第五十三話 「霊草」
〜第二十二階層〜
「やぁっ!」
ユルムがミノタウロスに向かって火でつくられた矢を次々と放っていく。
その魔法は、一つ一つの威力こそ弱いが、ユルムの魔力と技術をふんだんに使い、恐るべき速さで連射しているため、包括的に見ると馬鹿にできない威力を持っていた。
…が、やはり大型の魔物相手には決め手に欠ける。
そこで、俺の出番というわけだ。
後ろから連射される矢とミノタウロスが振り回す大斧を上手く避けつつミノタウロスに近づき、顎下に掌底を叩き込む。
グゥォオ…!
ミノタウロスが短く悲鳴を上げ、掌底をしたその手を掴む。
そのまま俺を振り回そうとしたが、俺が足を踏ん張ったので俺の体はビクともせず、逆にミノタウロスがつんのめる形になった。
ユルムはそのすきを見逃さず、拘束系の魔法を三重にして放った。
…俺に決めろということか。
足を蹴り上げて脛を粉砕し、次に大斧を奪った。
奪った勢いに任せて体ごと一回転して大斧をミノタウロスの首にぶつけ……ようとしたが、誤って腰にぶつけてしまった。
腰は首よりも太いため、切断するに至らずミノタウロスが死ねずにのたうち回っている。
そこを見かねたユルムが爆発の魔法でとどめを刺してくれた。
「ふぅ、ありがとう。」
「こちらこそ、最後カバーしてくれて、ありがとう。」
お互いの無事を確認しつつ第二十三階層に繋がる階段へと向かう。
その階段はすぐ目の前にあり、目的の霊草が近づいていることを伝えてくれる。
階段を降りる最中、ここまでに獲得した物を確認すると、
・解放石207個
・魔石63個
・魔道具の材料になるらしい薬草や毒草が合わせて37本
といった具合だった。
尚、解放石と魔石は(超鑑定)持ち出ないとわからないため、一括して解放石を270個と伝えた。
「やっぱり、一人で来るときよりも早く来れてる。
それに、解放石や薬草なんかもいつもの倍以上取れてる。
ありがとう、ミア。」
「ううん、私も一応目的があって一緒に行ってるしね。
これくらい当然だよ。」
そう。俺だってただのお人好しで付いてきているわけではないのだ。
もちろん、顔見知りだから、という理由もあるにはある。
だが、本当の目的はこれからユルムが取りに行くと言っている霊草にある。
第十二階層でユルムが、霊草には古傷を癒やす効果があると言っていた。
だから、もしかしたらシエラの目にも効くかもしれないと思ったのだ。
「ん?目的って?」
「ん…っと、あまり、言いたくないかな。」
シエラの目が見えない事は、まだ誰にも伝えていない。
他の子達との交流が本格的に始まる前に治すことができれば、普通の子としての生活を送らせてあげられるからだ。
もし、今のうちからシエラの目が見えないことを周知させ、近い将来、シエラがいじめられるなんてことがあっては、シエラがあまりにもかわいそうだからだ。
だから、まだ伝えるべきときではない。
「そっか。誰にでも言えない事情くらいあるよね。」
「うん…ありがとう。」
「ううん。私も隠し事してたし、今も少ししてるから、お互い様だよ。
出来れば、もっと仲が良くなったら教えてほしいな。
私も教えるから!」
「うん。いつかね。約束する。」
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第二十五階層
第二十四階層でも、かなりの回数の戦闘を経てようやく第二十五階層に着いた。
第二十五階層は今までと変わらず森と川で構成されていて、第二十四階層よりもちょっと魔物の質が上がったかな、程度の変化しかなかった。
「やっと着いたぁ…。」
「その、霊草ってどこに生えているの?」
もし、奥とかだったらダルいなぁ…なんて思いながら質問してみる。
「あぁ、これだよ。」
ユルムがそう言いながら足元の草を指差す。
そこには、確かに今までとは少し形の違う草が混じっていた。
「こ、これ?こんな所にあるものなの?」
「うん。本当はもっと下まで行けばたくさんあるんだけど、ここでも質は変わらないから大丈夫。
さ、採ろ。」
「う、うん。」
俺はユルムが採っている草と同じ形の草を目で見て選び、採る。
ときどき間違えることもあったが、最終的にたくさん採ることができた。
俺はユルムの半分も採れなかったが、片手に抱えるほどもあれば十分だと思う。
逆に、ユルムは両手で抱えても抱えきれない程採っているので持ち帰るのが大変そうだ。
「ユルム、ちょっと持つの手伝おうか?」
そう問い掛けると、意外な答えが返ってきた。
「いや、大丈夫だよ。無限空間使えるし。」
そう言い、空間に穴を開けて、そこに大量の霊草を入れた。
「ミアも入れていいよ。」
「…え?あ、ありがとう。」
お礼をいい、中に入れさせてもらった。
次の更新は、明々後日の朝一時です。




