第七十二話 「決断」
「この度は本当にありがとうございました…。」
数十人の人々が大量の死体を背景に一斉に俺達三人に頭を下げる。
俺は礼を言われることはあまりして来なかったので、こんな経験は初めてだ。
「いえ、私達と同じ思想の大事な仲間ですから。」
返しは…こんなんでいいのか?
「本当にありがとうございます…。ささ、こんな死臭のする所ではなんですし、どうぞ中へお入り下さい。」
この集団のリーダー的な人が俺達を結界内に招き入れる。
「ありがとうございます。
あっ…私、この村の村長をやっておりますドウノと申すものです。」
ドウノに案内されて入ると、中はザ・村といった感じで、貧困そうでは無いが外との交流を断っているせいか発展が進んでいない。
街などではレンガや石、場所によっては金属が使われているのだが、ここではほとんどの建物が全て木でできている。
だが、それもまたいいな。
「もう夜になりますし、今夜は満月ですので泊まっていくことをオススメしますが…?」
満月…か。確か、月が出ると魔物の活動が鈍くなるんだったよな。
まぁ、あまり関係ないな。泊まっていこう。
「お願いします。二人もそれでいい?」
「「うん。」」
よし、屋根のあるところで寝るのは一週間ぶりだな。
はは、まさか南大陸に仲間が居るとは思わなかった。
来て良かったかもな。
「ここは私の家ですが、この村で一番上等です。
ここでよろしいでしょうか。」
そう言って、ドウノがこの村で唯一石で作られた家を指す。
俺達からしたら家というだけで上等だからな。
最悪、雨風のしのげる結界内での野宿でも…と覚悟していたんだが…杞憂すぎたな。
「全然大丈夫ですよ。野宿じゃないだけで十分ですから。」
「ほんっと、俺達野宿ばっかりだもんな!」
「え、そうだったの。」
ディモとリゲルの会話を尻目に俺は話を続ける。
「さ、中へどうぞ。」
「お邪魔します。…あの、敬語をやめてほしいんですが…。」
敬語を使われるとなんだかむず痒いんだよな。
「おっ、そうかい姉ちゃん。俺も慣れない敬語は嫌だったんだよ。助かるね!」
…こんなに切り替えの早い人は初めて見たよ。
「ほら、この部屋で待っててくれ!すぐ布団と飯を持ってくんからな!」
ドウノは乱雑にドアを開け、俺達を中に入れた。
…さ、さっきまでのドウノはどこに……!
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「父さんが、ごめんな。いつもあんななんだ。」
「そ、そう…。それより、リゲルって村長の息子だったのね。」
「ま、まぁ。一応。」
「ん…すごい。」
はぁ…。なんか凄い濃い一日だったな。
「また、引っ越しかぁ…。」
リゲルがボヤく。
恐らく、人間どもに居場所がバレたからだろう。
それに「また」ということはつい最近に引っ越したばかりなのだろうな。一年前か、二年前か、はたまたもっと前か。
「引っ越し?なんで?」
「ん…ディモはバカ。」
ディモはたまにいい事言うんだが…基本的に馬鹿なんだよな。
「僕達の居場所が人間達にバレたからだよ。今回はなんとか凌ぐことができたけど、次またいつ来るかわからないし、今度こそはやられちゃうかもしれない。
だから、多分明日にでも引っ越しをすると思うよ。」
「そうなのか…。じゃあ俺達も手伝おうぜ!」
「元からそのつもりだよ。」
「…私も。」
「ってことは、僕達と一緒に過ごすの?」
………どうしてそうなった?
まぁ、引っ越し後も村の中に居させてもらうのも手だし、俺達にも向こうにもメリットが大きいだろう。
いや、この際どうでもいいか。
屋根と壁と暖かい人たちに囲まれて過ごせるんだ。嬉しいことじゃないか。
よし、俺は決めたぞ。この村に住む。そして、北大陸の結界が無くなる頃にはみんなを連れて行こう。
多少の抵抗はあるかも知れないが、即殺すとはならないはずだ。
「住もう。」
「っ!?本当に?ミア姉ちゃん。」
「あぁ、屋根があって温かいご飯も食べられるんだ。これ以上ないだろう?その分の働きはするつもりだがな。」
「じゃあ、その旨を父さんに伝えてくるよ。ほら、夜も更けてくるからもう寝て。おやすみ。」
「おやすみ。」
いい人で良かったな…。




