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【あと少しで完結します】狐の嫁入り  作者: タラバ虫
第四章 反撃の狼煙
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第五十八話 「筋肉」


 年末ということで、1月3日まで毎日更新したいと思います。


 「はぁ〜〜〜〜〜………。」


 女性のフリをするのはかなり疲れる。

 ここ最近で、身を持ってそう感じた。

 そもそも、俺は男なのだ。

 そう考えれば、今までの俺はよくやっていたと思うよ。


 そこで、たまには男と過ごしたいものだ。

 そう思って俺の知り合いを漁ってみたのだが、なんと驚きの事実が判明した。

 不謹慎だとは思うが、友好的な仲間の殆どが既に死んでしまっている。


 俺を庇って死んだ者もいる。

 俺を逃がすために死んだ者もいる。

 言ってみれば、俺は屍の山の上に立っているようなものだろう。

 ……もう誰も死なせない。

 次は、俺がみんなを守る番だ。


 …話が逸れてしまったが、俺がこう誓ったのは紛れもない事実だ。

 そして、数少ない知り合いを探った結果、近くの男ではスタージェしかいなかった。




 と言うわけで、俺は数日ぶりにヴィルロタワーの四階に足を運んだ。

 だが、いつもならばカウンターにいるはずのスタージェの姿が見当たらない。


 ───…ぬんっ…ぬんっ…ぬんっ…


 代わりに、不気味な声が響いている。


 ───…ぬんっ…ぬんっ…ぬんっ…


 この声がするのは、カウンターの奥の扉からだ。

 恐る恐る近づき、扉の取っ手に手をかける。


 「……スタージェ?」


 扉を開けると、そこには鉄の棒に手をかけ、肩、背、腰、足と、至るところにいかにも重そうなおもりを何十個もつけ、ぬんっ、ぬんっという掛け声とともに懸垂をしているスタージェの姿があった。

 しかも、おもりでよく見えないのだが、注視すると全裸だということが分かる。


 「おぉ、ミアじゃないか!今日も筋トレか?」


 「…………………。」


 その格好で言われても困る。


 「…服着たらどうだ?」


 「おぉ、そうだな、スマンスマン。

 どうも、お前と喋ってると、男と会話している気になってな。」


 それはあながち間違いではないな。

 見た目、体ともに女ではあるが、その中身は男なのだから。


 スタージェは肌に薄く滲み出た汗を拭き、横に置いてあった服を着る。

 ……なんであんな運動の後で、それしか汗が出ていないんだ?

 そう思ったが、筋肉オバケにとってはあれくらいは朝飯前なのだ。…そう思うことにした。




 「で、今日もアレ、やってくのか?」


 スタージェの言うアレとは、この前俺が完敗した、体に重圧をかける水のことだ。


 「いや、閉店後にちょっと時間無いかと思ってな。」


 スタージェの前だと、いつも意識している女言葉をつい忘れてしまうな。


 「ふーむ、別に今からでもいいぞ。店番は他のやつに任せればいいしな。」


 「そっか、じゃあそうしてくれ。」


 「おう。ちなみにだが、どこに行くんだ?」


 ……まだ決めていなかったな。

 商店街、ダンジョン、街の外。

 フィスタの街奪還作戦決行前に行けるところとしたら、これくらいか。

 …ま、ダンジョンでいいか。


 「……ダンジョンだ。」



 ━━━━━



 〜巨大種用ダンジョン 第一層〜


 「おい、本当にこっちでよかったのか?

 魔法が無いと厳しい敵もいるが…。」


 「ん?まだ言っていなかったか。実はな、俺はユニーク魔法が使えるんだ。

 ……何だその顔は?…さてはミア、ユニーク魔法を持っていないのか!はっはっは!

 そう気を落とすな。まだチャンスはあるさ。」


 スタージェまでユニーク魔法を持っているのか………。

 悔しい!!


 「な、なんの魔法なんだ?」


 「それは実際に見たほうが早いだろう。」


 そう言うとスタージェは、近くのトロールとゴブリンの集団へと向かっていった。


 「(筋肉の波動)!」


 スタージェがそう言うと、スタージェを中心に波のようなナニカが広がる。

 距離があるためこちらには届かなかったが、トロール軍団にはもろに波に当たった。

 波に触れたゴブリンやトロールは膝をガクガクと震わせ、立っているのが精一杯という感じになった。

 …どういうことだ?


 「(筋肉の叫び)!」


 次にそう言うと、スタージェの肉体から耳障りな音が聞こえてきた。

 すると、それに共鳴するかのようにトロール軍団たちの筋肉も音をあげ、ゴブリンたちから順に泡を吹いて倒れていった。

 俺にもその音は届き、微かにだが俺の筋肉も音を出していた。

 ほんのわずかだが、疲労感も感じる。

 一方トロールはもう膝がガクガクで、戦意などとっくになくなっているらしいが逃げられない。


 スタージェは近くまで歩み寄り、ジャンプして頭をひと殴りしてトロールを殺した。

 地面には多数の解放石が転がっていた。



 ━━━━━



 「なぁ、あの魔法はなんだ?」


 あんな魔法は見たことが無い。


 「(筋肉魔法(マッスル・マジック))ってんだ。周囲の筋肉を操れるんだよ。

 (筋肉の波動)は、波動に触れた生物の筋力を一時的に低下させる。その代わりに射程が短めだ。

 (筋肉の叫び)は、魔力をを多く消費して筋肉を鳴らして、その音に敵の筋肉を共鳴させて疲労を与えるんだ。

 この二つを組み合わせると強いんだよ。

 ま、魔法のコンボってとこだな。相性がいいんだ。」


 魔法のコンボ……考えたことが無かった。

 まぁ、それ以前に俺は使える魔法が少ないんだが。


 ……そういえば、スタージェは魔法名を言っていたな。

 なぜだろうか?


 「なぁスタージェ。魔法名って、言う必要があるのか?」


 「全然あるぞ。名前を言うことで発動が安定するし、魔力消費もほんのわずかだけだが抑えられる。

 まぁ、かなりの上級者になると意味が無くなるんだがな。

 逆に、下手な者だと名前以外に詠唱が必要になる。

 それ以外だと、強力な魔法を発動するときにも詠唱が必要な場合もあるな。

 ……だが、これくらい常識だろう?まぁ、詮索はしないがよ。」


 ちょっと怪しまれたか?…まぁいい。

 そういえば、詠唱って……勇者の野郎が使っていたやつだよな。

 …なんだか思い出すとムカムカするな。

 いつか仇をとってやる。


 「ありがとう、タメになったよ。」


 「……そんな怖い顔で言われてもな。」


 …おっと、ムカムカし過ぎて顔に出ていた。


 次の投稿は明日の朝一時です。

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