第十七話 「街」
「私達の戦争に、加担してほしい。」
狼隊長にそう言われた。
また裏切られるのではないか?
そう思ったのだが、称号(裏切られし者)が反応していないことからそうではないと分かった。
しかしなぜだ?
その思いが湧き上がる。
今までさんざん人間に騙されてきた。
差し伸べた手を掴んだ途端にハメられたこともあった。
「俺は今までさんざん人間に騙されてきた。
お前たちは違うのか?」
問う。
返事は、すぐに帰ってきた。
「人間だけだ。転移術式や透明化を使う者を悪魔と呼ぶのは。
なぜそうなったのかは知らないが、獣人にはそのような伝統は無い。
むしろ知性ある者ならばどこの街にでも入れるくらいだ。
たとえ、魔物でもな。
まだ心配なら、もう一つ判断材料をくれてやる。
お前が今抱えている娘はシエラという名前だな?」
っ!
…なぜわかるんだ?
頷き、何故と問う。
「私達獣人の中には相手の表層意識を読み取ることができるものがいる。
そして私は、お前が獣人にあまり悪感情をいだいていないこと、そして人間を憎んでいることも分かる。
その上で言っているんだ。
私達に、協力してほしい。
歓迎する。」
人間はもう信じられないが、獣人ならもう一度信じてもいいかもしれない。
「わかった。協力する。
本当に、街に入ってもいいんだな?」
「当たり前だ。よろしく頼む。」
握手を求められた。
手を前に出されたことで一瞬警戒してしまったが、すぐに解いて手の代わりに触手で、手を握った。
街に入ると、主な住民は獣人だったが、確かにゴブリンやオークなどの魔物もいた。
聞くと、長く生きていたり突然変異したりして知能が上がったりした者がこれらに当てはまるようだ。
今は犬耳の戦士の一人が俺について街を紹介して回っている。
名前はリルと言うらしい。
俺のようなデカイ種族が入ることも想定しているのか道幅はかなり広く、俺が歩いていても余裕があった。
街の住民は俺に驚いているがそれもすぐにおさまるようだった。
それにしても、街の大きさに対してなんだか人が少ない。
そのことについて聞くと、苦々しい顔をしながら返事が帰ってきた。
「今回の戦争は負け戦だという噂が広まってな。半分以上の住民が逃げ出しちまったんだ。
いつもは活気があったんだがなぁ…」
戦士がボヤく。
「戦争に勝ったら、また戻ってくるのか?」
「…あぁきっとそうだ。この街が嫌いなやつなんて居ないだろうしな。
おっと、見えてきたぜ。ここがあんたのシエラちゃんを預けてく場所だ。」
…そんなことは聞いていないぞ?
あとで俺から預けられる場所を聞こうと思っていたから、手間が省けてよかったのだが。
そこは、ちょっと古ぼけてはいるが木造で庭付きののあたたかそうな孤児院だった。
「俺の家族がやってる私営の孤児院だ。建物はちょっと古くせぇけど、ちゃんとしてるぜ。
安心してくれ。」
この人が選ばれた理由はそれか。
扉の前に立ち、ドアノッカーを叩く。
「母さん!いるか?俺だ!リルだ!」
すると足音が聞こえ、ガチャリと言う音とともにドアが開いた。
うさぎ耳の幼女が出てきた。
ずいぶんと小さな母だな。
「リルにぃさんだ!みんなー!きてー!」
違ったようだ。この孤児院の子か?
そして奥からドタドタと複数の足音が聞こえ、たくさんの子供たちが来た。
リルの後ろに俺がいるにも関わらず、元気な子達だな。
そしていつの間にか、犬耳の女性が立っていた。
リルの母親だろう。
「リル、そちらの方は?」
「あぁ、こちらは…えーっと…お名前をまだ伺っていませんでしたね…」
そういえば、俺には名前が無いな。
「俺に、名前は無い。」
そう返すと、先の幼女が声を上げた。
「ドラゴンさん、お名前無いの?
じゃあね、じゃあね、私がつけてあげる!
えっとね、じゃあ、緑色と赤色だから、ミアね!」
なんだか女の子っぽい名前だと思ったが、特に候補も無いし名前なんてどうでもいいので採用としようか。
リルの母親がこらと叱っていたが、別にそれでいいと伝えると、すみませんと一言謝ってきた。
一方、幼女のほうはやったーと喜んでいた。
「では、改めて。
こちらは諸事情あって今回の戦争に味方してくれることとなったミアさんです。
子供を連れているのでここへ預けに来ました。」
「もう、母親相手にそんなにかしこまらなくてもいいのに。
はぁ…わかったわ。細かいことは後で決めるとして、私が預かるわ。
それで?どの子?」
触手のかごから眠っているシエラを出す。
「あら、ドラゴンの子供はドラゴンじゃないのね。
まぁ何でもいいわ。
さぁ、庭で細かいことを決めましょう。」
シエラを中のベッドに寝かせてもらい、庭へと向かった。