブレスは俺の体を包み込んだが、この篭手のおかげか予想寄り熱くなかった。
フェニックスも効果が薄いと理解したのかブレスをやめ、二枚の翼をはためかせた。
なんだ?と身構えていると、羽毛と羽毛の間に細かい風の刃が視認出来た。恐らくアレを飛ばしてくるのだろう。
先手必勝とばかりに再び前に飛び出し、接近を図る。
フェニックスは予想通り無数の風の刃を射出した。
かなり広い範囲攻撃でもはや避けることは不可能だった。
頭・首・心臓など致命傷になりかねない部位への被弾だけは防ぎ、再び火口のへりまで登った。
足に力を込め、飛び上がる。
「グェッ…!」
その勢いのまま首根っこを引っ掴んで地面に叩き落とし、
「なぜ凶暴化する!」
と問う。が、
「黙レ!!!」
と返され、爆風で押し戻されてしまった。
「その雌が関係してるのか!身籠っているのだろう?」
「オ前ニハ関係ナイ!立チ去レ!!」
うーん…これは一度、叩きのめす必要があるな。




