第六十四話 「火葬」
「……あった。」
スタージェだ。
砲弾による爆発で身体の半分近くが失われているが、この素晴らしく鍛え上げられた筋肉は紛れもなくスタージェだ。
その周りの土にはどす黒く変色した血が染み込んでおり、血の流れ出てしまったスタージェは白く冷たくなっていた。
「スタージェ………ありがとう。」
お礼を言い、手を合わせる。
それから近くの地面をフォーとディモにも手伝ってもらって深く掘る。
火葬するために枯れ葉や折れた枝など燃えやすいものを積み、フォーが火の魔法を使えるので着火。
燃え広がり、ボロボロのスタージェに火が到達する。
しばらくの間、三人で手を合わせて祈る。
数分して周囲の空気が熱くなってきたので少し離れ、三人で丸く座る。
後で気づいたのだが、どうやらこの世界にも手を合わせて祈るという文化があるらしい。
「ミア姉ちゃん、あの人は誰だったの?」
もうその呼び名でいいや。
「スタージェっていう名前のエルフ族の人なんだけど、まぁ、一言で言うなら筋肉の権化かな。
師匠がいるみたいだから、一番では無いんだろうけどそれは素晴らしい筋肉の持ち主だったよ。
ヴィルロの街のジムで働いてて、よくお世話になったんだ。
最近はプライベートでも良く会ったよ。」
「…恋人?」
「いやいや、そんなんじゃないよ。
ただ、普通にいただけ。
それにあの人は筋肉だから。」
なんか自分でも言ってることがよく分からなくなってきたが、恋人では断じてない。
そもそも論だが、俺のハートは男なのだから。
「筋肉…フォーも欲しい。」
フォボスは力こぶしをつくる……いや、作ろうとしたが、ほんの少しも盛り上がらなかった。
「じゃあ一緒に鍛えるか?
スタージェから教わった特別な筋トレを知ってるから。」
「……やりたい。」
「俺もやりたい!」
ディモまでか。まぁいいだろう。
三人で仲良くやるかな。
「ま、後でな。
それより、燃え尽きるまで仲を深めないか?
これからしばらく一緒にいるんだし。」
「じゃあ俺から!
俺の名前はディモス!
剣を使うんだ!
あと…あと…動くことが好きだ!以上!」
やっぱりディモは元気がいいな。
それに対してフォーは無口気味だが…きっとそれで相性がいいんだろうな。双子だし。
「……フォボス。
(火魔法)使う。
………筋肉欲しい。」
な!き、極魔法!!
く…またしても…!
「俺はミア!なんとでも呼んでくれ。
徒手空拳で戦うぞ。
再生能力が高いから、腕の一本や二本は無くなっても気にしないでくれ。すぐに生えるから。
魔法は(人化)と(氷鎧)と(雷咆)だ。
あと…ディモ。極魔法の使えない者同士、仲良くやろうな。
質問は何でも受け付けるぞ!」
「再生…あ、ミア姉ちゃん、ドラゴンだからか。
それと…ミア姉ちゃん、ごめん。
俺、(雷魔法)使えるんだ。言い忘れてた。」
なっ!!?
う、嘘だろ…?
がっくりと膝をつき、うなだれる。
きっと今の俺は傍から見ると灰のように白くなっているだろう。
「あ、質問。ミア姉ちゃんはなんでそんな男っぽい喋り方なの?」
………あっ。意識して…なかった。
誤魔化すしかないか。
「あ〜…いや、まぁ…俺ドラゴンだから。
そういうの関係ないっていうか?
うん、ドラゴンはみんなこんな口調だから。」
嘘をついてしまった。
そうそう魔獣のドラゴンに会う機会は無いだろうから、大丈夫だろう。
「……はじめて知った。」
「そうだったのか!正直今まで違和感しか無かったんだよな!」
「うん。」
なんとかなったか。あぶねぇ。
「…でも、この前読んだ絵本の雌のドラゴン、女口調だった。」
マジかよ。
「そ、それは絵本だからじゃないかな、うん。」
「そっか。」
絵本……か。
やっぱり、まだそんな年なんだな。
そんな年だからこそ、二人の前では俺が弱音を吐くことはできないな。
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日も傾き、スタージェが燃え尽きた。
心に穴の空いたような感覚に襲われるが、表面では取り繕う。
灰をかき分け、手頃な骨を一つ手に取る。
細かな灰を払い、両手で握りしめて誓う。
──人間共を叩きのめしてやる。
──つけあがった人間どもに、俺達の底力を思い知らせてやる。
まずは勇者を殺してやる。
勇者ということはそれなりの立場があるはずだ。
それに、勇者が死ねば士気にも関わるだろう。
やる価値は大アリだ。
まだ熱の残る骨をポケットに入れ、今夜の寝床を探しに歩き出す。
フォーとディモが少し眠そうにしているので、早めに見つけよう。
…そういえば、こうやって野宿の場所を探すのも久しぶりだな。
次の投稿は弥明後日の夜の九時です。




