第六話 「信じたのに」
本日3本目です。多分、今日はもうないです。
俺は、さっきまで向かっていた方向と逆の方向に逃げるように飛んでいる。何かを振り切るように、一直線に。
腹が減れば、森に降りて弱そうな獣を狩り、夜が来れば下に降りて寝る。
朝が来たらまた飛ぶ。
その繰り返しだ。もう5回ほど夜が過ぎた。
街も4つ飛び越えた。
そして今、5つ目の街が見えてきた。まだ昼だ。アプローチを仕掛けてみてもいいのではないだろうか。
今度は、悪い印象を与えないように、できるだけ穏やかに行こう。
ちょうど、街に近づいていく冒険者らしき旅人がいたので、目の前に小石を投げる。
コツッ…コトコト……
「なんだ?…誰かいるのか?」
よし!気付いてくれた!
「あぁ、いる。助けてほしい。
あ、いや、盗賊ではない。安心してくれ。」
旅人は半歩後ろに下がり、話を続けた。
「なんだ?」
「よかった、えっと、街に入りたいんだ。」
「入ればいいじゃないか。」
「いや、その、な。俺の姿が問題で…。」
「サリル病か?だったら入れてもらえんぞ?感染するからな。」
「いや、ちがう。違うんだ。姿を見せる。でも、危険はないんだ。安心してほしい。」
本当にこのまま姿を見せてもいいのだろうか。もし、この男が強ければ、俺は殺されるのではないだろうか。
そんな不安を抱きつつ、前に出て、透明化を解く。
黒と緑の体が段々と現れる。旅人はかなり驚いているようだが、理性はあるようだ。
「そういう訳か。お前、この前まで聖国にいたんだろ?んで、そこで迫害されたんだろ?
安心しろ。ここはそんな事はない。会話のできる者なら街に入れる国だ。特定の種族を除いて、な。」
そうなのか、ここは違うんだな。もう、恐れられることは無いんだ。友好的な関係を築こう。
「そうだったのか、ありがとう、教えてくれて。」
「まぁ、その姿じゃ驚かれるだろうから、とりあえず俺が領主に話しつけてきてやるよ。知り合いなんだ。」
ありがたい。
「ありがとう…。礼は出来ることならなんでもする。」
「あぁ、考えとくよ。それじゃ、ここで待ってろ。」
そう言い残し、旅人は去っていった。
透明化を再発動する。
俺のやることは、旅人を信じてここでただ待つことだ。
それにしても、ちゃんと話のわかる人間もいるんだな。
一部の人間しか見ないで全ての人間を知ったふうになっていた。
やはり、決めつけるのは良くないな。
日が落ちてきた頃、俺はうたた寝をしていたが、数人の足音を聞いて目が覚めた。
「よぅ、待たせたな。
こいつが、マクレン領、領主のマ・マ・マだ。変な名前だろ?」
本当に変な名前だな。この世界では、これが普通なのか?
「おい、アレク。あだ名で紹介するな。
マ・マ・マというのは、こいつが勝手につけたあだ名だ。気にしないで欲しい。本当の名前はマックス・マーテス・マクレンだ。マクレン領の領主をしている。
ドラゴン種は初めて見るが、会話ができるなら大歓迎だ。よろしく頼む。」
まぁ、そんな変な名前な訳がないか。
「歓迎ありがとうございます。私は…すみません、名前は無いです。適当に呼んでください。」
「あぁ、わかった。じゃあ、自己紹介も済んだことだし街に行こう。日が暮れちまう。」
「「わかった。」」
しばらく歩くと、二人が急に止まった。
「どうした?」
聞くと、二人が俺の後ろに回り、俺を前に突き飛ばした。
体制を立て直そうとすると、地面が崩れ、穴が空いた。俺はそこに落ちてしまった。
「エレクトリックバインド!」
「アースバインド!」
体に電気と土の縄が巻き付く。そして、穴の周りを大勢の騎士が囲む。
「いやー、よく騙せたな。」
「いやいや、こいつが馬鹿だったからでしょ。」
「そうか?まぁ、話はあとにしよう。こいつを殺してからだ。」
「売ったらいくらになるかな?
さて、魔法部隊、撃て!!」
……そうか、裏切られたのか。
心が真っ黒に染まっていく。怒りに支配される。
「「「「「「ファイアーランス!」」」」」」
近くの茂みから現れた人間共から炎の槍が大量に降ってくる。
ドドドドドドドドドッ!!!
「追撃、放て!!」
「「「「「「アイスランス!」」」」」」
ドドドドドドドドドッ!!!
熱せられた鱗が急に冷やされ、パキパキと割れていく。魔法には耐性があるが、熱などには無いのだろう。
しかし、痛みなどない。
なぜなら、今はバーサーク状態だから。
「グオォオォォォォ!!!」
バインドを引きちぎりながら穴から転移で上まで上がり、力いっぱいに叫ぶ。
視界が赤い。が、気にしない。
騎士達の顔が恐怖にゆがむ。が、気にしない。
魔法が大量に飛んでくる。が、気にしない。
剣を構えた騎士達が突撃してくる。が、気にしない。
怒りに任せ、力の限り暴れる。俺の尻尾のひとふりで二人の騎士が吹っ飛ぶ。
しかし、そのすきに三人の騎士が俺に剣を突き立てる。
俺の前足のひとふりで三人の騎士が吹っ飛ぶ。
しかし、そのすきに四人の騎士が俺に剣を突き立てる。
俺が行動するたびに俺だけが傷ついていく。
騎士達は誰も傷つかないし、だれも死なない。
なぜなら騎士達には回復術士がいるから。
そいつがいる限り無限に立ち上がってくる。
ジリ貧だ。もう俺の体力もない。
俺は最後の理性を振り絞り、バーサーク状態を解いた。
そして、残り少ない力を振り絞り、後ろに100m転移した。
またすぐに転移。10回ほど転移し、草原についたところで気力と魔力が尽きた。
洞窟があったのでそこに入り、倒れるように眠った。
『称号(裏切られし者)を獲得しました。』
『称号(逃走者)を獲得しました。』
『特定の称号を獲得したため、レベルが上昇しました。』
という声は、俺には聞こえていなかった。
第一章はこれで終わりです。
第二章では、子供ができます。