第五話 「共通の敵」
今日は暇だったので、二本目を投稿します。
今は夜だ。
そして俺は今、空を飛んでいる。
喉の乾きも収まり、腹も満たされた。
それに進化前はほとんど動かせなかった翼も、自在に動くようになった。
進化後に体が軽く感じたのも、より飛びやすくするためなのだろう。
眼下には森が広がっている。
しかし、その森もあと数kmで終わりそうだ。
そして、森が終わったあとには踏みならされた道が俺から見て左右に伸びている。
人間の街に行ってみたいと思っていたので、ちょうどよかった。
さっき、右から左に馬車が走っていったので、少なくともおそらく左には街があるのだろう。
夜に出掛けるということはあまりないだろうしな。
街道が近付いてきたので、進行方向を左にずらしていく。
街道を少し逸れたところを街道と平行に飛んでいく。
ずっとそうだったのだが、自分の力と翼で飛んでいるということに感動をしている。
もう一時間程飛んでいるのに、まだその興奮が冷めやらない。
…と、一人で興奮していると、馬車が盗賊がなにかに襲われているのが見えた。
さっき通っていった馬車だ。
これがテンプレってやつだなと思いながら、助けてやれば友好的になるだろうかと打算的な事も考えつつ、現場に向かって行く。
真上についたので、盗賊に向かって急降下。
一気に二人を押しつぶした。
その二人と戦っていた騎士らしき者は、盗賊が勝手に潰れたので驚いている。
しっかりとスキルが仕事をしているので俺が見えていないのだろう。
驚きから少し硬直している。…が、すぐに近くの騎士の援護に入った。
俺はその反対の方向の盗賊にタックルを仕掛ける。
またしても盗賊が勝手に死んでいったので、流石に俺の存在に気づいたようだ。
「おい!何がいるぞ!多分インビジブルバードだ!」
騎士達の隊長格が叫ぶ。
続いて、盗賊の親玉らしき者も叫びだした。
「おい騎士共!一時休戦しよう!このままじゃ悪魔にやられて全滅だ!いいな!野郎ども!」
「わかった!ただしこれが終わったら再戦だからな!」
ちょっとまずい雰囲気だ。挽回できるか?
とりあえず、盗賊だけを殺していこう。
盗賊と騎士が一斉に向かってくる。
騎士はできるだけ優しく跳ね飛ばし、盗賊は潰していく。
所々に傷がついていくが、気にしない。
…と、後ろから魔法が飛んできた。
火…水…土…いろいろあるが、耐性があるのであたっても無視する。
耐性のおかげか、ほとんどダメージをくらわない。
数十分ほど戦闘したところで、盗賊は全滅した。騎士はやむを得ず、一人殺してしまったが、仕方がないだろう。
少し離れ、透明化を解く。
「お、終わった…。インビジブルバードではなかった…」
「最悪だ…」
「なんでこんなところに」
色々と言われているが、とりあえず友好的に歩み寄ってみようと思う。
が、遮られた。
「うろたえるな!ヴィロ!街へこのことを伝えにいけ!私達はここで死兵となる!行け!」
騎士がヴィロと言われた者以外全員構えた。
向かってくる前に、話しかける。
「お、おい、ちょっと待ってくれ。俺は敵じゃない。」
「喋りやがった…ユニークモンスターだ!気を引き締めてかかれ!突撃ぃ!」
話を聞いてくれない。仕方がないので、骨折くらいは許してもらおう。
隊長格にだけ気をつければ、残りの攻撃はそんなに痛くない。かといってダメージが無いわけではないのだが、無視できる範囲だ。
また数十分戦闘をし、俺の息も切れてきたところで最後の騎士が倒れた。
「もう…十分だ………。ヴィロも街についただろう。ここで無様に殺されるくらいなら、自害して果てよう。」
「「「「「はっ!」」」」」
な!?まずい!
「まて!殺すつもりは…!」
しかし、間に合わなかった。
「ぐっ!」
次々に自害していってしまう騎士たちを見ながら、俺の心になにか黒いものが生まれたような気がした。
それを押し留めながら、せめて供養してやろうと思い、土に埋める。
装備は取り外せなかった。
『称号(悪魔)を獲得しました。』
『称号(殺人鬼)を獲得しました。』
『特定の称号を得たため、レベルが上がりました。』
「……こんなもの。なんで…」
そこまで言いかけ、これ以上言うと自分が自分じゃなくなるような気がして、言うのをやめた。
ステータス。
種族名 リトルインビジブルドラゴン(進化1、派生1) レベル17/30
名前 無し
所持スキル(6/7)
・短距離転移1段 ・魔力回復速度上昇 ・鑑定(自身のみ)・殺人 ・カーチル言語 ・透明化
所持称号
・竜族 ・食人者 ・蛮勇 ・悪魔 ・殺人鬼
称号(悪魔)
人々に悪魔と言われ、恐れられたものに与えられる称号。
人間に嫌われやすくなり、同じ称号を持つものには好かれやすくなる。
称号(殺人鬼)
大義なしに一定の人数を殺したものに与えられる称号。
人間を殺すときのみ、プラス補正がかかる。
称号(悪魔)を持つやつなんて、ろくなやつじゃないだろ。そんなやつに好かれたって…いや、俺もろくでもないな。ハハ…笑えるよ。
いや、諦めんなよ。ついさっき、根気よく行くって言ってたじゃないか。そうだ。
今回はたまたまのはずだ。でも、次の街はきっとだめだな。国という概念があるのなら、いっそのこと隣国にでも行ったほうがいいだろう。
俺の噂が広がってしまっているはずだ。
さぁ、行こう。